Kindle Oasis、よくできた端末だがそれ以上でもそれ以下でもない

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Kindle Oasis、よくできた端末だがそれ以上でもそれ以下でもない


Kindle Oasis、よくできた端末だがそれ以上でもそれ以下でもない

2016年4月18日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)


Amazonの最新電子書籍リーダー Kindleの最上位機 Kindle Oasis が、2016年4月27日に発売される。結論から言うと僕は買わない。雑誌やコミックを読むためには(つまり見開きページによる表現手法を採用しているコンテンツを読むには)iPadがあるし、通常の書籍であればiPhoneで読めるからだ。僕はソフトウェアとしてのKindleを愛しているが、ハードウェアを新たに買い足そうとは思えない。

確かに、読書をするためだけに作られた専用機であるKindleは、スマホや他のタブレットに比べれば目に優しいし、読みやすい。動画や画像の閲覧やその他のアプリの利用を前提に作られている端末では、バックライトを採用せざるをえないからどうしても目に負担がかかる。Kindleはフロントライトを採用し、日差しの下でも光の反射を十分抑えることができる。

さらに、専用機として、Kindle Oasisはページをめくるという用途に絞り込んだ物理ボタンを用意し、読書体験を紙の本のそれに極力近づけることに成功している。

Kindle Oasisは、一度充電すれば1日30分使用したとしても最大数ヶ月バッテリーを持たせることが可能(バッテリー内臓のカバー装着時)であることも、スマホで読書をするユーザーには大きな利点になるだろう。さらにWi-Fiだけでなく、無料で3G回線を利用できるので、クラウド環境に無限に保存される書籍をいつでも呼び出し、読むことができる。同じことはもちろんスマートフォンでもできるが、回線料やパケット代がかかる。

こうしたことから、ヘビーな読書家には、スマホと別にカバンに収める対象として、Kindleを買うという選択肢は確かにあるのかもしれない。

しかし、実際にはKindle Oasisの価格は35,980円と高価であり、これを買う、というユーザーはやはりそう多くない、と僕は考える。また、Kindleは書籍を読むにはいいが、雑誌には向かない。モノクロだし、あの細かいレイアウトを表示するにはまだ小さいのである。

僕の持論というかオリジナルのロジックに「カバン内シェア」という考え方がある。マーケティングに通じる大事なものだ。

考え方自体は非常に簡単だ。通常の人間は外出時に持ち運ぶカバンの中に入れられるモノしか持ち運べない、という当たり前の事実を考えると、我々が携帯できるモノは自ずから、そのカバンの中に入れて毎日持ち運ぶ、という選択肢の中でシェア争いをしなくてはならない。持って歩くのがしんどい重さになったときに、取捨選択から外されたものはカバン内シェアから脱落する。つまり市場から脱落する、というシンプルな考え方である。

これは実はカバンの中に限ったことではなく、物理的な大きさに制限がある空間に何かを収めるときには必ず適用される。クルマにしても家の中にしても、オフィスのデスクにしても、とにかく物理的な大きさに制限があるとき、必ずシェア争いが存在していると考えるべきなのだ。

カバンの中に何を入れるか。通勤や通学にそれなりの時間と忍耐を使う社会人にとっては結構切実な問題だ。

まず財布はいまのところトップにくるだろう。次が鍵。女性ならスマホをカバンに入れるかもしれないし、化粧ポーチも必須だろう。学生なら教科書、ビジネスマンならさまざまな書類やノートパソコンあるいは書籍などが入ってくる。この時点で、カバンは相当重くなっている。

通勤時間という、ある意味強制的に作られた可処分時間を人々は音楽を聴いたりメールを打ったり、本や雑誌、新聞を読んだりして過ごす。ある人はゲームをして時間をつぶすが、この基本的に身動きできない制限された空間と時間の中にあっては、できることは限られている。

新聞や雑誌、書籍などは、スマートフォンによってシェアを落とした。読み物、という目を使う行為であれば、新聞を読みながらスマートフォンを触ることができず、カニばる(共食いする)からだ。財布や鍵は安泰かというとそうでもない。電子マネーがスマートフォンに完全にバンドルされるようになり、鍵も物理的なものから電子キーに変わっていくのも、時間の問題かもしれない。

あらゆる生活シーンの中で『カバン内シェア』の考え方を適用することで、市場のシェアを推測できる。機能やデザインとしては必要だし愛用したいが、毎日カバンに入れて歩くか、ということを考えたときに、カバンの中に入れておく優先順位に入るかどうか、下位であってもいいけど、脱落したら、それはもう価値ゼロ、ということなんだと考えるべきだ。カバンの中にいれておけるモノの数は、結局そうそう変わらない。そのシェアに入る商品になるかどうか。

そう考えると、Kindle Oasisは、いまだに紙の本(単行本でも文庫本でも)を持ち歩いているユーザーには刺さるかもしれないが、すでにスマホでの読書に移行してしまったユーザーのカバン内シェアに再び枠を空けるのは難しかろうと考える。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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