田島照久さんインタビュー(2) | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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スポットインタビュー 浜田省吾とともに駆け抜けてきた30年の記憶 横浜・赤レンガ倉庫「浜田島」THE HAMADA ISLAND 田島照久さん(Thesedays)に聞く


制作から出力まではすべて田島さん自身の手で。手前のプリントが『Born in 1952』のリマスター作品だ
制作から出力までのすべてを田島さん自身の手で。手前のプリントが『Born in 1952』のリマスター作品だ


田島照久の考える“浜田省吾像”を思いのままに表現

──田島さんと浜田省吾さんとの関係性についてお聞かせください。

田島●実はデザイナーでこんなこと言う人はあんまりいないかもしれないんだけど、僕はあくまでも、ジャケットはアーティストのものだと思っているんです。ジャケットをデザインする際、ふつうデザイナーって自分の意見を主張するものですよね。アーティストが「こうしたい」と言っても「いや、そうだけど、ここはやっぱりこのビジュアルでしょう」とかって。

でも、浜田さんの場合、僕にはそうした気持ちがまったく起こらない。彼がこうしたいと言ったら、そうする。彼の頭の中にあるイメージに何か強大なものがある気がするんですね。僕自身が浜田省吾の音楽のファンですから、表現がちょっと難しいんですけれど、「ただ、基本的に力になりたい」と思っているんでしょうね。なんとか彼の表現している世界をつくるのに少しでも力になりたいという。誰に対してもそうなのではなく、僕と浜田さんの関係の中で築かれているものです。そういうアプローチがいいことか悪いことかはわからないんですけれど。

──今回もそのような作品が中心となるのでしょうか。

田島●ところが「浜田島」ではそういう“縛り”から解き放たれて、「田島照久が考えるロックアーティスト浜田省吾像とはどういうものだろう?」という視点でそのほとんどを作っているんです。

たとえば『初秋』というアルバムのジャケット。浜田さんの描くイメージを確認したうえでの僕の中でのイメージがあるんですが、商品として出来上がるまでのプロセスにおいてさまざまな人たちの意見が関わってくると、当初のイメージとはかけはなれた結果になることが通常です。初秋といったら、普通は誰でも“秋の空”とか“オレンジ色”って思い浮かべますよね(画像・上)。でも、僕の美学はこっち(画像・下)なんです。だから「浜田島」では、そうした束縛なく、30年間ずっとずっと僕の中で、こういうのが正解かなという思いもたくさんあった作品を、まさに展示してしまうものになりますね。

『初秋』のオリジナルのジャケットデザイン。こちらが市場に流通しているもの
『初秋』のオリジナルのジャケットデザイン。こちらが市場に流通しているもの
(C) 2009 The Hamada Island, Road and Sky, Thesedays, all rights reserved.

制約を取り払った田島さんの『初秋』のイメージ。このような作品を「浜田島」では多数観ることができる
制約を取り払った田島さんの『初秋』のイメージ。このような原初的な作品を「浜田島」では多数観ることができる
(C) 2009 The Hamada Island, Road and Sky, Thesedays, all rights reserved.



彼の曲の中に、“セピア色に……”とか“コンビナートが……”といった歌詞が出てくることがあります。だからといって、工業地帯のビジュアルを入れたレコードジャケットを作るかというと作らない。世界観から大きくは外れていないんだろうけれど、それは彼の中では「ノー」かもしれない、というのをおもんばかって、僕もアイデアの時点でスポイルしちゃっているところがあるんです。

でも、こういう工業地帯とかコンビナートとか、僕は大好きなんです。今回はレコードジャケットをつくるのではないし、この空間で味わうことなので、この「浜田島」は思いっきり僕のイメージのままに表現してみようという趣旨なんですよ。

──制約のない原初的なイメージを再現した展示内容ということですね。

田島●ですね。極論を言えば、そのモチーフがたまたま浜田省吾ではあるけれど、田島照久の展覧会であるという位置付けです。“浜田省吾色”の強さを期待している人に対して100%応えているかどうかはわからない。個々の作品の中には「こんなふうにされちゃって」みたいなところもあるかもしれない。でも、5人に1人くらいは「こっちのほうがいいね!」という人もいるかもしれない。今以上にデザイン的だろうし、今以上に近代的だろうし、新しいなにかが生み出せると思っています。

「浜田島」では、田島さんの考える“浜田省吾像”が思いのままに表現される
「浜田島」では、田島さんの考える“浜田省吾像”が思いのままに表現される
(C) 2009 The Hamada Island, Road and Sky, Thesedays, all rights reserved.


──ファンではない人にも興味深い内容といえますね。

田島●どなたにも楽しんでいただける空間だと思います。浜田省吾と聞いただけで受け付けない人もいると思う。それはどんなアーティストだってそうですから。でも、そこをなんとかそんな人たちにも来てもらって、この世界観にはまってもらえたら、ひょっとして「結構いいじゃない?」「真剣にCD聴いてみようかな?」と思ってもらえるかもしれない。そういうアプローチができたら本当にこの「浜田島」をやってよかったと思いますね。

僕は浜田さんの「DADDY'S TOWN」という曲がすごく好きなんですけど、彼の曲はどれも情景描写がすごくきれいなんです。詩として素晴らしいのはもちろんで、その純文学のような世界感が、流れるようなメロディに乗って展開されていくのですが、それを聴いていると、その情景が嫌でも目に浮かんで来て、僕はどうしてもその絵をつくりたくなってしまうんです。

それだけじゃなく、これは音楽の展覧会ではないので、音楽は流れているけど、やっぱりビジュアルを楽しむ空間づくりにしているし、ゆっくり絵を見てもらえればと思います。そこで「いいじゃん、このコンビナートの感じ!」って感じてもらえたらうれしいですね。

──ありがとうございました。

(取材・文:MdN Interactive 鴨 英幸/2009年6月29日)

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浜田省吾●1952年広島県生まれ。アルバム「生まれたところを遠く離れて」で76年ソロデビュー後「愛の世代の前に」「Sand Castl e」「J.BOY」など数々のヒットアルバムを発表。「悲しみは雪のように」「もうひとつの土曜日」「I am a father」などの楽曲で知られる。ライブ活動として「ON THE ROAD」と銘打ったツアーを80年代から続けているが、98年に始まった「ON THE ROAD 2001」は4年に及ぶツアーで127ヶ所196公演を数え60万人を動員した。また数万人規模の野外イベント「A PLACE IN THE SUN」を各地で開催している。最新オリジナルアルバムは05年の「My First Love」。08年には最新のツアーを収録したDVD「ON THE ROAD 2005-2007 "My First Love"」を発表、DVDとしては驚異のベストセラーを記録。

田島照久●1949年福岡県生まれ。多摩美術大学卒。CBS/SONYの勤務を経て、自身のデザインプロダクション、Thesedaysを設立後、浜田省吾、尾崎豊をはじめとするミュージシャンの撮影とアート・ディレクターを務める。以降、仕事はエディトリアル、ポスター、広告、写真集、書籍の装丁などグラフィック全般に及ぶ。早くからデジタル・コンテンツに取り組み、94年に世界初のCGによる恐竜写真集「ディノピクス」を発表、欧米でも出版される。アニメのパッケージとして「攻殻機動隊」「機動警察パトレイバー」シリーズ、漫画本の装丁として「バガボンド」等。著書は浜田省吾写真集「ROAD OUT」、尾崎豊写真集「FREEZE MOON+」、ガンダム写真集「GUNDAM PHOTOGRAPHY」、小説「ホラー・マーケット」等10冊を超える。

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