にわかに盛り上がる「マンホールカード」、その人気を支えるデザインに隠された秘密

(取材・文:阿部愛美)
「最近、『マンホールカード』というものが流行っているらしい。面白そうなので開発者に話を聞きに行ってみない?」というものだ。
流行の対象が「マンホール」というだけでもちょっと意味が分からないが、それがカードになってコレクションされる謎の現象が起きているという……、本当か?
編集部から教えてもらったWebサイトをさっそく確認してみると、確かにあった。「『マンホールカード』は配布先に足を運ぶことで無料でGETできます!」と書いてある。
マンホールカードとは、下水道のマンホールのふたが印刷されたカードのようだ。それも、全国各地でそれぞれ異なるカードが配布されている。
無料ならば、と自分の用事を済ませるついでにもらってみようかと思い、配布場所に立ち寄ることにしたのだった。

「あ、あの〜……。“マンホールカード”ってありますか……?」
「……は?」とか言われたらどうしよう、という私の不安とは裏腹に、女性は慣れた仕草で専用カウンターに案内してくれた。
差し出された用紙に、自分の名前や住んでいる都道府県を記入して簡単なアンケートに答える。書き終えると、笑顔で「どうぞ」とカードを手渡してくれた。
おお、これがマンホールカードか……!
表にはマンホールのふたの写真と位置座標、裏にはデザインの由来が印刷されている。紙はしっかりと厚く印刷もきれいで、デザインはシンプルながら作り込まれていた。正直、想像していたよりもずっと立派だ。
![[ 第5弾/東京都 23区 ] 葛飾区に本社を構える株式会社セキグチが生んだ「モンチッチ」が デザインされている](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201806/001-1_s_180603142516.jpg)
[ 第5弾/東京都 23区 ]
葛飾区に本社を構える株式会社セキグチが生んだ「モンチッチ」が
デザインされている
う〜ん、やはりこれは取材に行ってみるしかなさそうだ。

「マンホールカードは2016年4月よりスタートしました。4月に導入されたばかりの第7弾では新しく49種が導入され、シリーズ累計で342種のカードが発行されています」
マンホールカード発案者の山田秀人(やまだ・ひでと)さんは、「2年でここまで増えるとは想像していなかった」と嬉しそうに笑う。
「生活に必要不可欠なインフラでありながら、下水道システムには汚い・臭い・不衛生などネガティブなイメージをもたれがち。この状況を打破すべく、下水道を維持する各都市や団体、下水道関係企業により組織されたのがGKPです。マンホールカードは、下水道の真の価値を伝える活動の一環として誕生しました」
「下水道のマンホールのふたは、基本的に“ご当地もの”なんです。各地方自治体がオリジナルで製作しています。その種類は、安全上の配慮から<色なし>が一般的ですが、モンチッチのように華やかな見た目の<色つき>もあります。加えて、入れ替え可能な<プレート>、そして<シール>の4種類に大きく分けることができます」

上から北海道、東北、関東……と、エリアごとに色分けされている
![[ 第6弾/東京都 多摩市(B0001) ]](attach/images/topic_rtrorqrusqprpw_201805/002-2_180521212101.jpg)
[ 第6弾/東京都 多摩市(B0001) ]
![[ 第6弾/滋賀県 彦根市 ]](attach/images/topic_rtrorqrusqprpw_201805/002-9_180521214421.jpg)
[ 第6弾/滋賀県 彦根市 ]
![[ 第1弾/岡山県 岡山市 ]](attach/images/topic_rtrorqrusqprpw_201805/002-6_180521214150.jpg)
[ 第1弾/岡山県 岡山市 ]
![[ 第4弾/福井県 勝山市 ]](attach/images/topic_rtrorqrusqprpw_201805/002-3_180521214150.jpg)
[ 第4弾/福井県 勝山市 ]
![[ 第1弾/北海道 札幌市 ]](attach/images/topic_rtrorqrusqprpw_201805/002-4_180521214508.jpg)
[ 第1弾/北海道 札幌市 ]
![[ 第3弾/愛媛県 八幡浜市 ]](attach/images/topic_rtrorqrusqprpw_201805/002-00_180521214508.jpg)
[ 第3弾/愛媛県 八幡浜市 ]
● プレートタイプと色なしタイプ
(プレートタイプは一回り小さなプレートがはめ込まれたもの。入れ替え可能なため期間限定などが多い)
![[ 第5弾/神奈川県 川崎市 ]](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201808/002-11_180521212733_180827175437.jpg)
[ 第5弾/神奈川県 川崎市 ]
![[ 第1弾/岡山県 倉敷市(A001)]](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201808/002-5_180521212733_180827175437.jpg)
[ 第1弾/岡山県 倉敷市(A001)]
![[ 第1弾/東京都 23区 ]](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201808/002-7_180521214225_180827175437.jpg)
[ 第1弾/東京都 23区 ]
![[ 第3弾/三重県 松阪市 ]](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201808/002-8_180521214225_180827175437.jpg)
[ 第3弾/三重県 松阪市 ]
![[ 第5弾/大阪府 泉南市 ]](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201806/003-1_180603143431.jpg)
[ 第5弾/大阪府 泉南市 ]
左下に書かれている位置座標は、緯度、経度の度・分・秒で表されている。そのため、「Google マップ」に打ち込むと、その場所を示してくれる仕組みだ。
※試しに位置座標を入力してみよう。設置されているご当地マンホールの場所を知ることができる
なるほど、コレクターがいるというのも確かに頷ける。見ているだけで楽しい。しかし、ほかの多くのカードと異なるのは、対戦などのゲーム性を備えていない点だ。
「マンホールのふたは公共物なので、優劣をつけたり勝敗を決めるのはふさわしくないと考えています。ですので、マンホールカードのコンセプトは極めて明快です。“集めて楽しい”ことです。そのために、全種類コンプリートだけでなく、色分けされた9つの地域、都道府県、テーマを分類したピクトグラムなど、自分だけの好きなカテゴリーで集められるよう、細かく設計されています」と山田さん。

○カードの表面/右上部分
続いて、カードの表面を見てみよう。右上には数字が見える。これは左から、<都道府県コード>、<市区町村コード>、<デザインの種類・数量>にあたる番号となっている。カードを1枚見ただけでは理解できないが、例えば<都道府県コード>であれば、01の北海道から47の沖縄までナンバリングされている。<デザインの種類・数量>は、同一自治体が発行するカードをA、B、C……の順で割り振っている。数量は、同一デザインのマンホールで位置座標が異なる場合に使用する。

○カード表面/位置座標右部分に描かれたアイコン
左から、花の76、キャラクターの29、海の30となる

○カード表面/右下部分
全体の206番目、関西ブロックの31番目、大阪府の16番目、
泉南町の1番目を意味する
ただ眺めるだけでも楽しいけれど、深く楽しみたい人も追求できる。その間口の広さが、マニアから素人まで楽しめる秘密なのだ。
「ほかにも、カードの統一感にはとても気を遣いました。マンホールの周りに映り込む地面は、すべてアスファルトの地面を合成しています。その土地ならではの景色が映り込むのも魅力的だったのですが……、結果的にはマンホールのふたが際立ったのでよかったと思っています。ほかにも、全国共通のフォーマットと印刷の品質、サイズ、材質、色彩が全体で揃うように、すでに発行されたカードと比較しながら作っています」
コレクションカードとしてのクオリティを徹底して追求することで、マンホールというニッチなアイテムでありながら、一般の人たちが興味を持つ環境づくりが整えられている。

カードの読み解き方について説明する山田さん
マンホールカードの配布は下水道関係施設を中心に行なわれる。役所や下水道処理場、下水道の展示施設、観光案内所などだ。カード1種類につき1カ所のみの配布。そのうえ、手渡しでの配布となれば、地方自治体の負担も大きいはずだが……。
「マンホールカードを取りに来る人の6割は、県外から訪れていることがアンケートにより分かっています。マンホールを通して下水道に理解を深めてもらいたい想いで作ったカードですが、各自治体にとっては観光のきっかけづくりになっているんです。企画当初は想像していなかった嬉しい効果でした」

倉敷市役所の下水道広報チームが自主的につくっている「ご当地マンホールガイド」。マンホールカードと一緒に配布されている


一方で、「意図せずレアになってしまったカードは存在します」と山田さん。
そうそう、そうこなくっちゃ!
「レアカードは、大きく分けて2種類存在します。一つめは、配布条件が厳しいもの。この2枚がそうですね」
そう言って見せてくれたのは、東京に住んでいる人間なら誰もが馴染みのある東京23区マンホールカードと、広島東洋カープのマスコットキャラクター・カープ坊やが描かれた広島市のマンホールカードだ。
「これは、予約をして下水道関係施設を見学した人だけがもらえるものです。曜日や時間もかなり限定されています。どちらも人気のデザインですが、コレクションをする上では手に入れにくい鬼門のカードですね」
観光ついで気軽にもらえるものもあれば、スケジュールをやりくりしないともらえないものもある。なかなか厳しいようだ……!!
では、二つ目はどんな場合だろうか。
「文字内容やレイアウトを変更した場合も、レアカードと呼ばれることがあります。例えばこの水戸市のファーストロットは、位置座標が間違っていたものですね。これは数100枚配ってから間違いに気がつき、回収しました」
改変が加えられたものは、 裏面に数字として形跡が残る。
これらはいわゆる不良品と呼べるものだが、コレクターにとっては垂涎もの。コレクター魂を揺さぶるのだ。

左から<製造年月日>、<修正回数>、<製造ロットナンバー>。
この場合は2017年12月に発行され、修正0回、1ロット目となる
![[ 第1弾/茨城県 水戸市 ] 1ロット目のカード。 右と比べてみると座標が間違っていることがわかる](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201806/mito01_180603144800.jpg)
[ 第1弾/茨城県 水戸市 ] 1ロット目のカード。
右と比べてみると座標が間違っていることがわかる

こちらが2ロット目のカード。裏面を見れば、
一度デザインの修正があったカードだとわかる
![[ プロトタイプ/神奈川県 横浜市 ] プロモーション用に作られた](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201806/IMG_2614_180603144851.jpg)
[ プロトタイプ/神奈川県 横浜市 ]
プロモーション用に作られた
![[ 第2弾/茨城県 つくば市 ] 唯一例外的に英語版が存在する。今後のインバウンド効果を意識しているそうだ](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201806/IMG_2622_180603144851.jpg)
[ 第2弾/茨城県 つくば市 ]
唯一例外的に英語版が存在する。今後のインバウンド効果を意識しているそうだ
![[第6弾]大阪府 泉佐野市 カードのデザインに制限がある分、右下QRコードの リンク先は各自治体に委ねているという](attach/images/special_rmrurqrsrtsmrt_201806/004-1_180603144938.jpg)
[第6弾]大阪府 泉佐野市
カードのデザインに制限がある分、右下QRコードの
リンク先は各自治体に委ねているという
「各自治体と一緒にカードを作っていく上で、デザイン上絶対に譲らない一つのルールがあります。それは“マンホールカードはマンホールのカードでなければいけない”ということ。カードの裏面はこのデザインの由来が書かれていますが、マンホールのデザインにまつわることしか入れないようにしています。各自治体は、観光のツールとして配布してくれているので街の情報を入れたい。けれど、そうなってしまうと何のカードなのかあやふやになってしまうので、心を鬼にして断固たる態度をとっています」
集める楽しさに徹したコンセプトと、マンホールのふたに特化したカードのデザイン。人気の秘密はここに隠れていたのだ。

「ぜひマンホールサミットにも足を運んでみてください。マンホーラーによるトークショーが行なわれますよ」
サ、サミット……!? マ、マンホーラー!?
せっかく寄り添ったニッチなマンホールワールドから、また突き放された想いでドキドキしていると、山田さんはこう説明してくれた。
「グッズを通してマンホールの楽しさを伝えるのがカードならば、イベントを通して楽しさを伝えるのがサミットです。今では年に1〜2回開催されており、これまでに7回開催されました。去年は埼玉の川越と岡山の倉敷で行なわれ、次回は11月3日に北九州・北九州市芸術劇場での開催が決定しました」
マンホールサミットは、トークショーをメインイベントとし、グッズの販売会と、実物マンホールを展示する展示会がセットになっているという。昨年は3000〜3500人規模で行なわれたというから驚いた。

各地にある本物のマンホールを展示

コレクション欲を刺激するマンホールグッズ
関係者自ら下水道を「汚い・臭い・不衛生」のイメージがあるとしながらも、スローガンを掲げて下水道システムの価値を高めようという試みには、誇りが感じられた。
マンホールカードは、都市と地方、そして地方を結ぶ新しい架け橋になるかもしれない。ヒントは意外にも、足下に落ちていたのだ。
北九州市下水道100周年を記念して下水道広報プラットホーム(GKP)と北九州市上下水道局が共同で実施
日時/2018年11月3日(土・祝)
会場/北九州市芸術劇場 中劇場、小倉城周辺
住所/福岡県北九州市小倉北区室町1丁目1−1 リバーウォーク北九州
入場料/無料
時間/9:00~17:00
主催/北九州市上下水道局、下水道広報プラットホーム(GKP)
※イベントの内容や事前登録などについては、GKPホームページで随時お知らせあり

●下水道広報プラットホーム(GKP)
住所/東京都千代田区内神田2-10-12
(公益社団法人日本下水道協会内)
TEL/03-6206-0205
URL:http://www.gk-p.jp/
<書籍情報>
「マンホールカード コレクション 1 第1弾~第4弾」
GKPマエプロ著、スモール出版
価格1944円
2018/05/24




