
第1話に引き続き、artlessの川上俊氏が手がけたデザインを紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では写真集「Dark Matter」をピックアップ。独特な透明カバーの実現にまつわる秘話についても話を聞いた。
第2話 リスクの負担で実現した写真集の装丁
投げたボールは自分に返ってくるので
下手なものを世に出したくはない
──今回ご紹介いただける「Dark Matter」は、どのような写真集なのでしょうか。
川上●デジタルカメラで撮影するフォトグラファー、小山泰介さんの作品をまとめた小さな写真集です。僕は、彼が作品を撮り始めた頃からの知り合いなのですが、抽象的な視点の面白い写真を撮る方なんですよ。そんな小山さんの作品を、アート系の書店であるユトレヒトが気に入り、出版にいたったそうです。

──作品が掲載されている本文ページで、レイアウトをする際に気を配った点を教えてください。
川上●小山さんが撮影時に感じたことをストレートに見せるためにも、ノートリミングで写真を扱っています。ちなみに、余白の部分に盛り込まれている作品ネームは僕のアイデアです。
──まるでデータが並べられているようで不思議なテキストです。何を示しているのでしょうか。
川上●ファイル名や撮影した日時などが記述されています。プリントされて現物になっているけれども、実際にはデジタルデータであることを暗に主張しているわけです。これを見れば、デジタルカメラで撮影していることがわかるはずですので。写真界では「デジタルはダメだ」という風潮が根強くありますが、そこに真っ向から向かっていくのも良いのではないかとの思いから生まれたアイデアです。
──撮影した場所も記載されていますね。
川上●一見しただけでは何が撮影されているかわからない抽象性が小山さんの作品の魅力なのですが、一読者の立場で考えると、その写真の詳しい情報を示すべきだと感じました。その情報が記載されていることで、写真だけを並べて見ている状態とは異なる新しい見方ができるのではないでしょうか。
──それら数値データを羅列した透明のカバーも、この写真集の装丁で印象的なところです。
川上●作品を尊重する意味でも、表紙には文字を何も入れないようにしようと考え、表1ー4には写真1点のみを掲載しました。ただ、ビジュアルだけでは何の本かわからないので、カバーを透明にして、そこにタイトルなどを示す黒の文字を刷ったわけです。

──ビニールへの印刷ですがキレイに刷られていますね。
川上●この部分はシルク印刷です。印刷の際に「あまり色が乗らない」と言われていたのですが、細かい割には意外とキレイに刷ることができました。ただ「少しくらい削れてしまって構わない」とも考えていたのです。削れたとしても、それはそれで味わいがありますし、その本は一点ものになりますよね? そんなポジティブな考え方も大切だと思うんです。
──このような薄めの冊子にカバーを付けることは珍しいように感じますが、いかがでしょうか?
川上●ユトレヒトが発行している同様の小冊子でも、予算の都合上、通常はカバーが付きません。ただ、それでは捨てられてしまうと感じたので、リスクをシェアしながら、この形態を実現しました。カバーの印刷費を僕と小山さんで支払ったのです。
──リスクを負ってまで発行するとは、思い入れの強い本だったのですね。
川上●予算がなくても工夫次第で良いものを作ることはできるし、譲れない部分は自分でリスクを背負えばいい。やり過ぎはあまり良くないかもしれませんが……(笑)。
──今回の透明カバーは「どうしても譲れない部分」だったわけですね。
川上●そうですね。重要なのは、クオリティです。世に出したものは絶対に自分に返ってくるので、下手なボールを投げてしまったら取り返しがつかない。そもそも下手なボールなら投げたいとも思いません。小山さんにとっても、今回の本はリリースすることに意義があったと思いますし、これが次の仕事に繋がる可能性もあるはずですからね。(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「ブランディングにおける統一性」について伺います。こうご期待。
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