日本アニメ(ーター)見本市から読み解く
アニメ制作現場の“モノづくり”
第1回 POWER PLANT No.33 制作:トリガー/監督:吉浦 康裕
2015年2月6日 Text:秋山由香(株式会社Playce)「イヴの時間」「サカサマのパテマ」の監督として知られる、吉浦康裕氏。今回は、従来の作風とはガラリと趣を変えた「アニメ特撮」の制作に挑戦した。デジタルとアナログ、昭和ノスタルジックと近未来……。あらゆる要素をMIXした、アニメによる新しい特撮の世界とは? 制作のコツや裏話、見どころについて、詳しくお聞かせいただいた。
「イヴの時間」の吉浦康裕監督が放つ、渾身のアニメ特撮!
きっかけを作ったのは、「キルラキル」の美術監督
─― 「POWER PLANT no33」を拝見して、古き良き特撮映画を思わせるダイナミックな対決シーン、昭和テイストでありながら近未来的な世界観に感銘を受けました。こうしたアイデアは、いつごろから吉浦監督の頭の中に存在していたのでしょうか?
吉浦監督(以下、吉浦)● 実は「日本アニメ(ーター)見本市」のお話をいただくだいぶ前から、巨大な生物が登場する作品を作りたいと思っていたんですよね。僕が今まで作ってきたアニメは、どちらかというと繊細な、会話劇のようなものが多かった。アニメ的ダイナミズムのある派手なものは、作ったことがありませんでした。
吉浦● ちょうどそんなとき、僕の盟友であり美術監督でもある金子雄司さんが、「キルラキル」の制作でむちゃくちゃ忙しいにも関わらず、フラフラ~ッとやってきて。突然、「吉浦さん、アニメで特撮ってできると思うんですよね」と言い出したんです(笑)。
吉浦● どうも「キルラキル」を作っている中で、なにか掴んだみたいで。僕自身も「ダイナミックなアニメに挑戦してみたいな」と思っていたときだったので、自然と「それなら、アニメ特撮を作ってみようじゃないか! という話になりました。
1/30に公開された「POWER PLANT no33」。電気怪獣の大暴れが見もの!
(c) nihon animator mihonichi LLP.
―― 金子さんがおっしゃる「アニメ特撮」とは、具体的にどのようなものだったのでしょうか?
吉浦● 最大の特徴は、“美術で描いた怪獣が動く”という点だと思います。「風の谷のナウシカ」の王蟲のシーンをイメージしていただけるとわかりやすいと思うんですが、あれがまさに美術で怪獣――厳密には怪獣ではありませんが――を動かしているシーンなんですよね。しかも今なら、セルでなくデジタルで動きをつけることができる。
対決相手のロボットも美術で描かれている。手描きのテクスチャをCGに貼って仕上げた |
吉浦● 強いて言えば撮影畑の僕の力量も試される、とても挑戦しがいのあるテーマだと感じたことを覚えています。ただ、美術の金子さんと撮影の僕とが、思い切り対峙しなければならないわけで……。当初は「ケンカ別れになっちゃうかもね~」なんて言いながら作り始めたんですよ(笑)。
ふたりがいたからでき上がった、最高のストーリー
―― 世界観やストーリーは、どのようにして作り上げていったのでしょうか?
吉浦● 金子さんと意見を出し合いながら、二人三脚で作っていきました。最初に金子さんから、「とある街のエネルギーを巨大怪獣が供給していて、そこにロボットが現れてバトルになる、みたいな展開はどうでしょう」というアイデアが上がってきて。それに対して僕が「それなら怪獣は、電気怪獣ということにしたらどうだろう? しかも、最初は電気に依存していたけれど、それが使えなくなるという筋書きにしたら面白いんじゃないか」とストーリーを加えていきました。
吉浦● さらに「怪獣とその他大勢の逃げる人、となると物足りないから、かわいらしい女の子をひとりだけフィーチャーしてはどうか」と。こうしてストーリーを作り上げ、企画書を作っていきました。
―― おふたりの感性がぴったり合っていたからこそ、うまく進められたのでしょうね。
吉浦● う~ん、それはどうでしょう(笑)。僕はどちらかというと「平成ガメラ」や「パシフィック・リム」ような、最近の特撮が好きなんですが、一方の金子さんは、着ぐるみ感のある昔懐かしい特撮が好きなタイプ。好きな特撮作品のベクトルは少し異なっていると思います。
吉浦● そんなふたりが共通して心惹かれてしまう“特撮の魅力”が、理屈抜きのワクワク感。大勢の人がいて、その横に電柱があって、奥にはビル群や東京タワーがあり、さらにその向こうで、やたら大きい怪獣が戦っている。こういう、なんの説明もいらないエンターテインメント感がたまらないんですよね。ですから、「手前の世界を緻密に描く」「怪獣は思いっきり大きく描くということだけは、ふたりとも、ものすごく意識をしていました。
吉浦● また、緻密かつダイナミックな世界が、まるでそこに実在しているかのように描くことにも心を砕いています。アニメ的リアリティとでも言いましょうか……。実写以上に「らしく」見えるよう、随所に、アニメでしかできない表現や演出を散りばめました。
街の奥をゆっくりと歩く電気怪獣。手前には鉄塔やネオンサインが
(c) nihon animator mihonichi LLP.
【プロフィール】
吉浦 康裕(よしうら やすひろ) /1980年生まれ。九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)にて芸術工学を専攻。平成15年3月、同大学卒業。大学時代に自主制作でアニメーション制作を開始し、作品を国内外で発表する。卒業後に個人制作アニメ「ペイル・コクーンを発表、DVDを販売。その後、東京に移住。Webアニメ「イヴの時間全6話を制作し、さらにその後「劇場版 イヴの時間を全国で公開する。2013年に劇場アニメ「サカサマのパテマ」を全国公開。続く2014年には「アニメミライ2014にて短編「アルモニ」を公開。
●スタジオリッカ:http://studio-rikka.com/