2013年のネットビジネス総括(4)

2013年のネットビジネス総括(4)

2013年12月24日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

本コラムで今年最後にとりあげるべきは、やはりメッセージングサービスの躍進だろう。特に日本からはLINEが海外進出にも成功し、ユーザー数3億人を突破したことが話題になった。サービス開始から1億ユーザーまでには19カ月間かかっていたのに、2億ユーザーまではわずか6カ月で到達。さらにそこから3億ユーザーまでには4カ月間で到達しており、成長曲線は加速度を増している。

ただし日本国内においては、アクティブ回線のスマートフォンユーザー数のほとんど(5000万人程度)をユーザーにしてしまったため、これ以上は伸長せず、なにがなんでも海外展開をしなければならないという事情がある。

スタンプの販売から、ゲームやC2C型コマースへの進出など、国内では刈り取りきってしまったユーザー数とトラフィックを維持しながら換金に動きつつも、同時に世界市場ではマネタイズよりもユーザー獲得に走らなければならない。

もちろん、だからこそ成長の余地があるということだが、海外においてはWhatsAppが4億ユーザーを獲得しているうえ、Facebookもメッセンジャーアプリを地道に改良しながらユーザー奪還に動いている。さらに中国のテンセントが世界展開を図ってリリースしたWeChat(中国ではWeixin)もまた強力なライバルだ。また、若いユーザーの心をがっちりつかんだSnapChatもまた、LINEの強敵として画像だけではない総合的なメッセージングサービスへと成長する可能性がある。

メッセージングサービスは、基本的に「国産の先行者」が強いという特徴がある。日本におけるLINEはYahoo! JAPANの後押しを受けたカカオトークの追撃を一蹴したし、DeNAのcommもまた瞬殺された。英語圏では先行者であるWhatsAppが強さをみせているし、中国においてWeChatにLINEが勝てる気配はいまのところゼロだ。

つまり、メッセージングサービス戦争においては、まだ国産の独占的サービスがない国に一刻も早く乗り込んでいき、市場を獲得して、後続者を排除する戦略を講じなければならない。同時に、なるべく大きな市場を狙うことも大事だ。実際、LINEはタイでこの戦略がうまくいき、絶対的強者として君臨することに成功した。タイは人口7000万人であり、この市場を押さえたことがLINEのユーザートラフィックの伸張に大きく寄与している。ただしこの見方では、中国を押さえているWeChat、インドで強いWhatsAppはLINEより一歩優位にあるともいえる。また、米国を中心に11億人以上のユーザーベッドをもつFacebookもまた、この戦いにかける意気込みは凄まじく、巻き返しする可能性は十分にある。

先述のように、基本的にはメッセージングサービスは国産・先行者であることがシェアを獲得する第一条件であるといえるが、ある程度市場をわけ合ったあとは、互いの市場を奪い合いにかからない限り成長が止まる。2014年には世界地図の色分けを終えた各メッセージングサービスたちが、今度は互いの独占市場を奪い合って、地図の色の塗り替えを狙った一大戦争を勃発させることになるだろう。

また、新興国において、黒船に蹂躙される前に国産サービスを普及させて、この戦争に参加しようとする強者が現れるかもしれない。

残念なことに、日本のスタートアップはこの戦争には参加できない。LINEがあまりに圧倒的で、海外に出ようとする前にLINEに跳ね返されてしまうからだ。現在のネットビジネスで、トラフィック観点からはもっとも巨大な市場だが、日本のスタートアップは指をくわえてみているほかない。ただ、そのメッセージングサービスという新しいプラットフォームの上層、もしくはその周辺でおこる新しい波紋に対して注意深く観察を続けていくべきだろう。その波をうまく乗りこなすことができれば、これはまたそれなりに大きなビジネスモデルに当たることができるはずだからだ。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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