国内スタートアップの成長を阻害する“のれん”とは

国内スタートアップの成長を阻害する“のれん”とは

2014年04月21日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

アメリカ――特にシリコンバレーと日本のスタートアップ事情の差異は、ひとえにイグジットとしての買収の件数と規模である。この1~2年をみても、米Yahoo!によるTumblr、FacebookによるInstagramおよびWhatsApp、GoogleによるNestなど、非常に大型の買収案件が目白押しであった。一件あたりの金額も破格で、日本なら10億円を超えたバイアウトで大成功といわれているが、アメリカでは二桁も違う。

この違いが、国内スタートアップとシリコンバレーの間に決定的な差をつくっているのは疑いない。さらにシリコンバレーでは、GoogleやYahoo!などの大企業化した老舗のベンチャーが買収するだけでなく、Dropboxなどのスタートアップがほかのスタートアップを買収する、ということが多く見られる。つまりニッチであっても先行するテックベンチャーが欲しがるであろう技術に特化することで、買収されることを前提とした起業が成立しやすい土壌にあるわけだ。

日本ではまず、買収案件自体がなかなか増えない。あるいは買収規模が大きくならないことが、スタートアップ全体の成長に影響している。買収が活発にならないからスタートアップの多くはIPOを目指さなくてはならないし、その結果売上高数億円・利益1億円規模の早期栽培的なIPOが増えてしまう。この程度の規模では買収による成長戦略を採択することも難しい。

イグジットとしての買収戦略がとりやすくなると、若くしてそこそこの資産を得た起業家がより大きな成功を得ようとシリアルシリアルアントレプレナーやエンジェル投資家になるはずだ。しかし、現状ではなかなかそうはならない。

日本の会計基準にはのれん代というものがあり、買収額が純資産額を上回る差額ぶん(たとえばスタートアップならば、将来の利益やブランド力など期待値が上乗せされている)を、毎年費用計上して一定期間内に償却しなくてはならない。資産価値1億円のスタートアップを10億円で買収すれば、差額9億円をのれん代として償却する必要があり、それはそのまま買収した企業の収益力を圧迫することになるわけだ。現在はのれん代の廃止を巡って議論がなされているようだが、いまのところ進展は報告されていない。

最近ティーンエイジャーの間ではInstagramがもっとも人気のあるSNSとして認知され、マネタイズも順調なようでFacebookに対する貢献度は非常に大きい。Twitterもまた創業直後に買収した動画SNSのVineが好調で、買収はまずまず成功したといってよい。

国内でも100億円以上の企業価値をつけるスタートアップが増えている。またシナジー効果のあるスタートアップを買収することで、次の成長戦略を描ける企業も多くなっている。安倍政権の早急な英断に期待したい。


Instagram








■著者の最近の記事
オウンドメディアのルネサンスは起きるのか?(後編)
オウンドメディアのルネサンスは起きるのか?(前編)
Twitterの複数写真添付機能に対する懸念
匿名か実名か―ソーシャルメディアが抱えるジレンマ
ニュースキュレーションアプリのマッチレースはじまる
muukはいかにしてSextingに立ち向かうのか
Twitter創業者たちの次なる挑戦
WhatsAppがFacebookに160億ドルで買収、その余波は?






[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
twitter:http://www.twitter.com/ogawakazuhiro
facebook:http://www.facebook.com/ogawakazuhiro

MdN DIのトップぺージ