スーパーコンピュータ「京」の世界一奪回で考える、ビッグデータの可能性(後編)

スーパーコンピュータ「京」の世界一奪回で考える、ビッグデータの可能性(後編) 2011年7月4日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

※本記事は「スーパーコンピュータ「京」の世界一奪回で考える、ビッグデータの可能性(前編)」のつづきになります。前編をお読みでない方は、前編からお読みください。

ビッグデータとは直訳すればわかるように、巨大なデータ量のことであり、通常のPCではとても処理しきれない、複雑かつ膨大な情報のことを指す。たとえばグローバルに広がる市場の株式情報の変動データだったり、コンビニチェーンのPOSデータなどもビッグデータといえる。こうしたデータは静的ではなく、刻一刻と変化して成長を続ける動的なものだ。

最近注目されているビッグデータは、スマートフォンとソーシャルメディアの台頭により急速にネット上にあふれ出した膨大な個人情報だ。これらの情報はデジタル化されていない社会現象であり、消費者の個々の嗜好や人間関係などによって、さまざまな付随情報が加わる。目の前で起きた交通事故や、一人一人の頭の中にしかない思索の痕跡であったりと、その種類も量も混沌としているのだ。

このスマートフォンとソーシャルの掛け合わせによる新しい価値の創造を、ジオソーシャルという。ジオソーシャルは位置情報と時間情報と人間関係が組み合わされた動的データだ。つまりここでいうビッグデータは、ジオソーシャルなコンテンツのことである。いままでは個人がケータイで撮影した写真は単なるデジタル写真であり、それらはせいぜいメールで個人間でやりとりされるものに過ぎなかった。しかし、いまではTwitterやFacebookなどで共有され、しかも写っている人物一人一人にタグ付けされ、個人を特定できるようになっている。スマートフォンで撮影された写真にはさらにGPSデータと時間情報が記録されているので、誰がいつどこでなにをしていたのか、という情報がたった一枚の写真に込められているのである。

GPS情報を持つiPhoneやiPadがユーザーの位置情報を記録していたことが2011年4月に報じられて問題になっている。iPhoneが日本のケータイのように、それ自体に電子マネーによる決済機能を持ち出したら、Appleはわれわれがどこに住んでいて、生活環境がどのテリトリーにあって、おおよその消費行動を行っているのかまで、すべて分析できるようになってしまう。そして、これを憂慮するからこそ米国でもAppleの行為の違法性を論じている。Appleだけではない、Googleもまた世界中の情報をデジタル化するミッションを掲げながら、ありとあらゆる場所のデジタル映像化を図り、Androidによるモバイルインターネットの普及活動によって世界中のビッグデータのインデックス化を押し進めている。Googleがソーシャルネットワークビジネスに対する野心を捨てないのは、ジオソーシャルコンテンツとしてのビッグデータこそが21世紀の金脈であることを熟知しているからだ。

ジオソーシャルコンテンツを処理して、こうした詳細な個人データを抽出することは、重大なプライバシー問題をはらみながらも、さまざまな企業にとって宝の山のような状況になりつつある。ジオソーシャルコンテンツを分析し、マーケティングに生かすというのは当たり前にして、さらにリアルタイムで解析することができれば、次に消費者がどのような嗜好を示すかを推測できるからだ。

映画『マイノリティ・リポート』では、街中を歩く主人公に向けて明らかに個人を特定したうえでの広告が示される。このシーンを近未来の情報社会の利便性と個人情報のオープン化への警告として引合に出す人が多いのだが、じつは映画の中で犯罪が起きることを数分前に予測する“予知システム”(名称はプリコグ)の登場もまた、すでに夢物語でないことのほうが今では注目すべきことだろう。

「京」は単なる計算の速いコンピュータであるともいえるが、秒単位で成長するジオソーシャルコンテンツが既存のさまざまなビッグデータと融合して新たな価値を生んでいく現代において、「京」は『マイノリティ・リポート』のプリコグのような予知システムをつくり上げる可能性を持っている。

そのことを考えれば、この分野での世界一を目指すことは国益に直結しており、決して二番ではだめなのかと軽々しくいえるようなものではない。



「京」の筐体



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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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