
第1話に引き続き、居山浩二氏が手掛けた作品を紹介し、その制作過程における思考プロセスに迫る。今回ご紹介するのは、珍しいジャンルにおけるグラフィック。東京大学医科学研究所にまつわる、一連の制作物にスポットライトを当てる。
今ある姿を良くするために
デザインを根づかせることが大切
──まずは、今回ご紹介いただける制作物について、概要から教えてください。
居山●東京大学医科学研究所の仕事です。研究内容などを分かりやすく説明するためのセミナーが定期的に開催されているのですが、その告知ポスターを依頼されたのが最初の縁でした。
──大学から発信する、一般向けのセミナーですね?
居山●そうです。このセミナーは、特に高校生が中心的なターゲットで、良い人材に入学してもらうための役割も大きいのです。ただ、僕が関わる以前には、来場者が少ないセミナーだったと聞いています。そもそも、タイトルが学術的な難しいものだったようなので、高校生には響かなかったのでしょう。
──たしかに、堅苦しい印象では、若者の心には響かないかもしれません。
居山●ハードルが高いものになってしまいますからね。それにビジュアル面でも同様の状態でした。だから、高校生向けのキャッチな要素として「ラブラボ」のタイトルを提案したのです。最初は「柔らかすぎて、許可が下りないかな」との不安もありましたが、先方にも積極的に賛成していただけました。
──新しい試みに対しても、柔軟に対応してもらえたのですね。
居山●ただ、やはり教授によって考え方は全く異なると思います。僕がお付き合いさせていただいている方は、その分野の研究では世界的な権威なのですが、とても深く理解してくださっているので、だからこそ実現できている側面もありました。
──なるほど。それで結果として、若い対象を惹き付ける試みは成功したのでしょうか。
居山●ええ、前年と比べて、大幅に来場者を増やすことができました。そうなると、会場でのスピーカー側のモチベーションも向上しますし、良いセミナーの実現にもつながります。これから大学に入ってくる学生にも訴えかけられる。セミナーに人を集めることが、単なる「集客」の目的以上に、研究所の発展に結びつくきっかけになる。そのようなことが実感できて、とても嬉しかった仕事ですね。
──このセミナーに関連して、ポスター以外にも制作したものはありますか?
居山●来場者にプレゼントするトートバッグなども作りました。持ち帰ってもらった後で話題になり、1つのメディアとしての機能を果たすことを目的としています。そのためには、自分でも使いたくなるようなデザインであることが必要でした。適当にセミナーの名称や大学名を入れるだけでは、日常では使いづらくて、すぐに捨てられてしまうでしょうから。
──たしかに、通常、学校などの機関が配布するものには、魅力的なものが少ないですよね。
居山●大学のような堅い領域では、ほとんど「デザイン」が導入されていませんので。最近、全体的に意識が高まってきた印象もありますが、まだまだ無頓着な学校も多いものです。
──そのセミナーに続いて制作された、鳥インフルエンザや感染に関するシンポジウムの告知ポスターも、とても大学発のものとは思えないほど洗練されています。
居山●このようなポスターは、学校内の掲示板などに貼りますが、とても目立っていました。僕がデザインしたものは、良い意味で「どうしちゃったの?」と言われたり、「このポスターを欲しい。折り曲げないで欲しい」と言われたりすることも多かったそうです。そのような反応は以前にはなかったので、主催者側も驚いていました。「しっかりとデザインに気を配れば、このような反響があるんだ」と実感なさったようですね。
──注目を集めることで、やはりモチベーションが上がる相乗効果があるのですね?



居山●そうです。「この研究所のシンポジウムやセミナーは、ひと味違う」と周囲から評価を受け、注視されることが、研究へのモチベーションの向上につながれば、やがて成果に結びつき、社会に還元される。だから、そのような分野にデザインを導入することは、すごく良いことだと感じました。
──学校のほかにも、デザインを導入する余地がある分野は、まだ多く残っているのでしょうか?
居山●たくさんありますよ。一例としては、良く言われることですが「公共の場」です。ただし、上っ面だけではなく、しっかりと根づくことが大切。何でも手当たり次第に手を加えれば良いわけではなく、今ある姿をより良くするうえで、デザインが重要な位置を占めることが大切なのです。
──それは、デザイナーにとって大切な姿勢ですね。
居山●自分に対しても、ある種の戒めとして言い聞かせています。デザインが、確立したジャンルとして広がりを見せつつある今だからこそ、良い仕事を世の中にたくさん見せていくことで、しっかりと世間にデザインが根づくようになれば良いなと考えているのです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「メニューを模したDMデザイン」について伺います。こうご期待。
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