第1回 守られる情報とフリーな情報の境界線 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

デザイナーのための著作権と法律講座


第1回 守られる情報とフリーな情報の境界線


今回から、アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による連載がはじまります。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説したいと思いますので、よろしくお付き合いください。

文:弁護士 諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)



■ 「激おこぷんぷん丸」は独占できるか


ホームページやロゴ制作の依頼を受け、「使える」フレーズがないかインターネットで探すこともあるでしょう。見かけたものを参考に、制作にとりかかるとき、ふと気になるのが著作権です。

著作権とは、「著作物」という情報に認められる権利です。「著作物」とは何かというと、①その人の考えなど(思想・感情)を②オリジナリティをもって(創作的に)③表現したもの、と定められています。例としては、小説、音楽、美術、映画、写真などがあります。これだけではわかりにくいと思いますので、逆に著作物に当たらない情報を挙げてみましょう。

たとえば、気温のデータなどの「事実それ自体」は、思想や感情を表現したものではなく、著作物にはなりません。誰かが平安時代の気温について古文書をひも解いて「発見」したとしても、それは著作権では守られません。また、ありふれた文章やキャッチフレーズ・標語・スローガンなどの短い文章は、事実そのものであることや、誰が書いても同じような表現にしかならないケースが多く、著作物とならない場合が多いでしょう。

その意味で、「いつやるか?今でしょ!」といった短いフレーズは、表現それ自体にはオリジナリティがないと考えられます(なお、弊所の桑野が取材協力した記事はこちら)。同様に、「激おこぷんぷん丸」や「ガチしょんぼり沈殿丸」などの単語は誰かに独占させるほどのオリジナリティのある表現とはいえず、これも著作物でないと考えられます。

Book ただ、短いからといって全て著作権がないというわけでもありません。たとえば、多くの俳句には著作権があるといわれています。裁判例でも、交通標語「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」は筆者の個性が現れているとして著作物だと判断されました(東京地裁平成13年5月30日判決)。



■ 著作権という「武器」


ある表現に著作権が認められると、その著作物の利用を基本的に独占することができます。そのため、著作物を著作権者の同意なくコピーし、アップロードなどをすると原則として著作権の侵害となります。著作権侵害に対し、著作権者は、その侵害行為を強制的に中止させること(差止)や損害賠償などを請求することができます。さらに、被害者の告訴があれば、刑事罰の対象ともなります。

なお、著作権に加えて、著作者には「著作者人格権」という権利もあります。これは、未公表作品を公表するかしないか、公表する場合にはいつどのような形で公表するか決定できる権利(公表権)、著作者名を表示するか、どのような名前をつけるか決定できる権利(氏名表示権)、著作物の内容や題号を無断で改変されない権利(同一性保持権)の総称です。著作権は他の人に譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できないのが特徴です。


■ アイディアが使われたら


雑誌に使用するロゴ制作の打ち合わせで、デザイナーが「レトロモダンな、伝統と上品をモチーフにした、イギリス人風紳士が立っているセピア色のロゴ。真ん中にタイトルを入れる。」とのコンセプトを提案しました。しかし、その後自分には仕事の依頼はなく、提案したコンセプトをもとに、勝手に他のデザイナーが雑誌のロゴを制作しているのを見つけたとします。このとき、コンセプトの無断盗用でクライアントに対して何かいえないものでしょうか。

先ほど、著作物は「表現したもの」である必要があるとご説明しました。逆にいうと、表現として形をとる以前の「アイディア」には著作権がありません。これは、アイディアを独占させると、自由な創作活動に支障が生じるためです。たとえば、「BLACK JACK」の主人公の「顔に手術痕のある外科医」に著作権があると、ブラックジャックとは似ても似つかない顔に手術痕のある外科医にも長期間の独占権が発生してしまい、そのような絵が一切描けなくなってしまいます。

さて、先ほどの話に戻りますと、デザイナーがいくらコンセプトを出したとしても、そのロゴの制作に具体的に関与していない場合には、出した提案は「アイディア」にとどまり著作権はないと考えられます。
hat この場合のデザイナーが自分のアイディアを守るための手段としては、理論上は、「このアイディアを第三者に開示してはいけない」という秘密保持契約を雑誌側と締結した上で、アイディアを提供することなどが考えられます(現実には容易では無いでしょうが、海外では例が見られます)。


■ 著作権は永遠に続くのか


著作権があるといっても、どんなに古いものでも保護されるわけではありません。著作権は、私たちの社会全体の創作活動を促すための権利です。ある期間は著作権を守って創作者が作品から収入を得られるようにする代わり、その後は自由に使えるようにすることで、文化の発展をはかろうとしています。

そのため、著作権には保護期間があります。現在の著作権法で定められている保護期間は、著作物創作時からスタートし、原則として「著作者の死後50年まで」です(著作者が不明な場合や団体発行の作品は公表後50年まで、映画の場合は公表後70年まで)。

なお、先ほどの「死後50年」といった保護期間の計算は、「死亡・公表の翌年の1月1日」から始まります(著作権法57条)。2013年時点では、1962年12月31日以前に死亡した方の作品であれば、基本的には著作権の保護期間が満了しています(ただ、今の著作権法に変わる前の法律の適用があるケースや、海外の著作者の場合の戦時加算などの例外があります)。

この著作権の保護期間が満了した作品は、「パブリックドメイン(PD)」と呼ばれ、誰でも自由に利用できます。たとえば、1962年に亡くなった吉川英治や柳田國男の小説は、2012年末で著作権の保護期間が満了しました。そのため、2013年から、著作権フリーの電子図書館「青空文庫」で読めるようになりました。

ただし、著作権の保護期間が満了していても、その著作物に変更やアレンジを加えるときに注意しなければならないのが、著作者人格権(同一性保持権)です。基本的に著作者の意向に反する変更ができないという権利で、著作者の死後も、著作者の孫までは差止などを請求できます(著作権法116条)。そのため、PDであっても、アレンジなどを加える場合には、死後50年以降も注意しなければなりません。


  アートと権利、今月の話題 

  裁判(2013年5月分)

 「東京地裁、ニコニコ動画の無断投稿に1,000万円の支払い命令」

総合格闘技の試合を撮影・編集した映像3点を無断で「ニコニコ動画」に投稿した者に対し、東京地裁は5月17日に1,000万円の損害賠償を命じた。映像は、2010年9月から翌年1月までに約34,000回視聴されたが、判決では、製作者が損害額の一部として請求した全額の支払いを認めた。

過去にも、漫画作品をネットで無断配信した「464.jp」では、一部請求した2,000万円超の損害賠償が認められたように、ネットは作品の流通・拡散を容易とした反面、閲覧数などが通常の海賊版とはケタ違いに伸びやすい。そのため損害賠償額が高額化しやすいというリスクを改めて見せつけた例といえる。



  動向

 「米Amazon、二次創作作品を公認販売する「Kindle Worlds」を発表」

米Amazonは、5月22日に、原作者の許諾を得た作品に基づく二次創作作品を販売する「kindle Worlds Store」を6月にもオープンすると発表した。二次創作可能な原作は「ゴシップガール」など3作品で、それに基づいた小説を自由に創作可能。同時に、ポルノ、人種差別的中傷・暴力、著作権などを侵害するコンテンツは販売できない旨のガイドラインも公表した。

TPPによる著作権侵害の「非親告罪化」がネット・コミケ界隈で大きな話題を集める中、権利者公認の二次創作を可能にする米Amazonの試みは、原作品の収益と二次創作文化の両立という意味で興味深い。


●参考文献:福井健策『著作権とは何か―文化と創造のゆくえ』(集英社新書、2005)
●参考文献:松島恵美=諏訪公一『クリエイターのための法律相談所』(グラフィック社、2012)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2013年8月号)の記事に、一部加筆修正したものです。



●骨董通り法律事務所の最新の活動(セミナー・講演、メディア出演、執筆活動など)はこちら


次回は「イラスト利用時の作法:初級編―盗作しないために」をお送ります。まだ記憶に新しい「マリメッコ盗作事件」を例に、創作的表現について解説していきます。

つづく

2013/12/18




【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


住所:東京都港区南青山5-18-5 南青山ポイント1F
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