Apple Watchへの不安と期待

Apple Watchへの不安と期待

2015年02月06日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)



Appleの直近の決算報告に伴うティム・クックCEOの発言によって、Apple Watchの発売が4月となることが明らかになった。

同社は2015年1月に、現リテール部門トップで元Burberry CEOのアンジェラ・アーレンツの部下だった、デジタル&インタラクティブデザインのスペシャリスト、チェスター・チッパーフィールドを雇い入れている。例のごとく、所属部署は「スペシャル・プロジェクト」だが、AppleがApple Watchの販売開始にタイミングを合わせて、店舗デザインと共にオンラインショッピング体験も改革していくつもりであることはまちがいない。

かねてより、Apple Watchはバッテリー駆動時間がネックとなり、発売開始が遅れていると噂されていた。最終的には、アプリの連続使用時で2.5~4時間機能し、通常使用で1日1回の充電が必要という、他社のスマートウォッチ製品と同等レベルを達成できたことで、初代モデルに関してはひとつの区切りとした模様だ。

実際には1回の充電でもっと長く使える製品も存在するが、Appleはディスプレイひとつとっても、リアルさの追求からRetina解像度×60fpsの高品位表示を実現しているとされ、そのうえでそれなりの駆動時間を実現することに、かなり腐心したようである。

これらの数値は、たしかに時計としては明らかに短すぎる。そして、この点は、初代iPhoneが携帯電話としてはバッテリー駆動時間が短いと評されたことにも似ている。iPhoneが電話のフリをしたコミュニケーションデバイスであったように、Apple Watchも時計のフリをしたデジタルツールと考えれば、そして、iPhone 6にしてもふつうに使って1日1回は充電することを思えば、現実にその程度の駆動時間でも、案外、苦にならない可能性も考えられる。

一方で、4月からの発売といっても、最初の販売地域に日本が含まれるかどうかは、今のところ不明であり、個人的には、初期ロットはアメリカや(Apple Watchの展示が行われた高級セレクトショップのコレットがある)フランス向けで、日本では数週間遅れてのデビューになるものと推測する。

その理由は、ファッションアイテムに関して日本の消費者は欧米の後追いをする傾向にあることがひとつ。もし、アメリカやフランスにおいて好評が得られれば、日本市場への導入が行いやすくなる。

そして、もうひとつは、上記のバッテリー駆動時間と関係する。iPhoneで成功している日本市場だからこそ、導入時に電池のもちに関する不評がたっては、他国への影響も懸念される。そこで、欧米の利用者やメディアから、前もって、その駆動時間でも日常使用には問題ないという感想を引き出すことで(もちろん引き出せれば、だが)、ポジティブなオピニオン形成を図るのではないかと思えるのだ。

パイパー・ジャフレイやUBSグループなどの調査会社によると、アメリカのiPhoneユーザーにおけるApple Watchの購入希望者率は7~10%といわれており、当初の期待感の大きさと比べて少なすぎるとの見方もある。しかし、それでも最初の1年の販売台数は800万台から1000万台に達する見込みで、Appleにとっては十分な数字だろう。

すでに、低価格を武器としてスマートウォッチ市場に参入したメーカーの中には、製品が売れずに投げ売り状態となっているところもあり、iPod登場前夜の携帯音楽プレーヤー市場と似た様相を呈している。かつてのiPod、iPhone、iPadも、登場時にこんな製品は売れないといわれたわけだが、過去がそうだったからといって、Apple Watchも予想を超えるヒットになるとは限らない。だが、それでも他社では考えられないほど万全の体制を整え、そうなるように努力する。それが、Appleという企業なのだ。




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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