第4話 デザイナーの本分「各種ファッションカタログ」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第4話 デザイナーの本分「各種ファッションカタログ」

2024.5.21 TUE

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて









米津智之氏によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、「5351 POUR LES FEMMES」をはじめとする、さまざまなブランドのファッションカタログに注目する。



第4話
デザイナーの本分
「各種ファッションカタログ」





カタログの違いを決める要因


第3回で取り上げた「ato」以外にも、米津氏の手がけている仕事には、ファッションに関連したものが多い。当然のことながら、それらの制作物の中にはカタログも多数含まれている。その特徴は千差万別で、デザインするうえで押さえておくべきポイントを、一概に語ることはできない。
「クライアントによって方向性は異なるので、最適な表現方法も異なります。イメージ優先で依頼を受けることもあるし、ユーザーにわかりやすくしたいとの要望が強いこともある。たとえば、幅広い層をターゲットとしている場合には、そのことも踏まえて、より多くの人に受け入れられるような工夫も必要となるわけです」


イメージを重視することと、わかりやすくすることの違いとは何だろうか。それは単に洋服のディテールを見せるかどうかだけで決まるほど安直な話ではない。
「メイクを施すバランスやモデルの特徴、写真の背景など、さまざまな要因が影響します。たとえば『BODY DRESSING Deluxe』、『5351 POUR LES FEMMES』、姉妹ブランドである『Jewel VOCE』と『COUP DE CHANCE』などのカタログは、いずれも各ブランドの洋服を着たモデルを撮影している点では同じスタイルですが、背景だけを比較しても、建物の前だったり、街の中だったりと、それぞれに違いがあるものです」


屋外ロケにおける難しさ


街角をバックにした「5351 POUR LES FEMMES」のカタログ写真は、渋谷で撮影されている。ロケ地を選ぶ際にも、クライアントの求める方向性との兼ね合いが大きな決め手となった。
「このブランドのカタログでは、ターゲットにとってわかりやすく、かつ高級感が感じられることが要求されました。そこで設定したテーマが“night jewel(夜の宝石)”。このコンセプトだけを見ると、パリの風景などを背景とするアイデアも候補としてあげられるでしょう。ただ、そうするとターゲットにとってのリアルさが欠け、ややわかりにくくなってしまう懸念がありました。そこで、撮影は渋谷で行うことにしたのです」


外で撮影する場合には、数々の注意点がある。そこに配慮しておくことも、アートディレクターの重要な役回りだ。
「屋外ロケだと天気は読めない。カタログの仕事などでは、簡単に撮影日程を変えられないことが多いため、雨天の場合の対処法も、あらかじめ考えておかなければいけません。人通りや天候の移り変わりにも注意しながら最適なタイミングで写真を撮る必要もあります。その時々の状況に合わせて、臨機応変に動く必要があるのです」

デザイナーのこだわるべきポイント


撮影が終了しても、デザイナーの仕事は終わりではない。そこから先が、まさに腕の見せどころとなる。

「同じ写真であっても、トリミングの仕方、掲載する順番など、どのようにレイアウトするかで、まったく印象が変わってしまいます。あくまでも写真は情報を伝える要素であって、どう伝達するかは生かすも殺すもデザイナー
次第なんです。だからアートディレクターがデザイナーを兼ねる場合には、デザインの主張をどの程度に留めるのがベストかを見極め、“デザイナーとしての自分”を制御する必要があります。
現場をまとめて総合的にプロジェクトを成功させるのがアートディレクターの仕事なら、デザインやレイアウトはその一工程。両者はまったく異なるベクトルにあるものなんです」


これら言葉を踏まえてそれぞれのカタログを見返す。すると、たしかに媒体ごとにトリミングの枠の取り方などが異なっていると気づかされる。その妙技は注意してみて初めて気付くもの。一般の消費者が意識するレベルのものではない。だが「デザイナーがやらなければいけない仕事は、まさに“そこ”」と強調する米津氏。

「常にデザインが主張しなければいけない必然性はなく、あくまでも“それくらいのこと”が大切になる場合もあると思います。縁の下の力持ちを担うことで、メッセージをより良く見せられるのであれば、地道な工夫は絶対に必要でしょう。デザイナーはこだわりぬく“裏方のプロ”である側面を大切にするべきだと思います」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


「このアートディレクターに聞く」第18回米津智之さんのインタビューは今回で終了です。次回からは山田英二さんのお話を掲載します。





米津智之
1974年、愛知県出身。1998年、多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。ヒロ杉山氏の「エンライトメント」にて設立時よりチーフデザイナーを務め る。2002年、独立。Tiffany Godoyとのディレクターユニット「絵露帝華」を結成。ファッション関係、音楽関係、広告関係を舞台に、アートディレクター、グラフィックデザイナーと して活躍中。マネージメントオフィスFemme所属。http://www.femme-de.com/

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在