Pinterestの情報共有特性に着目したApple

Pinterestの情報共有特性に着目したApple

2015年02月20日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)


Appleの公式Pinterestアカウント
https://www.pinterest.com/appstore/

つい先日、イメージ系SNS・Pinterestの「リッチピン」の仕組みを利用して、iOSアプリの直接インストールが行えるようになったという発表があった。

Pinerestでは、気になる情報をスクラップすることを「ピンする」とよび、その情報の象徴的なイメージとあわせて自分の「ボード」にコレクションし、共有していく。

ボードにピンを追加する方法は、いくつかある。具体的には、ほかのPinerestユーザーのピンを再度ピンする「リピン」、所有する画像のアップロード、URLを直接入力して行うWebページのアグリゲーションの3通りだ。最後のURLを入力するやり方はやや手軽さに欠けていたが、欧米では、Webサイトの側でピン機能を埋め込み、閲覧中の情報をワンタッチでピンできるようにするところも増え、さらにWebブラウザに純正プラグインを組み込めば、Webサイトを問わずリピンする感覚でピンできるなど、ユーザービリティの改善にも熱心に取り組んでいる。

リッチピンは、Webサイト側で埋め込むことのできるピンのバリエーションであり、画像やリンク情報に加えて、製品に関するページならば価格や在庫状況、場所に関するページならば位置を示すマップや施設の開館時間などが自動的に付加される。

iOSアプリの直接インストールは、このリッチピンの1種であるアプリピン(App pins)によって実現され、iOS向けのPinterestアプリで、リッチピンのあるページを表示すると画面に「インストール」ボタンが現れる。それをタップすることで、Pinterestアプリから離れることなく、App Storeアプリに準じたインターフェイスで該当アプリのダウンロードができるのだ。

ちなみに、このアプリピンは、機能(この場合はiOSアプリのインストール)をもつ初めてのリッチピンでもあり、今後PinerestはEC(電子商取引)に直結するリッチピンも導入するのではとの見方もある。

というのは、ピンした情報をたどって、実際になんらかの製品の購入に至るユーザーが多いこともPinterestの大きな特徴で、購買力が高く個性的なファッションを求める女性消費者などに強く支持されているためだ。実際に、Apple(正確にはApp Store)の公式Pinterestアカウント(https://www.pinterest.com/appstore/)でも、ファッション系やヘルシーなレシピ系のiOSアプリが強く勧められており、まずはターゲットを絞ったマーケティングツールとしてPinterestを活用しようとする意図が見て取れる。

筆者がトヨタ自動車やアシックス、Royal Dutch Shellなどの世界的企業を取材して書いた「成功する会社はなぜ『写真』を大事にするのか 一枚の写真が企業の運命を決める」(現代ビジネスブック)でも触れているが、的確なビジュアルイメージが喚起する購買意欲には非常に強いものがある。Pinterestがこの点をほかのSNSよりもはるかに熟知していることをApple自身も認めたからこそ、このようなコラボレーションが生まれたといえよう。

このように今回の発表には、なかなか興味深い側面があるのだが、Appleの公式サイトの最新ニュースページなどには記載がなく、情報ソースはおもにPinterestの公式ブログ(英語:http://blog.pinterest.com/post/110786995184/install-the-best-new-iphone-and-ipad-apps-from、日本語:http://jp.blog.pinterest.com/post/111134678960/iphone-ipad-pinterest)となっている。実際には、アプリピンのようなアプリ連携を行ううえで、Apple側の技術協力や情報提供は欠かせず、かなり深く関わっているはずだが、あくまでもPinterest側の対応というスタンスになっているのが、例によってApple流という印象だ。アプリピンを介して有料アプリがダウンロードされた際のレベニューシェアについても不明であるものの、当然ながらなんらかの利益がPinterest側にもたらされると考えられる。

いずれにしても、Appleはアプリ販売促進の新たな手段を手に入れ、Pinerestもその情報共有の手軽さと有効性を改めてアピールする機会を得て、会員数が増えそうだ。この試みがうまく機能すれば、近い将来にはApple Storeアプリとの連携で、リッチピンから取り扱い製品購入へとつなげることも十分に考えられるだろう。

ちなみに、2月23日に渋谷区道玄坂のloftwork Labで「Pinterestの活用法をトップクリエイターから学ぶ」というテーマのトークセッッションがあるようだ(http://www.loftwork.com/blog/pickup/pinterest_150223)。残念ながら筆者は参加できないが、興味のある方は覗かれてみると、Pinterestの情報共有特性をじかに感じられるのではないかと思う。




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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