「Siri+iPadで実現する!? ナレッジ・ナビゲーターの世界」(つづき)



「Siri+iPadで実現する!? ナレッジ・ナビゲーターの世界」(2/2ページ)
2010年4月2日

TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)



Siriも音声認識を行うが、たとえばグーグルのそれが単純に音声をテキスト化し、検索のクエリーとしてフィードするのに対し、Siriは意味解析まで行ったうえで、それに基づいて検索処理をする。






「Siri」のアイコン



パーソナルアシスタントアプリSiriの初期画面。音声で問い合わせられる質問の例が並んでいるが、構文的にもかなり自由なことがわかる




これがSiriの音声入力画面。いささか素っ気ないデザインだが、普通に英語で話し終わったところで青いボタンをタップすると解析が始まる




青い枠のフキダシ内は、ユーザーリクエストの認識結果。緑の枠のフキダシ内には、そのリクエストに基づく処理結果(この場合にはレストランの予約)の確認が、より明確な英語で記述されている




「マジソンスクエアガーデンで何が行われているか」という質問に対し、それは「何のイベントが行われているか」という意味であるとSiriが解釈し、ピックアップした情報をリスト化して表示したところ




「一番近いスターバックスまで道案内してほしい」というリクエストに対して、Siriは住所を示し、道順マップや評価コメント、電話発信ボタンなどをアレンジした画面を表示する


たとえば、「table for 2 at 9 at boulevard(ブルバードで9時にテーブル席2つ)」と話した場合、グーグルの音声認識では「table」は文字通り「テーブル」、「2」や「9」は単なる数字でしかなく、「boulevard」にはもともと「大通り」の意味があるために、極端な場合には「大通り沿いの家具屋」の情報がピックアップされる可能性がある。今、実際に試したところ、検索結果リストのトップには「『Niagara Fallsview Boulebard』ホテルへのリンク情報が載ったFacebookのページ」が表示された。

もちろん本来の意味は、「9時にブルバードレストランにテーブル席2名分の予約を入れたい」ということだ。Siriは、これが予約のリクエストであることを正しく理解し、その場合、「boulevard」は「大通り」ではなく、ユーザーの現在地から一番近いレストラン名であると認識。さらに、レストランの営業時間やわざわざ予約を入れるという行為自体からの類推で、「9」が午前9時ではなく午後9時であることもきちんと把握する。

そして、日付や曜日の指定がないことで、今日から一番近い日取りで空席のある曜日を見つけ出した結果、「A table for 2 is available at Boulevard at 9:00 pm(ブルバードでは、金曜日に2人用のテーブル席が空いています)」と表示してくれるのだ。

実のところ、こうした処理は、かつてアップル社がNewtonプラットフォームに実装していたアシスト機能に近い。その時は、インターネットが普及する以前のことだったので、あくまでも機器内のデータが対象だったものの、それがネットにまで拡張していけば、Siriのようなサービスへと進化した可能性もある。

Siriは、さらに「ロマンチックな場所」などのような属性にも対応し、適切な候補をピックアップする。Siriのアプリとサービスは無料で、最終的にはSiriを通じて予約があったり、商品の購入につながった場合に、アフィリエイトとして利益を得るビジネスモデルを考えている。

いずれにしても上記のような属性までもカバーするには膨大なデータの蓄積とタグ付けが必須であり、それが(英語以外の言語の認識技術と並んで)Siriが今のところアメリカ向けのサービスに留まっている理由だ。だが、現実にこのような処理が可能になった以上、ナレッジ・ナビゲーターが想定していた、タッチによる位置指定とボイスコマンドによる処理内容の指定という、自然なマンマシンインタラクションの現実化も視野に入ってきたと言える。

たぶん、アップル社もグーグルも、社内的には同様の意味解析まで含めた音声認識の技術開発はかなり進めているはずだ。しかし、実用化を急ぐのであれば、Siriの買収という方法も十分考えられるのではないかと思うのである。

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。


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