狭い画面で複雑なデザインは鬱陶しいだけ。Webデザイナーを志す愚かしさ

2016年11月28日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)
この連載において、僕は度々21世紀におけるWebデザイン(アプリを含む情報デザイン)という技能が死に瀕しているということを論じてきた。

「HTMLやCSSなどの基本知識はいつまでも必要かもしれないものの、それらを巧妙に駆使してWebサイトをつくり込んでいく時代は、ほぼ終わりかけている。(中略)つまり、Webサイト全体の設計やデザインは、さほど重要でなくなる。ただでさえスマートフォンでしかWebサイトを見ない層が増えており、狭い画面で複雑なデザインは鬱陶しいだけになっている」

●Webデザインが必要とされなくなる日(下記より抜粋)
http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/35983/

モバイルがインターネット上のコンテンツを消費する主たる舞台となったことで、画面は小さく、そして縦型に制限されることに変化した。狭い画面において過度なデザインは不要どころか邪魔でしかなく、オーディエンスがコンテンツを見やすいように・読みやすいように極力控えめに制作されねばならない。

事実、FacebookやInstagram、Twitterなども基本的なUIは同じであり、ロゴもないか、あっても小さく、ツールとしての機能を表すアイコン類は小さくモノクロで、目立たないように施されている。

Webサイトの役割も、それ自体が完結したパッケージとして孤立できるメディアではいられなくなり、さまざまなアプリやデバイスにコンテンツを配布することできるための”URL(パーマリンク)を持ったコンテンツ”のコンテナーとしての役割へと変化している。コンテナーの形状や色合いに興味を持つ者は少ないように、Webサイトそのもののデザインに興味を持つ者は限りなく減っているのである。大事なことは、どんなコンテンツを集積し蓄積できるか、ということであるし、そのコンテンツを好きな場所(アプリやデバイス)に送り届けることができるかどうか、ということだけなのだ。

Webサイト自体は、それぞれのコンテンツの配信先から、特に集積された他のコンテンツへの興味を持ってリンクを辿ってくれた貴重な人々をもてなすためのデザインがあればそれでよい。余計なことは必要がなく、訪れた人を邪魔することなく、すぐに他のコンテンツを消費してくれる手伝いをする、ただそれだけを考えるべきなのである。

それだけに、例えばトップページを飾り立てるようなデザインをするデザイナーは極刑に値すると僕は考える。無駄なことはしなくてよい、ではなく、してはならないのである。

というわけで、いまからWebデザイナーを志して一生の職業にしようと考えている人は考え直したほうがいいし、いまWebデザインのみで生計を立てている人は、すぐに食えなくなるから、他の技能を身につけることを考えたほうがいいだろう。

Webデザインとは、プログラマーやマーケター、編集者、動画制作者など、システムそのものの制作や、ビジネスそのものの推進、またはコンテンツ制作に関わる職業における付帯技能に過ぎなくなる。よほど極めて特殊な領域でのプロとなる意志を持って取り組むのであればよいが、凡庸なデザインで生計を立てていけると思うのは、車の運転ができるから生きていける、と言っているのと変わらないほどの愚かしさであることを、知っておくべきであろう。

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。


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