PCからモバイルインターネットのパワーシフトを検証する(後編)

PCからモバイルインターネットのパワーシフトを検証する(後編)
2012年12月03日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

※本記事は「PCからモバイルインターネットのパワーシフトを検証する(前編)」「PCからモバイルインターネットのパワーシフトを検証する(中編)」のつづきになります。

最近、世界最速の成長企業と謳われたモンスターベンチャーのZyngaはついにFacebookとの提携を解消した。解消された、と言ったほうがよいかもしれない。FacebookがIPO時に、彼らの全売上のうちの12%(実際にはZynga起点の広告収入を加えると15%くらいになるらしい)を占めているということで話題になったことは記憶に新しいが、FacebookとZyngaの仲の悪さは周知のことであり、いつどのタイミングで“離婚”となるかは、ある意味時間の問題だった。これだけの経済規模であるがゆえに、なかなか両社ともに踏み切れなかったのだが、ついに今回の発表となった。

じつのところ、両社とも急速に進んだインターネット利用のモバイルシフトの中で、収益化に苦しんでいた。Facebookのモバイル活用は順調に進んでいたものの、広告を出すスペースが限られるモバイルの画面上で、どんどん巨大化するモバイルトラフィックを換金できず、コストばかり膨らんでいた。

2012年後半になり、Facebookはようやくモバイル広告のコツをつかみつつあり、かつソーシャルコマースやO2O的なサービスでの活路を見出しているし、実際にモバイル経由の収入も上向きである。

ところがZyngaのほうはというと、PCからモバイルへのプラットフォームの切替にうまくギアを合わせることができずにノッキングが続いている。夫婦ともに苦難に耐えているときは別れなくても、一方がうまくいきはじめたら即離婚、というわけだ。

PCはもはやコンピューティングの主役ではない。コンピューティングはオフィスや自宅の机の前で行う静的なユーザー体験から、外出先のカフェで、あるいは歩きながらや食事をしながら使う、動的かつ連続的なユーザー体験へと変貌した。つねにインターネットに接続された状態でのスマートフォンとタブレットこそがコンピューティングの主役であり、それは有線の固定電話から無線の携帯電話にテレコミュニケーションの主役が入れ替わったこととまったく同じだ。

いまさら固定電話によるビジネスモデルを真剣に考えている起業家がいたとしても、彼に資金を投じる投資家はいまい。同じように、PCを主軸のビジネスを考えることはもはや逆張りにもほどがある、ということになる。

モバイルインターネットはPCインターネットの延長線にあるのではない。時空の異なる世界なのだと理解しなければならない。似ているがゆえにまちがえやすいが、時間の流れも重力も少しずつ違えば、その環境の違いは明らかだ。しかし、現実にはインターネットを事業ドメインとする人間ほど、頭ではわかっていても、なかなかPCに対する執着を捨てきれない。Zyngaの経営層も、ある意味そのジレンマに悩んでいるのかもしれない。あなたはどうだろうか。


Zynga Webサイト




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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