新しく生まれるプロジェクトには、多くの人が見る「完成図」の裏側に、そこに至るまでの多くの人々の考えやアクション、努力がある。とかく人気クリエイターにスポットがあたりがちなクリエイティブの世界で、プロジェクト全体を俯瞰し、その舞台裏を通じてプロジェクトそのものに焦点をあてるのが本連載「WEBクリエイティブの舞台裏」である。
第3回「コクリコ坂から×KDDI スペシャルサイト」
スタジオジブリ作品『コクリコ坂から』のキャンペーンサイト「コクリコ坂から×KDDI スペシャルサイト」は、映画にあわせて期間限定で公開されたプロモーション企画である。今回は、この企画に携わったKDDI株式会社の金 山さん(写真右)と藤塚未生さん(写真右から2番目)、舞台となった横浜市の文化観光局・貝田泰史さん(写真右から3番目)、Web制作を手がけた株式会社TYOの榛葉幸哉さん(写真左)に、その制作の舞台裏を明かしてもらおう。
左から榛葉幸哉さん(TYO)、貝田泰史さん(横浜市)、藤塚未生さん(KDDI)、金 山さん(KDDI)
──プロジェクトの立ち上がりは?
金●3~4年前からジブリさんの展示会などで協賛をさせていただいて、そういうお付き合いの流れの中で今回の企画が上がってきました。実際、お話があったのは2010年の夏くらいです。11~12月ぐらいに大枠が決まって、僕たち現場の人間が実際に動き始めたのは年末からでした。
藤塚●弊社では日頃からいろいろなコンテンツプロバイダさんとお付き合いさせていただいていますが、いつかジブリさんともビジネスで関わりたいと社内で話が出ていたので。今回、それが実現できてうれしかったですね。
金●みんな幼い頃、ジブリ作品を観て育ったということもあり、現場はガッツポーズでした(笑)。
──具体的に企画案を考えていくとき、どこから着手を?
金●まず、コンセプトです。実際、映画がどういう内容で展開されるかが見えないと、それに対するプロモーションを考えるのは難しい。でも、ご存知のようにジブリさんの作品はギリギリまで中身がわからないうえ、今回は震災もあって情報の開示が流動的でした。ジブリさんの鈴木プロデューサーと話しているなかで「こういう内容、こういう作品に仕上がっていくのだろうな」と、僕らなりにイメージしながら動いていったんです。だからコンセプトを決めるまでは、すごく時間がかかりました。
──ジブリさんからの提案は?
金●映画の舞台が1960年代の横浜と設定されていて、ジブリさんにとっても舞台を明確にするのは今回が初めてだという話をうかがいました。その中で鈴木プロデューサーいわく「そもそも電話が普及していなかった時代なので、通信環境が整っていない時代の映画とKDDIがどう関わっていくのか、そこを考えてくれ」と。で、みんなでディスカッションするなかで「伝える」というキーワードを重要に考えていこうと決めました。そこで生まれたコピーが「私を、あなたに伝えたい」です。
榛葉●お話をいただいた際にプロモーションのコンセプトが「私を、あなたに伝えたい」というコピーだったので、それをどうとらえてコンテンツに落とし込んでいくか、どのようなコミュニケーションを実現していくのかなど、時間を掛けてみんなで考えました。
──試案の段階ではどのようなアイデアが?
金●いまは電話やメールを使えば、遠方の人とも手軽にコミュニケーションがとれる時代。しかし、いま一度、それを僕らなりに改めて考えていく必要があるのではないかと。すべてを電話やメールで済ますのではなく、実際に会ってコミュニケーションするのが本来の姿ではないか、というのが基本にありました。今回のキャンペーンでも軸として入っているのですが、それがフラッグメッセージという形になった。実際にお客様に来ていただいて、伝えたい人にメッセージを書いてもらうという、リアルでの接点を重視して企画を進めました。僕らは通信会社なので、これまでのキャンペーンはモバイル中心に展開していましたが、今回は逆のアプローチで反映していきました。
榛葉●当初はコンセプトの「私を、あなたに伝えたい」に基づいて、体験型のスマートフォンのアプリ案や、「私を、あなたに伝えたい」瞬間ってどんな時だろう?、その瞬間を切り取って繋ぎ合わせる映像作品をつくる案とか、ソーシャルな場で取り上げてもらえるようなものを提案していました。 Facebookが少しずつ日本で浸透してきていたので、Facebookをコミュニケーションの中心にした案も提案しました。
──それが「FRIEND SHIP RELAY」ですね。
金●弊社がFacebook社と提携したからFacebookを使う、という話ではなかったんです。映画の内容だったり、僕らが打ち出したいコミュニケーションを考えたときに、一番マッチしているものはなんだろうかと考えた。Twitterをはじめ、ソーシャルメディアっていっぱいあるじゃないですか。そのなかからFacebookを選んだ理由は、今回のキャンペーンや映画と親和性があるから。そのあたりは、かなり議論を重ねましたよ。不特定多数に情報を拡散するのはTwitterがよいのでは、とか。しかし、発信する情報を受け止める友人が築けるFacebookのほうが、より映画やキャンペーンに対して近づけるのかなということで。実際、そのあとでFacebookの提携に関する発表があったんです。
FRIEND SHIP RELAY
──セカイカメラの企画もありました。
金●セカイカメラは、なにか題材がないと一般ユーザーにサービスの良さを伝えるのがとても難しい。今回、セカイカメラを通して昔の横浜を見ていただくとか、スタンプラリーをしながらのフィールド・プロモーションで、お客様とのリアルな接点を築けたことは、すごく意義があると思います。Webで昔の映像が見られます、といった単純な話ではなく、僕らのサービスを連動させることでメリットを感じたんです。
貝田●横浜市からするとセカイカメラは、携帯がなかった時代の画像を携帯を通して見るというおもしろさがあるのと、横浜に来ていただかないと見られないという地域限定型のサービスなので、すごくありがたかった。自分たちの求めているものとKDDIさんの持たれている技術がマッチングして、大きなメリットが生まれました。
金●余談ですがキャンペーン当日、横浜に行って大さん橋で実際にセカイカメラを使っているお客様がいて、すごくうれしかった。セカイカメラを使っているシチュエーションを目の当たりにすることって、めったにないんですよ。横浜市さんと組むことで、そういう貴重な体験ができたのかなと思っています。
藤塚●フィールド・プロモーションも同様ですね。いままでWeb系のプロモーションはありましたが、リアルな場所で1カ月半、長期間にわたるフィールド・プロモーションの経験はなかったので、はじまる前まではお客様が来てくれるのか心配で。フタをあけてみたらキャンペーン初日から、ガイドマップを持って横浜のあらゆるところでスタンプラリーを楽しむお客様を目にして、ほんとうに嬉しかったですね。
(左)セカイカメラ (右)スタンプラリーの様子
──Webを使ったキャンペーンはジブリ初ですが、先方はどのような感想を?
金●映画とのタイアップを考えた際、タイアップはあくまで過程であって、最終的に多くの観客が来て盛り上がって初めてハッピーになる話。逆にいえば、映画が盛り上がれば、タイアップ企業にも多くのメリットが生まれます。ジブリさんがどう思われているかは、今後ヒアリングしたいと思っています。でも、数字だけだと判断できない部分があるんですよね。フラッグメッセージの笑顔だったり。
藤塚●スタンプラリーに参加いただいた方にはゴールのポイントでアンケートにご協力いただいたのですが、かなりの方にポジティブな回答をいただきました。プレゼントのU・Wピンズ1万セットもすぐになくなりました。
金●ちなみにフラッグメッセージは別の形で届けようということで、8月25日から9月7日まで横浜マリンタワーで写真展をやりました。
貝田●壮観でしたよ。とても好評でした。
横浜からのフラグメッセージ展(横浜マリンタワー)
配布されたピンズ
──同様のキャンペーン施策の話があれば、またやりたいですか?
金●やります。バージョンアップして。
金山さん(写真左)と藤塚未生さん(写真右)
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エイクエント エイクエントは、1986年米国ボストンで設立、現在世界7カ国に拠点を持ち、マーケティング、デザイン専門の人材エージェンシーとしては世界最大級です。そのネットワークと世界各地で培われたノウハウが、多くのスペシャリストの皆様から厚い信頼と高い評価を受けています。マーケティング、デザイン分野でお仕事をお探しの皆さまはぜひご連絡をください。 |
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