今、トップクリエイターが注目するWebのトピック 第4回「バーチャル VS リアル」



今、トップクリエイターが注目するWebのトピック 第4回「バーチャル VS リアル」
2010年8月5日
TEXT:遠崎寿義(ザ・ストリッパーズ株式会社 代表取締役・クリエイティブディレクター)

毎回Webやグラフィックのクリエイティブの最前線で活躍しているトップクリエイターが、いまWeb制作の世界で話題になっていること、注目していることなどを取り上げて語ります。
今回のクリエイターはザ・ストリッパーズ株式会社の代表取締役・クリエイティブディレクター、遠崎寿義氏。「バーチャル VS リアル」について語ります。

本連載の第一回の馬場氏の記事(今、トップクリエイターが注目するWebのトピック 第1回「ARとVR」)を見て思うところがあり、それに乗っかる形で書くことにする。馬場氏の記事はたいへんおもしろいので、まずそちらを見てほしい。

現実と仮想の切り分けは一体どこにいくのか、融合するのか分離されるのか。AvatarのCMは10年後には当たり前になるのか、ちょっと考えてみたいと思う。




●時代を先取りしていた「SKIM.com」
もう10年近く前の話だが、コミュニティサイトがもてはやされていた時期に登場したサービスで「SKIM.com」というサイトがあった。確かヨーロッパの会社だったと思う。この会社は、オンラインで洋服やカバンなどを販売していたのだが、特殊なのはそのアイテムにユニークなIDが付いていて、それが実はメールアドレスになっている点。街中で同社のバッグをもった人を見つけたら「[そのID]@skim.com」にメールをすると、本人とコミュニケートができ、掲示板などのコミュニティサイトも用意されていた。バーチャルとリアルの垣根を飛び越えようとしたサービスだが、いつの間にかなくなってしまった。時代を先取りしすぎたのかもしれない。


●AvatarのCMに必要な技術は?
今はどうなのだろうか。とりあえず、AvatarのCMに必要な技術を検証してみよう。

◆Step 1
まず必要なのは現実の人を認識する技術。たとえばiPhoneやAndroid端末のカメラを人に向ける。iPhoneはあまり使っていないのでよく知らないが、Android端末のカメラには顔認識機能がついているし、最近のデジタルカメラには「スマイルシャッター」機能もついている。まず顔を認識することは可能だ。

◆Step 2
次にこれがどこのだれかを判定する。ここはいまのところちょっと難しいが、最近の画像認識は進化しているようで、「TinEye」という類似画像検索サービスがあるし、Androidアプリだと「goggles」というとった写真と似た画像を検索してくれるアプリも出ている。残念ながらこれらのサービスで自分の顔写真を撮って送ってみたが、僕がだれかはわからなかった。だが、顔画像のデータベースがあればかなりの程度で推測できそうな気がする。

◆Step 3
では、顔画像のデータベースはどこにあるだろうかと考えてみると、どうもありそうだ。

登録者が5億人を超えたという「FaceBook」。FaceBookにパーティなどの写真をアップしてみよう。FaceBookにアップした写真に人が映っていると、その人をクリックしてタグ付けをすることができる。タグといっても「風景」とかそういうことを入力するのではない。自分と友達になっている人のアカウントをタグとしてひもづけるのだ。あなたの友達の写真を見てみてほしい。タグ付けされていれば、あなたがだれか全然知らない人であっても、名前を知り、その人のページを見に行くことができてしまう。FacebookとTwitterやGoogle、Yahooのアカウントをリンクしたりしている人も多いだろう。あぁ恐ろしい。



TinEye


●バーチャルな人とリアルな人を結びつける
これらのことから、Facebookがその気になって画像認識技術をもっている会社と組んで地理情報なども組み合わせれば、バーチャル上の“その人”を特定できそうだ。あるいはGoogleが準備していると噂される「Google Me」というSNSではそれができる可能性すらある(参照記事「「Google Me」はFacebookに対抗するための武器になるか」)。ついでに言うと、CIAなんかはもうやってるかも。いかにもやってそうだ。

そして、後は特定した情報をiPhoneやAndroid端末を通して、リアルな人をバーチャルに重ね合わせればいい。

このような技術が登場すれば、スカウター型のAndroid端末とか出てくるに違いない。

アニメ「東のエデン」に出てくる「東のエデン」システムでは、顔写真を投稿したらそれがだれかをみんなが即座に書きこんでくれるという仕組みが登場するが、現実世界ではもっとエレガントにできそうだ。

●バーチャル世界のステータス
コリイ・ドクトロウという人が2003年に書いた「マジック・キングダムに落ちぶれて」というSFに「ウッフィー」という評判をベースにした通貨が登場するそうだ(僕も読んでないのだが)。よい行いをした人に与えられ、悪いことすると没収される。ヘッドアップディスプレイを通して他人を見ると表示され、それがステータスになる。

小説の外の、バーチャルな社会の中ではすでにそうなっている。Twitterのフォロワー数が多ければ信頼できそうな人なんだと思い、Yahoo!オークションで買いものをするときには評判のいい人を選ぶ。直接的な通貨ではないが、バーチャルな社会で信用が高い人が富を得るのに有利な状況になってきている。なお、「マジック・キングダムに落ちぶれて」はクリエイティブ・コモンズのライセンスで、原著が公開されている(http://craphound.com/down/?page_id=1625)。興味のある人はぜひどうぞ。

技術的に可能だろうということは、いずれだれかがやるだろうと僕は思っている。2chならわからない?そんなことはない。リアルとつなぐのにちょっと手間と公権力がいるだけだ。

リアルとバーチャルはどんどん融合していく。
ただ、それが僕にとっても、みんなにとっても住みやすい世の中なのか、そうじゃないのか、それはまだよくわからない。



「マジック・キングダムに落ちぶれて」の原著


■今回のクリエイター


遠崎寿義(ザ・ストリッパーズ株式会社 代表取締役・クリエイティブディレクター)
1976年生まれ。慶應義塾大学卒業後、(株)イメージ・ソースの取締役・ディレクター・プログラマーとして、7年間勤務。数多くのウェブサイトの制作を手掛け、2005年、ザ・ストリッパーズ株式会社設立。インテル、トレンド・マイクロ、ホンダ、アドビなどのキャンペーンサイトや、ウェブサービスの開発を行っている。
プロフィール:http://creative-award.channel.yahoo.co.jp/index.php?itemid=142


Yahoo! JAPAN インターネットクリエイティブアワード

遠崎寿義氏が審査員を務める「Yahoo! JAPAN インターネット
クリエイティブアワード」のエントリーは8月10日まで!
「一般の部」「企業の部」ともに、バナー部門・ウェブコンテンツ部門・
スマートフォン部門の3部門で作品を募集。エントリーは無料です。

URL:http://creative-award.yahoo.co.jp/




【今、トップクリエイターが注目するWebのトピック バックナンバー】

>>> 第1回「ARとVR」 馬場鑑平(株式会社バスキュール ディレクター)
>>> 第2回「Ustreamを斬ってみた」 吉原 潤(株式会社ロクマル二 アートディレクター/デザイナー)
>>> 第3回「ユーザビリティ VS 楽天メソッド」 内山光司(GT INC./(suit)men entertainment クリエイティブディレクター)


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