Apple対Samsungの訴訟合戦後にやってくるもの

Apple対Samsungの訴訟合戦後にやってくるもの
2012年09月03日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

世界のスマートフォン市場において、製品販売数というよりも、その事業から得られる収益の巨大さからみて、AppleとSamsungが東西の横綱状態にあることは誰もが知るところになった。

現在、AppleはSamsungのAndroidに対応したスマートフォンやタブレットが、iPhoneおよびiPadなどの特許を侵害しているとして各国で損害賠償を求めた訴訟をしているが、最近米国では勝訴、日本では棄却という明暗がわかれる結果がでているのはおもしろい。もちろん現段階で最終的な決着の行方は見えず、泥沼の様相の中でどちらに軍配が上がるかはわからない。

しかし両社において、この訴訟問題は法廷での優劣とは関係ないところで、さまざまな思惑が動いていることを忘れないほうがいい。映画「ソーシャルネットワーク」で、ジェスティン・ティンブレイク演ずるショーン・パーカーは、音楽共有サイト「ナップスター」の違法性を突かれての裁判で敗訴していることについて、「君は音楽業界に負けたんだろ」との言葉に「法廷ではね」と前置きした上で、あざ笑うかのようにこう反論した。「君ならタワーレコードを買収したいと思うかい?」と(日本語訳では各方面への配慮だろう、「CD買ってる?」と意訳されていた)。

Appleの立場でいえば、今回の訴訟沙汰で現在のスマートフォンのトンマナを決めたのは自分たちであり、Appleこそがオリジナルであると世間にアピールすることができる半面、商品開発における社内プロセスや開発工程を公にしてしまい、秘密の錬金術を内外に知られてしまいかねないリスクを負っている。しかし、同時にSamsungをターゲットにすることで、Googleを引っ張りだし、水面下での交渉のテーブルに着かせることができるかもしれない。Samsungとの訴訟問題が長引けば、ほかのAndroid搭載機をつくっている企業たちにも「自分たちもいつ訴えられるか」という不安を与えることができるからだ。その間に漁父の利を得るのはMicrosoftかもしれないが、彼らが削り取るのはiOSではなくAndroidからだからAppleとしては痛くも痒くもない。

逆にSamsungからすると販売に悪影響が出るのはまちがいないが、Appleの正式なライバルとして、物真似メーカーと誹りを受けようが、猿真似以上のクオリティだからこそAppleが見のがせなくなったのであり、彼らの製品のデザイン性の高さが証明されたに等しい。コピーキャットとしても一流ならば、それはマーケティング的には正しい戦略だ。真似もできずオリジナルもつくれない日本企業とは違う、という彼らの企業価値を認めさせることになるのだ。

今後、米国と日本で一勝一敗の結果を受けて、両者の法廷外でのPR合戦が見物だが、当面はAppleはGoogleとのコミュニケーションにより重点を置くだろうし、SamsungはAppleに対処しつつ、ほかのメーカーとの差別化の材料としてうまく世間を味方につけようと動き回ることだろう。


iPhone 4S


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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