第8回 ツールやスキルに依存しないデザイナーであり続けるために - 秋葉秀樹の人に伝えるデザイン | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第8回 ツールやスキルに依存しないデザイナーであり続けるために - 秋葉秀樹の人に伝えるデザイン

2019.1.18 FRI

秋葉秀樹の人に伝えるデザイン

第8回 ツールやスキルに依存しないデザイナーであり続けるために

2013年10月9日
TEXT:秋葉秀樹


最近、デザイナーから「JavaScriptとPHPでは、どっちのニーズが高いですか?」「いますぐ使えるHTML5スキルを学びたいんですが…」と尋ねられることが多い。そのたびに私は「あなたがやりたいことをやったらどうでしょう?」と答える。

非常に冷たい言いかたのように思えるかもしれないが、それ以上の答えはない。

本連載を通じてお伝えしたかったのは、「いまはツールやスキルに依存せず、つねにデザイナー目線で考えられる人が強く求められる時代だ」ということだ。

最終回となる今回は、私自身の自戒もこめて、強く求められるデザイナーのスキルの考え方をまとめてお伝えしたい。総じていえば、日々の失敗や反省を繰り返して高めていくことで得られることばかりだ。




オペレーションスキルで給料があがるという誤解

求人サイトの採用基準では「Photoshop経験必須、Dreamweaver経験必須、CSSを使った基礎的なコードを書ける人優遇、jQueryを少しだけ…」といった表現をよく目にする。たしかに制作会社は求職者のことをよく知らないわけだから、スキルで価値をはかるのは仕方ない。またツールを使えば作業は高速化し、サービス実現の幅も広がるだろう。

しかし、忘れてほしくないことがある。私たちはつねになんらかの利益を発生させ、そのなかから給料を得ているということだ。つまり、スキルが給料と直結しているわけではないのである。必要なのは「デザインでどうワクワクさせるか、あるいは惹きつけるか」といった考え方や、「プログラムは書けないけどアプリデザインで人を楽しませたい」という欲求だ。これらのほうが、より大事なスキルといえるだろう。


言われた通りの仕事しかできない現場には要注意

もちろん、言われた通りに仕事をこなす人が必要とされる現場はある。しかし、そういった現場は人の代替も効きやすいと思ったほうがよいだろう。また、そういう現場ではアイデアの提案や仕様の確認が多い人が鬱陶しく思われるかもしれない。しかし、別に一生そこで過ごすわけでもないので思ったことを遠慮なく口にしつつ、今後の付き合い方を考えていこう。「ウマがあう、あわない」は人間だからある程度存在するのだ、これは仕方ない。

さらに「私は仕事を請け負っている立場だから意見を述べるのは…」という考えも捨ててかまわない。発注者は想定外となるような、デザイナーとしての視点やアイデアに期待していることが多いからだ。


「私たちエンジニアは絵を描けないからデザイナーはすごい!」…いや、すごくない

良いデザインとは、良い絵が描けることではない。たとえば「良い椅子のデザイン」とは一体どういうデザインだろうか、考えてほしい。1日中座りっぱなしのイベントに行くとして「今日座る椅子のデザインはカッコいいだろうか、ワクワク」と考える人はまずいないだろう。しかし「1日中座りっぱなしで腰が痛くならないかな? クッションをもっていこうかな?」と考える人はいるはずだ。

つまり、良い椅子のデザインとは姿形ではなく、長時間座ってもなるべく疲れない「設計」と定義してまちがいないだろう。

では、Webデザインやアプリデザインに重要なことは、絵が描けることだろうか。いや違う。それよりも、よけいな配色を減らしたり不要なフォーム入力を自動化させて、ユーザーの負担を減らすことがより重要だ。この考え方は、前述の良い椅子のデザインと共通するところがある。


「このデザイン、なんかさびしいんですけど…」には明確に答えよう

発注者に「なんかさびしい」といわれたら、デザイナーはなぜそのようなデザインにしたのか、理由をきちんと説明できるようにしたい。スマートフォンの画面サイズや通信速度が理由であったり、煩雑なコンテンツをシンプルに見せるためだったりと、いろいろあるだろう。そして、その意見が覆されたら発注者の主張に対するデメリットを挙げられるようになろう。もしさらに覆されて、デメリットも挙げられなかった場合は――おそらく最初のコンセプトに対するヒアリング不足や自分の理解不足があったと反省し、すなおに受け止めて修正しよう。


「ユーザーのためにしっかりとした導線を」というけれど…

ユーザーにとってのアクセシブルなリンクは大事かもしれないが、発注者側としては注文を達成してもらうほうが重要だったりする。たとえば注文フォームから離脱させないために、他コンテンツへのナビゲーションを削除することはわりと昔からある手法だ。

また、スマートフォンのネイティブアプリのデザインでよく見かけるが、ユーザーの行動が一直線で完結するなら、ほかのコンテンツに移動しないようにタブナビゲーションをあえて表示しないという選択肢もある。

ナビゲーションは目的達成に対する寄り道や迷い道になることがある。よって削除することは、必ずしも不親切とはいえないのだ。


作業するだけのスキルで安泰などありえない

私のまわりのエンジニアがこぞっていう言葉のひとつに、「エンジニアの仕事は、自分の仕事をなくすことだ」というものがある。驚くべき言葉かもしれないが、筋は通っている。エンジニアが誰でもある程度目的を達成しやすいツールをつくることで、発注者は単純作業であればエンジニアへ依頼せずに行えるからだ。またデザイナーも、CMSやWebフォント、アイコンツール(Font Awesomeなど)、CSSプリプロセッサ(Sassなど)といったように、有能なエンジニアの恩恵をうけて、ひと昔前より制作がかなりラクになっているはずだ。むしろそれらのツールは使えて当然で、1ランク上の能力を求められたりする。

テーブルレイアウトからCSSレイアウトに移行した7~8年前と異なり、現在ではちょっとしたHTMLタグの修正やCSSを使った文字デザインの変更程度であれば、デザイナーに発注しなくてもなんとかする発注者が増えてきた。

逆にいえば、その程度のことに外注費を払わなくなってきた、ということだ。


デザイナーはHTML5時代のためにJavaScriptを学習したほうがよいのか?

向上心をもつ人は、自然と学習するだろう。もし悩んでいる人は、まず一度トライしてほしい。決してきれいとはいえないソースコードでも、動いた感動を味わったら次の欲がわくだろう。おそらくそういう人は、プログラミングも好きになるはずだ。逆になんの喜びも感じなければ、無理に学習する必要はない。

デザインとプログラムが密接に絡み合う場面は多く存在する。たとえば株価など変動するデータは、テーブル内に数値でレイアウトするよりも、SVG要素やCanvas要素を使って折れ線グラフにしたほうがわかりやすい。その際に「どうデザインすればプログラムとの親和性が高いレイアウトになるか」あるいは「なにか制約はないか」などについて、実装するエンジニアへの事前確認が必要だと感じとれるコミュニケーション能力を身につければよい。

また、YouTubeなどが使えない事情のあるビデオコンテンツ案件があったとしよう。video要素はUIの外観がWebブラウザごとに異なるため、統一しようとカスタマイズすると手間がかかる。発注者にカスタマイズしたUIが必要かどうかの確認を促すのも、デザインを起こしたあとでは困難だ。このようなことから、デザイナーにとってWebブラウザの機能とデザインの親密性はつねに学習することが大事だとも考えられる。


最後に

デザイナーが必要とされる場面は、今後増えていくだろう。Webブラウザの機能向上により多様化する仕組みや、仕様が複雑化した現状のWebアプリには、プログラミングスキルやデザインスキルだけでは解決できない問題が多く出てきている。しかし難しく考えすぎることなく、良いと思ったサービスから良い部分を吸収し、さらに「自分ならこうしたい」と思う向上心がとても大事だったりする。

ツールやスキルだけを重視するのではなく、少しでもワクワクできる仕事に触れるチャンスに目を向けていこう。


2013年10月、世界各国のWeb制作者が集まったMozilla Summitにエキシビジョンで参加させてもらった時の風景(場所はシリコンバレー某所)。私は英語が苦手なので人とのコミュニケーションにはとても苦労した、日頃の仕事では同じ日本語で会話ができる、そんな当たり前のことにありがたみをひしひしと感じた(クリックで拡大)




秋葉秀樹

【著者プロフィール】
秋葉秀樹(あきば・ひでき)
株式会社ツクロア(tuqulore) 代表取締役/デザイナー

本業はデザイナー。DTP・グラフィックデザイン・Webフロントエンド全般・Flashゲーム開発・3DCGと幅広く携わる。主な作品は海遊館やサンシャイン水族館とコラボしたAndroid/iPhoneアプリ「Ikesu」。NFC技術を世界で初めて水族館で利用して魚をスマートフォン内に持ち帰られる体験を提供し、2ヶ月足らずで一万人が利用、人の集まる場所に私たちのデザインがどうビジネスに貢献するかをテーマに仕事をしている。
近著に『Firefox OSアプリ開発ガイド』(リックテレコム)。その他、共著として『10倍ラクするIllustrator仕事術』(技術評論社)や『すべての人に知っておいてほしい HTML5+CSS3の基本原則』(MdN)など多数。
2013年4月に株式会社ツクロアを設立。

●株式会社ツクロア:http://tuqulore.com
●秋葉秀樹個人ブログ:http://akibahideki.com/blog/
●Grad3 - Easy CSS3 gradient editor -:http://grad3.ecoloniq.jp/


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