WWDCのチケットがわずか10時間で完売した驚き

WWDCのチケットがわずか10時間で完売した驚き
2011年03月29日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により被災された方々には、心よりお見舞いを申し上げたい。しかし、気象庁が決める地震名はともかくとして、震災名(本来は閣議決定)が管轄やマスコミによって統一されていない点は、事情が事情とはいえ、言葉によって印象が変わってくることもあり、疑問を禁じ得ない。

いずれにしても重要なのは、被災地のことをおもんばかりながら、そのほかの地域の日常的な経済活動はむやみに自粛せずに、可能な限り正常化させていくことにあるだろう。筆者も東京では室内でも厚着をして極力暖房には頼らないことを心がける一方、水道水は普通に飲むし、葉もの野菜や魚も当然のように食べている。

そんな中、米Apple社は3月25日に予定されていたiPad 2の国内販売を延期し、新たな発売日は未定とした。筆者は、同製品のアメリカでの発売日周辺には現地に居たのだが、当日は仕事の関係でストアに出向けず2日目に訪れたところ、展示品のみで品切れ状態だった。

いずれにしても3Gモデルが必要なため、そのときに本体を買う予定はなく、それで問題はなかったのだが、まだ在庫のあったスマートカバーと新たに発売されたHDMIケーブルアダプタだけは購入しておいた。スマートカバーは数日後も各地の取扱店に残っていたが、HDMIケーブルアダプタはどこも品切れとなり、需要の高さを伺わせた。

しかし、自分を含めて純正HDMIケーブルアダプタの購入者は、iPad 2とこのアダプタとの組み合わせによって可能となる画面ミラーリング機能に期待したはずだ。iPad 2の発表時、ジョブズはそう思わせるような説明を行ったからだ。

ところが実際には、既存のVGAケーブルアダプタでも、あるいはサードパーティ製のHDMIケーブルアダプタでも、iPad 2ならばミラーリングは機能するのである。これは、実際にiPad 2が発売になり、入手した人がテストして初めてわかった事実だった。しかし多くの購入者が、ミラーリングには純正アダプタが必須と信じ込み、発売初日に買ったものと思われる。これも、Apple流のマーケティングというものだ。

初代iPadのときに、Apple社がアメリカでの売れ行きの好調さに、日本を含む販売地域の拡大を1カ月延期したことは記憶に新しい。iPad 2のアメリカでの供給不足を目の当たりにしたとき、実は、今回もApple社は本国以外での販売時期を後ろにずらすのではないかという懸念を感じた。

いささか不謹慎かもしれないが、日本を襲った災害は、その口実を同社に与えた部分もなきにしもあらず。大口需要国の日本への出荷を控えることで、当初予定されていた米国外の販売地域拡大が予定どおり行える運びとなったという考えは、あながち的外れではないだろう。

いずれにしてもiPad 2は、初代以上の成功作になることが約束されており、それを含めたiOSデバイス全体に対するアプリ開発者の期待感の高さは、毎年恒例となっている米Apple社のWWDC(世界開発者会議。2011年は6月6日開幕)のチケットが、わずか10時間で完売となったことからもわかる。

席数は例年4000名分はあるはずなので、人気バンドのコンサートほどではないにせよ、この種のイベントとしては売れ行きが凄まじかった。かつては定員を大幅に割り込み、担当者が必死に人集めをしていたが、その頃とは雲泥の差だ。

残念ながら時差の関係で、日本の開発者たちの中には、すでに売り切れたあとで申し込み受け付け開始を知ったという人も多い。実際には、後からADC(アップル・デベロッパー・コネクション)メンバー向けにセッション映像が公開されるので、現地に行けなくても情報自体は取得できるものの、1000人を越えるAppleの開発スタッフと直接質疑応答が可能な点を補うことはできない。

iOSデバイスの人気が消費者のみならず開発者の間でも高まっていることは喜ばしいが、今後Apple社は、開発者対応の点でも新たな展開を迫られることになるだろう。





WWDC2011




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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