Xperia vs. iPhoneの構図から見えるもの



Xperia vs. iPhoneの構図から見えるもの(1/2ページ)
2010年4月27日

TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

4月になってから、モバイル業界的に大きなできごとが3つあった。

ひとつは、ドコモのAndroid端末「Xperia X10」(以下、Xperia)の発売。ふたつめは、「iPhone OS 4.0」の発表。そして、もう3つめは、1~3月期としては過去最高の売上高、利益を記録した米Apple社の四半期業績である。

iPhone OS 4.0についても近々書くつもりだが、Xperiaがそれなりに話題となり、筆者も週刊誌やテレビの情報番組から意見を求められたりしたので、先にそちらに関する感想を記しておきたい。


先見性と不整合

まず、Xperiaは、ほかのAndroid端末との差別化を図る意味からもソニー・エリクソン独自のインターフェイスを搭載しており、その点ではかなり頑張っているという印象だ。特に、メディアコンテンツをローカルとネット上の区別なくシームレスに扱う「Mediascape」や、時系列に沿ってメールやFacebook、Twitter、mixiなどのコミュニケーション履歴を表示する「Timescape」は、今後の情報アクセスのひとつの形となるだろう。

ただし、Android端末であるにもかかわらず、GmailアプリのメールはデフォルトではTimescapeには反映されず、Eメールとして設定してはじめて表示されるようになる。Twitterアプリなどの標準装備をセールスポイントとしてうたうなら、このあたりも標準で対応していて良かったのではないかと思う。

一方で、Xperiaの実機を操作して感じたのは、細かな操作系の不整合や不合理性だ。

たとえば、標準のカメラアプリで、独立した物理キーとして存在するシャッターボタンを押して撮影すると、最新4枚の写真データが画面下にあるバー状のサムネールエリアに表示される。このサムネールエリアは左右にスクロールして前後のイメージが閲覧できそうに見えるのだが、実際には対応していない。

なぜ、スクロールできそうに感じたかと言えば、MediascapeやTimescapeの画面にも、写真や動画、メール、mixi、Facebookなどを切り替えるためのバーがあり、カメラ機能のサムネールエリアがそれらと似たイメージをもっているためだ。そして、写真を撮るたびにサムネールが右にずれて、左端に最新の画像が追加されることから、操作法の類推が起こるものと思われる。

また、端末の正面下部には3つのハードウエアキー(左から、操作メニュー表示、ホーム画面に移動、ひとつ前に戻る)が並んでいる。操作メニュー表示の例としては、カメラアプリから写真アルバムを呼び出したときに、削除したいイメージがある場合、そのハードウエアキーを押すとゴミ箱アイコンを含むメニューが下からせり出してくるので、これを利用することになる。

しかし、同じカメラアプリ内でも、サムネールをタップして写真を表示させた場合には、最初からゴミ箱アイコンなどが画面内にオーバーレイ表示される。このとき、操作メニュー表示のボタンを押しても、何も出てこない。たぶん、撮影直後のイメージは、その場で削除する可能性も高いと考えた結果、そのような処理になったのだろう。だが、ハードウエアキーを用意した以上、すべての場面で(表示内容は異なるとしても)統一的な動作が起こらなければ、ユーザーは混乱する。

また、アプリケーションの販売サイトも、本家のAndroidマーケットの他にドコモマーケット(当初はAndroidマーケットにリンクを貼る案内サイトの体裁だが、通話料金との連結決済が可能になった時点で独立したダウンロードサービスへと移行する)も立ち上がるなど、一枚岩とは言えない状況にある。

さらに、Androidにおいてグーグルはハードウェアに関する責任を負わないという基本姿勢を持つため、iPhoneやiPadのようにハードから開発ツール、アプリ販売サービスまでを一貫して支えるバックボーンがないことに懸念を表明する開発者も出てきている。

もちろん、プラットフォームに関するすべてを一元管理するというアップル社のやり方にもそれなりの弊害はあり、特にアプリの審査体制への不満から開発を断念するソフトハウスもないわけではない。しかし、Android市場でも、大手ゲームデベロッパーのゲームロフト社のように、Android市場では採算がとれずに、早々と撤退を表明してiPhone/iPadアプリに専念するところも現れている。それはまさに、iPhoneのほうが市場として確立していることの証だと言えよう。

したがって、少なくともここしばらくはEvernoteのような一部のアプリやサービスを除いては、デベロッパーの指向性やポリシー、ビジネスモデルなどに応じて、どちらかのプラットフォームに特化したアプリ開発を進めるところが多くなりそうだ。


Xperia

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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