アメリカで酷評が相次ぐ「HomePod」、だがアップルはこれでいい! なぜなら……

2018年02月27日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

先日アメリカ出張した筆者は、その期間がたまたまHomePodの発売日と重なったため、ホテル近くのApple Storeで製品版を試用し、購入に値すると考えて入手した。当然ながら、今はまだ日本語対応ではないものの、セットアップ時に、「日本語に対応したときにお知らします。」のメッセージが表示され、国内発売に向けての準備も進められていることが伺える。一日も早い日本語対応を期待しつつ、今回はアップル製品としての「HomePod」の在り方について考察してみたい。


▷「Siri対応のWi-Fiスピーカー」としての満足感

HomePodに関して「アメリカで酷評が相次ぐ」といった見出しのまとめ記事などを目にするが、実際に読んでみると、音楽サービスがApple Musicにしか対応していことや、セットアップの際にiOS 11.2.5以上をインストールしたiOSデバイスが必要なために、事実上、アップルのエコシステム利用者以外は使えないという指摘を「酷評」と呼び、読者の気を引こうとしている印象だ。

しかし逆に、筆者のようにアップルユーザーでApple Musicも使っている場合、「Siri対応のWi-Fiスピーカー」と考えれば、非常に満足できる製品といえる。日本語は使えないものの、元々、Siriは(というより、グーグルやアマゾンのAIアシスタントも)英語のほうがはるかに流暢で自然に話すので、音の良さとも相まって、限られた目的においては実際に人間のアシスタントと対話している感覚すら覚える。

また、想像よりもサイズが大きいという印象を持つ人もいるようだが、Amazon EchoやGoogle Homeに比べて大柄ではあるものの、筆者にはそこそこコンパクトに感じられ、リビングのテーブル上に置くことにした。重さが2.5kgもあり、おそらく音質を高める上で無駄な振動が生じないようにするための仕様と考えられるが、その重量感のためにかえって小ぶりに思えるのかもしれない。これまで、BGMの再生はGoogle HomeのSpotifyで行っていたが、HomePodが来てからは、完全にこちらにその座を譲った。

一方、今のところ、自宅にはAmazon EchoとGoogle Home対応のスマートコンセントや赤外線リモコンがある程度で、HomeKit応機器は未購入だ。そのため、HomePodでコントロールできるものがない状態だが、レスポンスも良好で、音楽再生だけでも十分な魅力を感じている。

▷ なぜ、HomePodにはアプリがないのか?

2017年初夏のWWDCでHomePodを年末にリリースする旨の発表があったとき、筆者は、アップルがHomePod向けのアプリ開発について一切触れていない点を、単に準備が遅れているためと考えていた。そして、実際の発売のタイミングになれば、何らかのアナウンスを行うだろうとも予想したが、今も何の情報もない。

もちろん、現時点でもHomePod上のSiriは、ニュースや天気、スポーツ結果、交通情報などのベーシックな質問には、Google HomeのGoogle AssistantやAmazon EchoのAlexaと同じように答えてくれる(英語だが)。しかし、サードパーティが、他のAIアシスタントのアクションやスキルに相当する音声応答アプリやサービスを開発する手段は用意されていない。

このことは、Siriそのものの制約なのだが、アップルにとってApple TV以上にホームデバイスの本命となりうるHomePodだけに、そろそろ解禁されても不思議ではないと思っていたのである。

ところが、実際に3種のスマートスピーカー(アップル自身は、そう呼んでいないが)を日常的に利用してみて、アップルがSiriのアプリを(少なくとも今は)許さないことには、深い理由があると思うようになった。それは、アップルが重視するユーザー体験と密接に関係するものだ。

たとえば、Alexaは、すでに日本でも400以上のスキルが公開されており、アメリカ本国では3万以上に上るとされる。しかし、それらを利用するには、個々のスキルを有効化しておく必要があり、これは、Alexaアプリから使いたいスキルを選択してボタンをクリックするという簡単な手順ではあるが、コンピュータやスマートデバイスにおけるアプリのインストールに相当する。その上で、「アレクサ、○○につないで」のようにサービス名を指定して起動し、セッションを行う必要がある。つまり、従来の機能拡張や追加の概念を踏襲しているわけだ。

これは、セッション中にいちいち「アレクサ」という起動ワードを使わずに済ますための工夫だが、サービスによっては一問一答形式にして、「アレクサ、○○で△△を教えて」のように、1つの問いごとに起動ワードを必要とするものもある。

また、Google Homeでは、スキルに相当するアクションはサードパーティのものでも有効化処理など不要で利用できるが、「OKグーグル、〇〇と話す」、「OKグーグル、〇〇につないで」のように、やはりサービス名の指定が必要で、名前を覚えておく必要がある。

しかし、AIの理想形を考えるなら、サービス名など不要で、訊きたいことを訊け、したいことができるべきだ。つまり、AlexaもGoogle Assistantも、特定の事柄を記憶しなければ使えないという意味では、DOS時代のキャラクターベースのインターフェースとさほど違わないとも言えよう。

むろん、Siriもその点では同列だが、スキルやアクションで拡張していない分、シンプルだ。アップルがSiriで目指しているのは、同社のデザイン哲学である「Just works(ただ、機能する)」と同じく「Just ask(ただ、訊けば良い)」という機能性であるに違いない。

事実、特にAlexa向けの日本のスキルデベロッパーは、日本語特有の同類語の処理をアマゾンではなく自分たちで行わねばならない点や、GUIとはまったく異なるシナリオベースのVUI(ボイス・ユーザーインターフェース)の構築に戸惑っており、結果としてスキルごとのユーザー体験もバラバラなのだ。

アップルは、初代Mac向けにユーザーインターフェース・ガイドラインを策定して統一的なユーザー体験を実現し、本当に使いやすいGUIを完成させた。そして、これが後のWindowsやTRONなどにも影響を与えていった。

iOSがiPhone OSと呼ばれた時代に、それが当初、テキストなどのコピー&ペーストをサポートしていないことでアップルは非難されたが、これに対して同社は動じず、タッチ操作におけるコピー&ペーストの作法を確立してから組み込んだ。

これはうがった見方だが、おそらくアップルは、明示的にサービス名などを指定せずとも、普通の会話のように必要な情報が得られたり、処理が行われる世界を目指しているはずだ。そして、もし何かのサービスに明示的に接続する必要がある場合には、それを選択肢としてユーザーに提示できることが理想である。

そのためにも、従来的な枠組みの中で安易にSiri向けのアプリ開発を進めるのではなく、VUI(Voice User Interface)のための新たなガイドラインのあり方を模索しており、それが整わないうちは、無理にアプリ対応を図らずに進むのではないかと思うのである。



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[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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