Apple MusicのライバルはAWAやLINE MUSICだけではない―Spotifyとの戦いの幕開け

Apple MusicのライバルはAWAやLINE MUSICだけではない―Spotifyとの戦いの幕開け

2015年08月03日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)



Cult of Mac(http://www.cultofmac.com/374986/apple-music-already-has-half-spotifys-subscriber-numbers/)によれば、Apple Musicはサービス開始からひと月で、すでに1000万人の購読者を獲得したという。

もちろん、現時点ではその全員が3カ月の試用期間中であるわけだが、それでもこの数字は、10年近く音楽配信サービスを行い、楽曲数は約3000万曲とほぼ同等を誇るSpotifyの有料購読者(約2000万人)の半分にあたる。しかもApple Musicは、まだAndroidやWindows向けのサービスがはじまってもいないことを考慮すれば、十分に成功と呼べる実績だ。

ただし、Spotifyの公式データ(https://press.spotify.com/au/information/)では、広告付きの無料購読者も含めたアクティブ会員数は7500万人にのぼるため、Apple Musicにとってほんとうの勝負どころは、無料期間を終えたユーザーをどれだけ有償サービスへと誘導できるかにある。

実はSpotifyには、日本での公式サービスがはじまっていない現在でも(規約的にはグレー…というより完全に違反しているが、VPNソフトなどを介した)洋楽ファンの日本国内登録ユーザーが相当数(一説に3万人ほど)存在する。そして、無料購読の場合にはオフライン視聴や自由な曲順での再生ができない(シャッフル再生は可)ため、気に入った曲があると結局はiTunes Storeで購入するといった使い方がなされているようだ。

となると、前回触れたように、ひと月に数曲購入する金額でApple Musicを購読するほうが後ろめたさを感じずにすみ、リスニング中に無粋な広告が入ることなく、自由な再生やオフライン視聴もできるため、このひと月ほどの間に移行したユーザーもそれなりにのぼるのではないかと推測される。

しかも、目ざといことに、とあるサードパーティが、Spotify(と、もうひとつ別の定額制音楽配信サービスRdio)からお気に入りの楽曲やプレイリストをApple Musicに移行するツール「Move to Apple Music」(http://movetoapple.com/ 実際の操作はほとんどワンクリックですむ)を4.99ドルで提供しはじめた。

こうした動きの中で、Spotify側もすでに日本でのサービス開始の準備に入っており、本稿の執筆時点では、Webサイト(http://www.spotify.com/)にアクセスすると日本語の告知ページにリダイレクトされるようになった。Apple Musicのグローバル展開が、Spotifyの足元に火をつけたことは確かだろう。

これがダウンロード販売ならば楽曲をすべて買い直す形になるので非現実的だが、定額制ストリーミングの場合には最小限のユーザー負担で行えるところがミソといえる。逆にサービスを提供する側にとっては、簡単にライバルへと乗り換えられてしまう可能性があり、まるでオセロゲームのように、あっという間に別のより魅力的なサービスに購読者を奪われる危険にさらされているのだ。




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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