出版社が紙からデジタルへ移行するために必要なこと

出版社が紙からデジタルへ移行するために必要なこと

2015年02月09日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)


RadioShack
http://www.radioshack.com/

2014年の出版市場が前年比4.5%減の1兆6065億円にとどまり、10年連続で落ち込んでいることがわかった。さらに前年比減少率は1950年の統計開始以来で最大となったという。もっとも悲惨なのは雑誌部門で、特に女性誌の落ち込みが顕著となった。

そして、その代わりに2014年に勢力を拡大したバイラルメディアやキュレーションメディアの多くは、比較的雑誌に近い情報に特化し、女性読者を集めている。彼らの多くはまだまだ売り上げを伸ばしているというほどではないものの、ベンチャーキャピタルからの資金調達に成功する企業が続出するなど、今後の拡張に向けて虎視眈々の状況である。

つまり、新興のデジタルメディアの担い手の多くは、旧来のプリントメディアの担い手とは違う。出版業界がプリントからデジタルへの移行に成功しているわけでないのだ。

流通の世界では、アメリカで家電量販店2位のRadioShackが経営破綻したが、それは同業他社との競争による優勝劣敗ではなく、Amazon.comが家電販売においても急速に勢力を伸ばしている余波によるところが大きいという。

家電だけでなく、さまざまな雑貨や消費財など、次々と取り扱い商品を増やしているAmazon.comによって、消費者は実店舗で商品を確かめながら購入はオンラインで済ませるという、いわゆるショールーミングに手を焼く業界は多い。

ただし、雑誌や本は、少なくとも日本国内においてはインターネットで買おうが書店やコンビニで買おうが値段は変わらないし、その場で持ち帰れる程度の大きさの商品であるから、ショールーミングの脅威というものは売り上げの落ち込みには関係がない。

出版業界にとっては、リアル店舗からインターネットという流通の変化ではなく、完全にコンテンツを媒介するメディアそのものが、プリントからデジタルに移行しているという本質的な変化の前にさらされているのだ。

ならば、電子書籍化すればすべておさまるかというと、話はそう簡単ではない。講談社は、ほぼすべてのコミックを発売と同時に電子書籍化すると発表したが、漫画や小説などの分野はいいが、旬な情報を定期的に提供するような情報誌―たとえばファッション誌やゴシップ誌などは、週刊誌や月刊誌のようなペースではもはや足りない。

つまり、情報のアップデート速度は毎日、いや、毎時になってきており、このニーズを満たすのが上述の新興デジタルメディアなのである。

無料かつ非常に早い速度で情報を更新していく、キュレーションメディアやバイラルメディアに消費者は慣れてきており、雑誌のようなスローペースで情報を取得する必要性を感じないし、ましてやお金を出そうというつもりにならない。

雑誌系の出版社は、毎日情報を更新し、販売モデルから広告モデルへの変革を受け入れなければならず、いち早くWebマガジンへの全面シフトを考えなければならないはずだが、現実にはそうなっていない。

Webメディアは、スマートフォンの大型化や高速化によって、テキスト重視のニュースサイトから、写真や動画を組み合わせた華やかな雑誌型のWebサイトへと進化してきた。既存の出版業界は、電子書籍専門か、Webマガジン専門のベンチャー企業の挑戦に対して、取り込むか、対抗するか、いずれにしても抜本的な戦略の立て直しを図らなければ、やがては米国流通業界の二の舞となるだろう。




■著者の最近の記事
プラティシャーへのシフトを強めるYouTube
ビジネスSNSへと踏み出したFacebook
イマーシブメディアの勃興はあるか
2015年のトレンドは?―テキストvs画像vs動画、そしてWebvsアプリ
正月に見た、Instagramのピークタイムの兆し
2015年もネットメディア革命は継続するか
絶好調のInstagramを襲う複雑化の罠




[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
twitter:http://www.twitter.com/ogawakazuhiro
facebook:http://www.facebook.com/ogawakazuhiro

MdN DIのトップぺージ