Audi Sportにみる、TV CMに影響を与えるソーシャルコンテンツ

Audi Sportにみる、TV CMに影響を与えるソーシャルコンテンツ


Audi Sport 3.2秒 ティザーCM/www.youtube.com

2016年7月11日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

今、俄かにAudi Sportの超短尺CMが話題となっている。きっと、このCMをご欄になった方も多いだろう。

わずか3.2秒という超短尺のコマーシャルフィルムに、一瞬放送事故かと勘違いした視聴者も多いそうだ。実際、このCMには盛り上がりも何もないし、ストーリーもないが、強いメッセージがあり、スピード感や疾走感を一瞬で感じさせるパワーがある。

わずか4秒足らずの1カットは、むしろ静止画に近い。というよりもデジタルの世界では最近見慣れた、コンテンツマーケティングに活用される超短尺動画であると気づくはずだ。実はソーシャル×モバイル時代に即した新しいフォーマットであることに、Webメディアやデジタルマーケティングに関わるものなら、すぐに気がついたことだと思う。

え? そんなことは思わなかった? だとしたらあなたのアンテナはだいぶ錆び付いていると思った方がいい。

通常テレビCMといえば15秒が定番である。そもそもテレビでは、いくらCMを流してもそれがどのくらい見られているのかを判別することができない。もちろんCMを挟む番組そのものの視聴率はわかるから、それぞれ”比較的”見られているかどうかはわかるが、テレビの視聴率は割合の数字ではあっても分母と分子はわからないから、絶対数として、どのくらいそのCMが見られたかを数値化することは難しいのだ。

また、見られたか?という質問に対して、一瞬見たのか、それとも全部見たのか、ちょっとだけ見たのか、という詳しい調査結果を得ることは、テレビではなかなかに難しい。

逆に言うと、テレビCMを作ってきた広告代理店は、この問題を逆手にとって、そのCM自体を見せる工夫はせず、15秒すべて見られるという前提の元に、最初から最後まで見通してくれたとして好感度を得られるかどうか、というポイントにのみクリエイティビティを使ってきた。

しかし、いまや動画の、特に短尺の消費場所はモバイルであり、FacebookやTwitter、Snapchat、YouToubeといったソーシャルメディアになった。縦型のタイムライン(時系列順に表示される仕組み)によってコンテンツが流れるが、オーディエンスの関心を一瞬でひきつけなければ、読み飛ばされてしまう。

これまでのたいていのTV CMが、全て観て初めて成立するストーリーであり、後半に盛り上がりを置いてくる作りであるのに対して、タイムラインにフィットするためには、始まった瞬間に視聴者の興味関心を引き寄せる工夫が必要だ。逆に言うと、全部を観てくれることが実は稀であるという事実を踏まえた作りを考えることが必要になっているのだ。

Audiのマーケティングチームはこれまでの実にユニークで面白いプロモーションをしてきているが、今回のこの短尺動画CMは、時宜を捉えた実によいタイミングでの公開だと考える。Webメディアやデジタルマーケティングに関わる身であれば、テレビCMがついにソーシャル×モバイルにもフィットするフォーマットを採用してきていることを、大きな転機への兆候として感じ取っておくべきである。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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