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第3話 感覚に根ざしたデザイン「atoのDM、インビテーション」

2024.5.22 WED

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前回に引き続き、米津智之氏が手がけた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話ではファッションブランド「ato」のDMやインビテーションなど、一連のグラフィックをピックアップ。




第3話
感覚に根ざしたデザイン
「atoのDM、インビテーション」




言葉を必要としない意識の共有


今回紹介するのは、ファッションブランド「ato」のグラフィックワーク。シーズンごとのDMやコレクション開催を告知するインビテーションなどに用いられているものだ。米津氏はファッションの領域は、ある種「音楽」と同様の特徴を持っていると話す。


「ファッションの分野も感覚に依存する側面がとても強いと思います。特にatoの仕事の場合には、先方が洋服やデザイン画で“こういう感じにしたい”とコンセプトやメッセージを提示してくれるのに対して、こちらもグラフィックで“こういう感じにしたい”とコンセプトやメッセージを返している。感覚の部分で会話しているところが大きいのです。もちろん、クライアントによっては、理論的な説明が必須なこともあります。ただ、この仕事に関しては“米津君の感覚が好きだから、それを前面に出してほしい”との依頼だったので、理論的な言葉を用いて意識を共有する必要がないのです」


深い信頼関係のうえに成り立つビジュアルコミュニケーション。「ato」がデザイナーズブランドであることも影響しているためか、自由度が非常に高い仕事のようだ。
「シーズンごとの洋服のテーマに合わせた制約も、それほど多くはないです。むしろ“こちらがインスパイアされるようなものを作ってほしい”とさえおっしゃって頂いています。異なる職業だけれど、お互いに刺激を与え合うような関係です」


「いいものができた」と納得できる瞬間


そのようなプロセスで生み出された印刷物の数々は、どれも抽象性の高いものばかり。理詰めのプロセスが必要とされる仕事とは異なり、そこで重要となるのは「感覚」。線の角度や色のバランスなども、当然のことながら自分の感性を頼りに決めていく。
「このようなグラフィックを作っていく際には、当然のごとく“理論的なゴール”は存在しないのです。ただ、創造を続けていく中で感覚的に良いものができたと思える瞬間がある。そこが着地点になります」


だが、制約や正解がないからこそ、反対に難しい点も存在する。「本当にこれが最高の出来映えなのだろうか?」と悩むことも多いはずだ。「作業の工程で、あらためて見返してみると“やっぱり違う”と迷うことが多い」と語る米津氏。だが同時に次のように語り胸を張る。
「過程の段階では迷いも多いのですが、やり抜いてフィニッシュしたものはすべてにおいて、これ以上はないと自信を持っています」


プレッシャーも「楽しめる」要素の1つ



米津氏が、これまでに「ato」のグラフィックを担当してきた期間は2シーズン。2007年の「AUTMN/WINTER EXHIBITION」のインビテーションは黒地に銀で構成し、続く2008年の「SPRING/SUMMER EXHIBITION」では色面を効果的に用いたビジュアルを展開している。ただし、これらの変化は、あらかじめ決めてあったものではない。

「atoのようなファッションに関する仕事では特に、前もって長期的なプランを立てることは不可能です。面白いことや旬なことは時代に応じて常に変わりゆくものですから。ある瞬間にこそ生まれるクリエイティビティが存在するはずで、そこを外すことはできません」


世の中の動きを敏感にキャッチし意義ある新しいものを創り続けること。それには膨大な気力を必要とし、とても困難な営みであるように感じられる。そんな心配をよそに、米津氏は力強い言葉を残してくれた。

「何事も簡単にクリアできては楽しくないですよ。atoの仕事でも、先方に信頼してもらえるからこそ、その反面、応えなければならない責任がつきまといます。でも、そのようなプレッシャーも大切な要素の1つ。難しいからこそ楽しい側面もあると思うのです」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第4話は「デザイナーの本分」について伺います。こうご期待。





米津智之
1974年、愛知県出身。1998年、多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。ヒロ杉山氏の「エンライトメント」にて設立時よりチーフデザイナーを務め る。2002年、独立。Tiffany Godoyとのディレクターユニット「絵露帝華」を結成。ファッション関係、音楽関係、広告関係を舞台に、アートディレクター、グラフィックデザイナーと して活躍中。マネージメントオフィスFemme所属。http://www.femme-de.com/

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