Apple Watch店頭試着で感じた致命的な問題

Apple Watch店頭試着で感じた致命的な問題

2015年04月14日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)



Apple Watchの予約と店頭展示、そして試着が開始された2015年4月10日。筆者はApple Store心斎橋に足を運んだ。Apple Watchそのものもさることながら、同社初となる試着サービスの詳細や、実際に店頭がどの程度混み合うのかに興味があったためだ。

店舗に着くまで、Apple Watchの展示はストア中央のガラスケース内のみで、操作などは試着を申し込まないと行えないものと思い込んでいたのだが、実際にはそうではなかった。Apple WatchとiPadを組み合わせた、持ち運び可能な体験セットが用意してあり、こちらは自由に触れる状態にあったからだ。

到着したのは午後4時くらいで、ストア内の人の密度はそれなりに高かったが、満員というほどではない。とりあえず店頭スタッフに試着したい旨を伝えると、iPhone上で必要事項を入力してウェイティングリストに加えてくれた。その時点での待ち時間は20分ほどで、「ガラスケース内のApple Watchを見ながらお待ちください」との指示を受けた。

実際には10分ほどで名前を呼ばれ、このために用意されたと思われるマットが並んだコーナーへと誘導される。スペースには空きがあったので、応対できるスタッフの数の制約から待たされていたようだ。

試着担当のスタッフは親切で、質問にもそつなく答えてくれる。ところが、どのモデルを装着しても画面が暗いままだったので、その状態で機能させたい旨を伝えると、意外な答えが返ってきた。「試着用ユニットでは、操作はできない」のだ。

なるほど、それで体験セットがある理由がわかったが、試着時には操作をさせないことで回転率を上げる意図があるのだろう。その代わり、体験セットはApple Watchの操作と同期してiPadの説明画面が変わり、スタッフの説明なしでも使えるように工夫されていた。

ただし、この展示と試着方法には、Apple Watchの体験という観点から見て、大きな弱点があると感じた。それは、ほんとうの意味での使用感がわからないということだ。なぜなら、個人的にApple Watchが人々に与えるユーザー体験の中で、もっとも想像できないものは、Taptic Engineによる手首へのフィードバックだと思うからである。これは、実際の装着状態で機能させなければ実感できない種類のものだ。そして、その体験によって購入に至る人が発生する可能性はおおいにある。リテール部門のトップであるアンジェラ・アーレンツは、今後、Apple Storeの前に行列をつくらずにすむ販売方法に切り替える決断を下したようだが、なぜ、Apple Watchとの最初の遭遇において最大の特徴のひとつを体験できない仕組みにしてしまったのか、疑問が残ったことを記しておきたい。

ちなみに、同日に販売開始された新型MacBookも見て帰ろうと思ってスタッフにたずねたところ、実機の展示は翌11日からになると告げられた。おそらく単純な到着の遅れではなく、あえて今日は来店者の意識がApple Watchに集中するように、意識的に組まれたスケジュールであったのではないだろうか。そうだったとしても、筆者は驚かない。なぜならそれが、Apple流のビジネスなのだから。




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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