第2回目 Kanón | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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日本アニメ(ーター)見本市から読み解く
アニメ制作現場の“モノづくり”


作画もセリフも壊れている? 見る者を試すアニメ作品

Kanon

第2回 Kanón 監督:前田 真宏/演出:吉崎 響

2015年3月16日 Text:秋山由香(株式会社Playce)




「僕が作るから、壊してほしい」。前田監督の無茶ぶりが炸裂!?

―― ここからは演出の吉崎響さんにも加わっていただきます。吉崎さんは、どの段階で制作に参加することになったのでしょうか?

吉崎さん(以下、吉崎)● 絵コンテとコンテ撮が出来上がったぐらいの段階で声をかけていただきました。監督が絵コンテ、演出、作画、キャラクターデザインまでやられていて、僕はそれらを受けて、どう作品世界を構築するか考えるような役割を任されています。

―― 初めて絵コンテをご覧になったときは、どうお感じになりましたか?

吉崎● まったく理解できませんでした(笑)。脚本を読んでやっとわかるようになったのですが、今度は監督から「僕が作るから、君がこの世界を壊してくれ」という高度なオーダーがやってきて……。途方に暮れたことを覚えています(笑)。

前田● 一見複雑そうに見える「Kanón」ですが、物語自体は一本調子で、ある意味すごくわかりやすいんですよね。だからこそ吉崎さんに、あえて壊してほしかった。作品をもっともっと面白くしたい、そんな期待を込めて、いきなり「壊してほしい」とオーダーしちゃいました(笑)。

吉崎● ところが、監督、美術さん、作画さんから上がってきた素材が、思いのほかアバンギャルドだったんです。最初は、その場のノリで素材を追加しようとか、写真など実写を差し込んでしまおうなどと考えていたのですが、壊す余地もないくらいいい感じで、最初から壊れた素材がやってきたんですよね(笑)。

 あまりにも面白く壊れていたので、作り始めると逆に、ついつい整理する方向に走ってしまって……。他の現場ではなるべく「綺麗に、丁寧に作ること」を意識していることもあって、なかなかうまく壊すことができませんでした。最終的に、画面設計というベースの設計図を作ってから、撮影監督さんと話し合いつつ、絵を壊したり、盛ったりして遊びを加えました。撮影さんにはややムチャ振りになってしまいましたが、面白い絵に仕上がったと思っています。

リリスのまわりにオーラがまとわりつけたエフェクトシーン リリスのまわりにオーラがまとわりつけたエフェクトシーン
撮影監督を務めた平林さんと吉崎さんによる撮影WORK。作中で一番処理の重いカットとなった
(c) nihon animator mihonichi LLP.


誤訳を採用することで、呪文のようなセリフを生み出した

―― 壊れていると言えば、セリフもいい感じで破壊されているなあと感じました。シナリオはどのように執筆していかれたのでしょうか?

前田● チェコ語の原作をWeb上の機械翻訳で日本語化していきました。狙ってやったわけではなく、たまたま機械翻訳にかけたらすごく面白かったので採用した、という感じですね。本来なら「最後の打撃」と訳すところが、なぜか「最後のストライキ」になっていたり、「Egove(エゴバ)」という人名が「電子政府(E-government)」になっていたり……。他にも“迷訳”がたくさんあり、シナリオを執筆する中で、言葉の意味が壊れることの面白みのようなものを感じました。誤訳をそのまま使うことで、シュール・レアリストの詩のような不思議な魅力が生まれ、作品全体のおかしさがいっそう際立ったと思いますね。

吉崎● 僕は誤訳を採用することで、立派なことを言っているように見えるアダムが、実は理解し難い無意味な言葉を喋っていた、という構造になっているところが面白いなあと感じました。

前田● しかもアダムたちキャラクターが話す“チェコ語 → 英語 → 日本語”と誤訳しまくって生まれたとんちんかんな日本語をさらに四苦八苦しながらもう一度英語に戻し、最終的に字幕にしているんです。字幕が一番マトモですので、視聴されるときはぜひ注目してくださいね(笑)。

字幕とセリフを突き合わせた場面
字幕とセリフを突き合わせると、なにを言っているのかがよくわかる。本来のセリフと、誤訳のおかしさ、両方をじっくり味わってもらいたい
(c) nihon animator mihonichi LLP.


約8分の短編アニメにも関わらず、30分のセリフ量!

―― セリフの面白さも去ることながら、ボリュームにも驚きました。とんでもない量のセリフが怒涛のように放出されている。声優さんは、さぞご苦労されたのではないでしょうか……?

前田監督と吉崎さん
前田監督と吉崎さん。異なる世代のふたりが協力して制作に臨むことで、デジタルとアナログの融合が実現できたという
前田● それが、びっくりするほどスムーズに進めてくださったんです。セリフの量は、30分のテレビアニメと同じぐらい。山寺宏一さんがひとりで7役ぐらい演じつつ、喋って喋って喋りまくってくださいました。

 アダムをはじめとする男性キャラを演じてくださった山寺さんだけでなく、女性キャラを演じてくださった林原めぐみさんも、さすがのカンの良さ。「短編だって聞いてたのに……」とボヤきつつも、すぐに「面白い!」とノッてくださいました。アフレコの総時間は、2時間ぐらいだったと記憶しています。ほとんどリテイクをかけることなく、すごいスピードで終わりました。山寺さん、林原さんのマシンガントークに、さらに圧縮をかけているのですが、圧縮してピッチが上がった音声になっても、まったく問題なく、しっかり演じ分けができていた。これには「さすが!」と感動しましたね。

吉崎● 音楽も、またカッコイイんですよね。ただ、セリフだけを聞いていると「いかにもコメディ」という感じがするんですが、音楽が乗っかるとものすごくシリアスに感じられて、笑っていいのか、深刻に受け止めたほうがよいのかわからなくなってしまいました(笑)。が、これも前田監督の構想のひとつと受け止める様にしていたのですが……。

―― その辺りも狙いなのでしょうか?

前田● いえ、偶然です(笑)。黒瀧節也さんに作っていただいた曲が本当に良くって、あんまりイジりたくないとすら思ったんですけど、最終的にはそこに効果音が乗って、セリフと音楽をつなぐ役割を果たしてくれた。すごくいいバランスでまとまってくれたと思いますね。


「見る者を試す」、挑戦的なアニメ作品

―― 出来上がった作品を見て、どのようにお感じになりましたか?

前田● 思ったよりもイイ感じにまとまったなあ、という印象を受けました。作画もいい、声もいい、音楽もいい、エフェクトもいい。けれど、ひとつひとつのデキがあまりに素晴らしく、主張が強かったので、「これがぶつかり合ったらどうなっちゃうんだろう……」という不安みたいなものもあったんですよね。

 ところが上がりを見たら、どういうわけかめちゃくちゃカッコよく仕上がっていた。明確な目標を立てて、そこを目指して行ったと言うよりは、技術の高いスタッフが集まった結果、こうなったのだと感じました。

吉崎● ストリートミュージシャンが集まってセッションしたような感じですよね。奇跡みたいなメンツが揃ったから、うまく行ったんだと思います。出来上がったものを見て、僕は「見る者を試す作品だなあ」と感じました。何度見てもどう解釈したらいいのか迷ってしまうし、いろいろな捉え方ができてしまう。しまいには、作品に試されている自分の姿そのものがコメディなのかな……という気もして。見るたびに心が揺れるような、不思議なアニメですよね。

前田 ● 「Kanón」というタイトルには、作中に出てくる象徴的なオブジェクト“否定の大砲”と、中世ヨーロッパの法典『カノン法大全』の、ふたつの意味が込められています。ネットなどで調べつつ見ていただけると、より楽しめるかもしれません。

 いろいろな意味で、「日本アニメ(ーター)見本市」以外の場では、絶対に制作できない作品。いろいろな目線、解釈で、ぜひ繰り返してご覧になってみてくださいね。

もともとの絵コンテ
なによりも苦労したのが、尺を短くすること。17分のアニメを、8分にまで短縮した。
もともとの絵コンテは、このボリューム! 後半はバッサリカットしたという




第13話「Kanón」
原案:Karel Čapek『Adam stvořitel』より
監督・脚本:前田 真宏
舞台演出:吉崎 響
キャラクターデザイン:前田 真宏/井関 修一
制作:スタジオカラー


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吉崎 響

【プロフィール】
吉崎 響(よしざき ひびき)/1980年生まれ。映像ディレクター。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。高校卒業後、ガイナックス、スタジオ4℃に出入りするようになり、以降、多くのアニメ作品のCG・モニターグラフィックデザインに携わる。代表作は「マクロスF」、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」など。「日本アニメ(ーター)見本市」で、監督作「ME!ME!ME」を発表している。その他、アーティストのMVなどのディレクション実績も豊富。

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