Appleが“Spring Forward”に込めた3つの意味

Appleが“Spring Forward”に込めた3つの意味

2015年03月10日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)



“Spring Forward”――Appleが2015年の春に仕掛けたスペシャルイベントのキーワードには、3つの意味が含まれていた。

ひとつめは、今回のスペシャルイベントの日取りが、アメリカのサマータイム開始日(毎年3月第2日曜日と定められているので、2015年は3月8日)の翌日であったこと。“Spring Forward”というのは、春先に1時間ぶん時計を進めることを忘れないための、リマインダ的な言葉だ。反対に、秋には1時間分時計を戻すので“Fall Back”となる。

ふたつめは、“Spring Forward”が時刻や時計に関係する言葉なので、Apple Watch関連のイベントであることを暗示していた。

そして3つめは、文字どおり「前に飛び出す」という意味。このところのAppleは、業績が良くても、目を見張るようなイノベーションが不足気味だったので、ここで新機軸を打ち出すことの宣言でもあった。

実際の発表内容から筆者が特に注目したのは、サプライズだったResearchKitの発表、新MacBookのRetinaディスプレイの薄さとファンレス化、そしてApple Watchの各モデルの重量である。

ResearchKitは、いうなればiPhoneユーザーによる健康チェックをビッグデータ的に活用する試みだ。現時点ではアメリカ向けのみの提供で、iPhoneが情報の入り口だが、遠からずApple Watchや他国にも対応し、より細かく広範囲なデータが得られるようになるだろう。

医療系のリサーチは人類全体の問題であるとしてResearchKitはオープンソース化され、ほかのプラットフォームでも利用可能になるとのことだが、これは、世界的に見て低価格のAndroid端末が普及しているエリアでもリサーチが進むことを意味し、意義深い決定といえる。

もちろん、AppleはiPhoneやApple Watchで取得できる情報の種類や精度に自信をもっているからこそ、あえてオープンソース化した面もあるだろう。特定のリサーチは、センサーの種類などの仕様の優位性から、事実上Apple製品しか対応できないものも出てくるものと思われる。

また、ややうがった見方だが、ボランティア意識が高く経済的に余裕のある特定の消費者層にとっては、たとえばApple Watchを身につけることでResearchKitを通じて医療分野に社会貢献できること自体が、その製品を購入する動機付けの一端になる可能性も十分考えられよう。

リサイクルや太陽光発電への取り組みもそうだが、単なるハイテクカンパニーではなく、エコロジーを意識し、技術を通じた社会貢献に積極的な企業というイメージは、世界最大規模にまで成長したAppleにとって、今後、ますます重要なものとなっていくはずだ。

12インチRetinaディスプレイ搭載のMacBookに関しては、一部で発売が遅れるとの報道もあったが、なんとかこの時期に間に合わせてきた。実際の発売は4月10日からだが、日本では入学・入社シーズンということもあって、おおいに人気を集めそうだ(ただし、最初から潤沢に供給できるか、という問題は残るが)。

全体のフラット感もさることながら、従来は厚くなる傾向にあったRetinaディスプレイ部の薄さは驚異的で、同じディスプレイを搭載してくる見込みが高い12インチiPadにも期待がもてる。

そしてファンレス化は、iPadや他社のサブノートPCではすでに実現されていたことだが、静音性でも内部に埃などを吸い込まないという意味からも、歓迎すべきことである。

最後のApple Watchは、少なくとも仕様上は最大18時間のバッテリー駆動時間を確保し、ギリギリ1日使えるレベルまでもってきた。ハンズフリーヘッドセットなどを使わず、Apple Watchで直直接通話できることも明らかとなったが、会話の内容が周囲に筒抜けになるので、そのようにして使う際には、時間や場所を選びそうだ。

さらにApple Watchの重量だが、アルミ合金のスポーツモデルでは、38mmモデルが25g、42mmモデルが30gとなっている。これがステンレスモデルでは、それぞれ40gと50g。18Kモデルでは、同じく55gと69gとなる。

またベルトは、クラシックバックルがもっとも軽く16g(38mm用)と19g(42mm用)だが、リンクブレスレットでは65gと75gに達し、スポーツモデルに標準のフルオロエラストマ製のベルトは、見かけによらず47gと51gと本体の1.7~1.9倍近い重さがある。一方で、金属チェーンのようなミラネーゼループは、重そうに見えるが、33gと41gでフルオロエラストマよりも軽かったりする。

実際の購入にあたっては、本体の素材感やベルトの外観や装着感で選択するケースが多いだろうが、組み合わせによる重量の違いも案外重要なポイントかもしれない。




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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