Designer meets Designers 04 レポート
Webクリエイターが知っておくべき
成功に導く企業サイト制作の法則
web creators編集部が送るWebクリエイターのためのイベント、それが「Designer meets Designers(D2)」だ。4回目の開催となる今回は、「企業サイト制作」がテーマ。多くの企業サイトを手がける5名のトップクリエイターが壇上に立ち、成功する企業サイトを制作するためのポイントについて語った。D2でしか聞くことのできない充実の講演、その内容をレポートする。
※本コンテンツ中の社名表記や肩書きなどは、イベント開催当時のまま表記されています。あらかじめご了承ください。
企業サイトならではの
制作ポイントが次々と明らかに!
さまざまな企業サイトを手がけるトップクリエイターが集結し、企業サイトならではのWebデザイン手法やリニューアルの実践ノウハウ、設計・デザインのトレンドなどについて計4SESSION、約5時間にわたって余すところなく披露された。
企業サイトの制作は、つねに高いニーズを誇っているWeb案件のひとつ。それだけにWebクリエイターたちの関心も高い様子で、今回も開演前から用意された約400の席がほぼ満席になる盛況ぶりを見せていた。そんな中、まずはweb creators編集長・佐藤弘基が登壇。
「私たちweb creators編集部は、『D2』の前身となる情報イベント『web creators conference』から数えて約6年半、こうしたイベントを開催してきました。その経験を生かして、本日も現場のWebクリエイターの方々に役立つ、最新の業界ノウハウをお届けしたいと思います」
このようにあいさつすると、会場は一気に盛り上がりを見せた。ほどなく、盛大な拍手とともにD2が開幕。参加者の期待が膨らむ中、待ちに待ったSESSION 1がスタートした。
しっかりした戦略・設計が
成功のカギを握る
SESSION1のゲストスピーカーは、数々の大規模企業サイトを手がけることで知られるネットイヤーグループ・坂本貴史氏。「そのサイトがそのデザインである理由」というテーマで、まずは企業サイトを制作する際のワークフローから説明していった。
「弊社の場合、Webサイトを制作するときは、だいたい『戦略→設計→制作→運用』というワークフローで進めています。このフローの中で、特に大事で、また弊社が得意としているのが、『戦略→設計』の部分。今日はこの部分について詳しく手法や考え方を説明します」
このように口火を切ると、ネットイヤーグループならではの体制について説明が始まる。さらに、制作に入る前に多くの時間をかけて“サイトコンセプト”を固めておくことが重要だと、「日本公文教育研究会」(www.kumon.ne.jp/)のWebサイトを例に挙げつつ解説が行われた。
「サイトコンセプトを立案する際に役に立つのが、聞き取りというスタイル。具体的には、Webサイトやブランドに対するユーザーイメージを明確にする定性調査という方法です。たとえば、学習塾でおなじみの『日本公文教育研究会』の企業サイト。弊社がリニューアルを担当したのですが、制作に入る前にキーマンとなる人物にヒアリングを行ったり、実際に公文式の塾に通う親子にグループインタビューを行ったりして、企業サイトに対するイメージやニーズ、課題などをまとめました。こうした調査を通して、最初にしっかりとサイトコンセプトを設定することが大事。コンセプトがしっかりしていれば、完成までの過程でWebサイトのイメージがブレるようなことはなくなります」
続けて、サイトコンセプト同様に重要な“表現指針”について説明。その企業がどんなことをしていて、何を目指しているのか(ブランドアイデンティティ)と、ユーザーがその企業に対してどんな印象を持っているか(ブランドイメージ)を比較して、表現に落とし込む手法を解説した。
「ブランドアイデンティティとブランドイメージを比較することによって、何がユーザーに伝わっていて、何がユーザーに伝わっていないかがハッキリとわかるのです。そうすると、自然に『では、どんな表現のWebサイトを制作すればいいの?』、『どんなキーワードやメッセージを伝えればいいの?』というところが見えてくる。これをまとめたものが、表現指針なのです」
こう説明し、ネットイヤーグループが実際に日本公文教育研究会の案件で作成した表現指針やキーワードマップ(言語スケール)を公開。その他、サイトカラーを決める際の資料やデータなどが惜しみなく披露され、参加者たちも熱心に前方のスクリーンに見入っていた。
最後に、サイトコンセプトと表現指針から導き出されるデザインについても言及。企業サイトに求められるレイアウト、構造、ナビゲーションなどについての情報がたっぷりと語られ、参加者の興奮が冷めやらぬ中、充実のSESSION 1が終了した。
主役のビジュアルを決めて
デザインに取り組もう
そんな黒須氏が選んだテーマは「企業サイト制作におけるデザイン手法」。SESSION 1の坂本氏が“戦略→設計”に焦点を当てて講演を行ったことに対し、黒須氏はそのあとの作業である“デザイン(制作)”に的を絞って、ピンポイントなSESSIONを展開していった。
まずは簡単に、企業サイトの役割を説明。「ブランドイメージの向上」、「商品の直販」、「IR」、「企業のメッセージを伝える」という4つの役割を紹介し、こうした役割を果たすWebサイトを制作するために重要なのが「ポイントのあるデザイン」だと訴えた。
「企業サイトをデザインする際、もっとも意識してほしいのが『最初に重要なデザインポイントを決めておく』ということ。よく経済の世界で『80:20の法則』という概念が引き合いに出されますが、僕はデザインにも、この『80:20の法則』が当てはまるんじゃないかと考えているんです。すなわち、デザインのイメージを左右するのは20%の重要な部分で、あとの80%は、言葉は悪いですがそれほど大切な要素ではないのかと。とにかく20%の重要な部分をしっかりと決めて、ポイントのあるデザインに仕上げることが大切だと思います」
こう語ると、「au by KDDI」(www.au.kddi.c
om/)や「TOKYO FM 80.0MHz」(www.tfm.co.
jp/)などの企業サイトを例に挙げ、次々と「Webサイトの中で重要なデザインポイント」と「そうでない個所」を解説。主役のビジュアルを事前に決めておくことが、いかに大切かを説明した。
その他にも、ビジュアルとコピーをうまく組み合わせることによってどのような相乗効果が生まれるか、欧文フォントを選ぶ際の注意点など、さまざまなポイントを紹介。細かくメモを取る参加者も多数見受けられ、黒須氏の講演にすっかり引き込まれているようだった。
最後に黒須氏が「いろいろなことをお話ししましたが、良い企業サイトとは結局、企業にとって利益のあるWebサイトということになると思います。長い目で見て、その企業にとって利益が生まれる表現を追求することが、Webデザイナーとして大事なのです」と述べると、参加クリエイターたちも納得した様子。わかりやすくていねいなテクニック紹介、そして経験によって培われた力強い言葉に、会場全体が静かな熱気に包まれているようだった。
現場を見て体感することが
質の高いWebサイトを生む
「僕たちがこれからお話しするテーマは『企業サイトリニューアルの実践ノウハウ』。これだけ聞くと、なんだか堅苦しい内容になりそうだと思われるかもしれませんが、あまり難しいお話はしないつもりです。専門的な知識やテクニックについては、他のSESSIONでも十分に語られてきましたので、僕たちはあくまでもマインドの部分をお話しします。経験から導き出されたシンプルなポイントをお伝えしますので、リラックスして聞いてください」
木下氏がこう語ると、会場前方のスクリーンに太田氏が描いたかわいらしいイラストが映し出された。続けて木下氏が「プレゼン用のスライドはすべて太田が趣味で描いているイラストで構成しています」と補足説明をすると、会場は一気に和やかなムードに。参加者たちからも笑顔がこぼれ、皆ゆったりとSESSIONを楽しんでいるようだった。
その後は、同社がリニューアルを手がけた「Wedgwood」(www.wedgwood.jp/)、「防衛省・陸上自衛隊」(www.mod.go.jp/gsdf/)、「博報堂ブランドデザイン」(www.h-branddesign.com/)の3サイトが紹介され、各サイトを制作する中でどんなことを意識し、進められたかが語られた。
「『Wedgwood』のWebサイトを制作するときは、実際に東京・渋谷にあるティールームへ行ってお茶を飲みましたし、『防衛省・陸上自衛隊』のWebサイトをつくるときは、陸上自衛隊広報センターに行って戦車に乗せてもらいました。このように、実際にクライアントのところへ行って、現場を見て、体感したことをWebサイトに生かすことが大事だと、僕たちは考えています」
太田氏のイラストや現場での写真をスクリーンでたっぷり見せながら、両社がどのように現場を体感し、Webサイトに生かしたかを克明に解説。また、「博報堂ブランドデザイン」のリニューアルを行ったときは、徹底したヒアリングが役立ったと語った。
「博報堂ブランドデザインは、ブランディングを専門に行うチームです。ところが、この『ブランディング』というものは、一般の人に伝わりにくい。それではブランディングをわかりやすく伝えるWebサイトを制作しようということになり、まず僕たちが、ブランディングとは何かを理解するところから始めました。クライアントのところへ何度もうかがって、勉強会のようなものを開いてもらって……。ヒアリングというよりは、クライアントと一緒に何度も徹底した勉強ミーティングを行ったというイメージですね。それがプラスになって、ブランディングについてとても深く理解でき、なによりクライアントとの連帯感が生まれました」
最終的にはクライアントとひとつのチームをつくり、Webサイトを制作することに成功したとのこと。こうした地道な努力が、クオリティの高いWebサイトづくりにつながるのだろう。その様子がよくわかる、非常に充実したSESSIONとなった。
企業サイトを通して行う
ブランディングとは?
なかでも参加者たちの注目を集めたのが、最新のトレンド情報だ。多くの企業がいま、企業サイトにブランディングを求めていること、そして企業サイトによってブランディングを行うことの難しさが語られると、参加者たちの視線が一気に西野氏へと集まった。
「少し前までは『アクセスを上げたい』や『使い勝手をよくしたい』といった、わりと解決しやすい要望が多かった。ところがいまは、『Web上でブランディングを行いたい』という企業が、ものすごい勢いで増えてきています。ブランディングというものは、制作ノウハウだけでは対応できない領域。各企業の理念、環境、経営戦略などを深く理解し、まずコーポレートガバナンスを構築するところから始めなければなりません。非常に複雑で難しいテーマだと思いますね」
このように語ると、続けて具体的なコーポレートガバナンスの構築方法や、ガバナンスを強化し、さらに企業のファンを育てていく方法について説明。併せて、ガバナンスに基づいたトーン&マナーやクリエイティブコンセプトを提案することの大切さを説明した。
「Webサイトを通してブランディングを行うには、ビジネスとクリエイティブを結び付ける作業が必要です。そのために弊社が行っているのが、まずガバナンスに基づいたサイトカラーやトーン&マナー、クリエイティブコンセプトを決めるという、ビジュアル・アイデンティティ立案のプロセス。こうしたことをしっかりと行ってから制作に移ることが重要だと思います」
他にも、企業サイトを通したブランディングのテクニックを多数紹介。また、韓国の注目企業サイトを紹介するなど、海外の動向についてもしっかりとフォローし、集まった参加者たちは大いに刺激を受けたようだった。
こうして、5時間以上にわたって行われたD2が終了。長時間の開催にもかかわらずほとんどすべての参加者が全SESSIONに出席し、また、販売コーナーも相変わらずのにぎわいを見せていた。
■ゲストプロフィール
坂本貴史氏(ネットイヤーグループ) |
黒須信宏氏(クロスデザイン) |
木下謙一氏(ラナデザインアソシエイツ) |
太田伸志氏 |
西野敦彦氏 (ユナイティア)
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文=秋山由香((株)Playce)
撮影=飯田昌之