Xperia vs. iPhoneの構図から見えるもの(つづき)



Xperia vs. iPhoneの構図から見えるもの(2/2ページ)

2010年4月27日

TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

インターフェイスの煮詰め方に疑問

さらに、カメラアプリ内で写真アルバムを閲覧中にホーム画面に移動し、あらためて写真が撮りたくなってシャッターボタンを押したとする。このとき、起動してほしいのはファインダ画面状態のカメラアプリのはずだが、実際には写真アルバムが表示される。

確かに、アプリを離れた時の状態が再び呼び出されたと考えれば、論理的な整合性はあるものの、ユーザーがシャッターボタンを押すのは、やはり写真が撮りたいためと解釈すべきだろう。

Android 1.6ベースのXperiaがマルチタッチ対応でないことは、すでに広く知れ渡っている。そのあとの開発者の話では、マルチタッチの非サポートはハードウエアにも関連しているとのことで、ファームウエアやOSのアップデートを行っても実現できないようだ。

マルチタッチがすべてではないが、Androidという広いくくりで考えた場合、マーケットに存在するマルチタッチアプリ(特に弦楽器や鍵盤楽器系の演奏アプリなど)がXperiaでは利用できないのは残念だ。

また、写真や地図の拡大をマルチタッチで行うメリットは、確認したいポイントを中心として瞬時に、かつダイレクトに拡大が行えることにある。シングルタッチのXperiaでは[+]ボタンで拡大を行うわけだが、とりあえずイメージやマップの中心から拡大し、そのあとで見たいポイントに移動させる方式となっているため、指先でデータを直接操っている感覚には乏しい。

細かい使い勝手で言えば、リストスクロールの終端でバウンスバック処理(テキストリストやグラフィックスがわずかに跳ね返ったように見せて、それ以上スクロールできないことを知らせるフィードバック手法)がなされなかったり、写真などを削除した際にも、アニメーションなどを使ったフィードバックがなく、急に削除されてその部分が埋まるため、全般的に動作が唐突に感じられることが多い。

海外版Xperiaのミニバージョンの次期インターフェイスでは、写真や地図上で注目したいところを長押しすると、その位置に[拡大・縮小]ボタンが出てくるようになっており、バウンスバック処理もインプリメントされる見込みだ。いずれ日本版でもそのような操作法に移行するものと思われる。しかし、長押しでは必ず待ちの時間が入るため、ダイレクト感が損なわれる。


Xperia X10 mini


意外なのは、MediascapeやTimescapeでは、浮遊しているような複数のサムネールイメージを指の動きに合わせてカバーフロー的に動かせるのに、写真アルバムでは、指でイメージをフリックしてもページめくりのようなアニメーションもなく、1、2秒待たされてから次のイメージに単純に置き換わることだ。

たぶん、iPhoneを使った経験がなくてXperiaを購入したユーザーは、きっとiPhoneもこんな感じだと思ってしまうかもしれない。しかし、将来的に似たレベルにまで到達することがあるとしても、現時点では、Windows 95が登場したときに、これでPCもMac OS並みのインターフェイスになったと言われたのと同じような誤解や誇張が感じられる。

ドコモのマーケティング的なスタンスはともかく、上記のことをいちばんよくわかっているのは、ソニーエリクソンのハード/ソフト/インターフェイスエンジニアたちであろう。特許絡みの制約、Appleとは異なる開発スケジュールなど、いろいろとたいへんなことは理解できるが、彼らの一層の奮起に期待したい。


XperiaのWebサイト(http://www.sonyericsson.co.jp/product/docomo/so-01b/



マスコミはどこを向いているのか?

その上で、Xperiaを採り上げるときのマスコミのスタンスも気になった。

たとえば、ある民放のテレビ番組で、街角でiPhoneを使っている人たち(女性と、カップルの2組)にインタビューを行う場面。「何をしているのですか?」との質問に、どちらも「スマートフォンをいじっています」などと答えるのだが、これは、ちょっと不自然だ。

ふつう、iPhoneユーザーにそのような質問をすれば、「iPhoneを使っている」と答えるはずで、わざわざ「スマートフォン」をもち出すとは考えにくい。特集の冒頭でキーワードを提示するための演出なのだろうが、違和感が残った。

別の情報番組でも、登場するユーザーの多くがiPhoneを使っているのだが、テロップはあくまでも「スマートフォン歴○カ月」。プラットフォームによってアプリの種類や数が異なる以上、その人が利用中のアプリを紹介するにあたって機種名は重要なはずだが、視聴者に特定のバイアスを与えないための配慮のようだ。

さらに、ある週刊誌には「iPhoneはアプリの数が多すぎて、理想のものを見つけるのがたいへんだから、最初からmixiやTwitterアプリの入っているXperiaのほうが入門用には断然有利」という主旨の意見まで載っていた。ものは言いようである。

いずれにしても、4月のXperiaの国内販売台数がiPhoneを上回っている状況は、かつてiPodの新型が発売される直前に一時的にWalkmanが国内音楽プレーヤー販売シェアを巻き返したときに似ている。本当の勝負は次期iPhoneが発売される初夏から始まり、さらに言うならば、真の戦場は世界市場ではないだろうか。

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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