ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(中編)

ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(中編) 2011年5月16日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

※本記事は「ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(前編)」のつづきになります。前編をお読みでない方は、前編からお読みください。

典型的なネットベンチャーの起業家がもくろむ一攫千金のストーリーには明確なゴールが設定されており、それをイグジット(出口)と呼ぶ。そのゴールに向かって最短距離で走り抜けることがベンチャー起業家の目標であり、戦略である。

IPOにしても創業時に投資家から出資を受けるときにしても重要なのは、企業価値だ。仮に100%自己資金で株式会社をつくったとして、初期の株式総額を1000万円とする。出資を受ける時点で企業価値を同額の1000万円とした場合、1000万円の投資を受けるとすれば自己保有の株式数と同じ株式を発行する必要がある。つまり会社の50%のシェアを渡すことになるのだ。IPOへの最短距離を狙うのに1000万円では到底足りないから、多くの起業家はもっと巨額――たとえば1億円の資金獲得を目指す。となると、企業価値を最低でも1億円にしなければならない(それでも50%もっていかれるから、起業家は初めての増資では通常3億円程度の企業価値を主張することになる)。

1990年代後半に訪れた最初のIPO(新規株式公開)ブームにおいて、日本国内でもサイバーエージェントなどが赤字決算での上場をはたす。この頃は、ネットベンチャーの企業価値とは、自社サービスが抱えているユーザー数やページビューだった。多くの起業家にとって、おもにB2C型のネットサービスを立ち上げて多くのユーザーを獲得し、そのユーザー数とページビューを担保にベンチャーキャピタルから巨額の投資を受けることが非常にたやすい幸福な時期だったのである。その後、みなさんもご存じのようにITバブルはすぐに崩壊し、崩壊前にIPOできた企業以外は、非常に長く厳しい冬の時代を過ごすことになる。

現在では、ユーザー数がいくら多くても投資家の心をくすぐることは相当難しくなっている。特に日本国内では、ほとんどのベンチャーキャピタルが銀行などの金融機関に属しており、融資の可否判断とあまり変わらないような事業算定でしか投資を受けることができないような状況にある。

日本国内ではミクシィやグリーなどの大型上場以来、ネットベンチャーの華々しいIPOモデルが出てきていない。米国でもGoogle以降は同様な傾向が続いているが、それでもFacebookやTwitterなどの大型案件が市場の期待を引っ張っている。とはいえ、SkypeやYouTubeなど、米国においてさえIPOをイグジットとする起業モデルは影を潜めている。となると、残されたモデルはM&Aとなるが、これをベンチャー企業が目指す為の環境が、日米では大きく異なっている。

(後編に続く)



サイバーエージェントのWebサイト



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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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