第3回 月影のトキオ(1) | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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『エヴァ』のスタジオカラーや神風動画が語る!
日本アニメ(ーター)見本市の“短編アニメ発想法”


『ジョジョ』の神風動画と須田剛一が挑む!
違和感が面白い、ツギハギだらけのアニメーション

水野貴信(神風動画)×須田剛一インタビュー

第3回「月影のトキオ」
アニメ監督・水野 貴信(神風動画)×シナリオライター・須田 剛一(グラスホッパー・マニファクチュア)

2015年5月1日 Text:秋山由香(株式会社Playce)

さまざまなクリエイター陣がジャンル不問で短編アニメを制作し、毎週金曜日に1本ずつ公開していく「日本アニメ(ーター)見本市」。『エヴァンゲリオン』でなおなじみの庵野秀明監督や、『キルラキル』を制作したトリガーをはじめ、日本のアニメ業界を牽引する錚々たるメンバーが次々と個性的な作品を生み出しています。2015年4月3日に公開された『月影のトキオ』を制作したのは、テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のOPを手掛ける個性派プロダクション、神風動画。シナリオは、『killer7』『ノーモア★ヒーローズ』シリーズ、『ロリポップチェーンソー』などのビデオゲームを制作した須田剛一さんが担当しています。CGを駆使した独特の世界観がウリの神風動画と、ファンから「須田ゲー」と慕われるほどの“濃ゆい”ゲームを作る須田剛一さん。そのクリエイティブ観や、両者が交わることで生まれた新境地、制作のノウハウなどについてお聞きしました。



クリエイティブの原点は、『幻魔大戦』とタイガーマスク……!?

─― おふたりとも、他者には真似のできない独特の作品世界をお持ちでいらっしゃいますよね。その原点は、どういったところにあるのでしょうか? なにか影響を受けた作品はありますか?

水野監督(以下、水野)● アニメだと、子どもの頃に観た『幻魔大戦』かもしれませんね。作品全体からあふれ出るワクワク感と、言いようのない怖さ。その双方に惹きつけられ、夢中になってアニメを観ていたことを覚えています。それが自分の作品に、ちょこちょこにじみ出ているなあと感じます。

須田さん(以下、須田)● 実は2013年に、僕らと神風動画さんとで『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』というゲームの映像制作でご一緒しました。『幻魔大戦』は僕も大好きで、“ベガ”というロボットの登場シーンが、ものすごいインパクトで、とにかく怖い(笑)。あれは鮮烈でしたよね。

水野● カッコいいロボットを描くことも意識していました。ロボットアニメという意味で影響を受けたのは、『超時空要塞マクロス』でしょうか。メカの色使い、造形、どこか懐かしい雰囲気。『マクロス』の影響をモロに出した作品を作ったこともありました。

─― 『幻魔大戦』の持つ劇画感と、『マクロス』のメカアクション、それらが水野監督の作風につながっているというのは、なんとなくわかるような気がします。須田さんはいかがでしょう? どんな作品に影響を受けましたか?

須田● 僕は作品というよりも、アニメ、プロレス、ロック、この3つのジャンルに影響を受けてきました。アニメの作画監督でもっとも好きだったのが金田伊功(※)さん。小学校5年生ぐらいのときにアニメの作画を意識するようになり、金田伊功さんを知って、それからアニメ雑誌を買い漁るようになりました。プロレスで好きだったのが、タイガーマスクやテリーファンク。彼らの動きと、作監さんが生み出すアニメの動きというのが、僕の中でものすごくリンクしていて。以来ずっと、「アニメとプロレスはどこかでつながっている」と信じ続けています(笑)。
 アニメ、プロレス、ロックは、僕の血のようなもの。つくるゲームや書くシナリオ、すべてにその影響が出ているんじゃないかと思いますね。

※金田伊功(かなだ よしのり)…1952年生まれのアニメーター。『ゲッターロボ』『サイボーグ009』などの原画を手掛けたのち、劇場版『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト 完結編』『幻魔大戦』を担当した。メカ作画のスペシャリストとしても知られるスターアニメーター。宮崎アニメの常連でもあった。2009年没。

なにが出てくるかわからない、予測不可能なものをつくりたい

―― これまでに制作した作品の中で、特に印象に残っているもの、転機となったものがあれば教えてください。

水野● HIFANAというアーティストのPV、『WAMONO』ですね。この作品でアニメ監督としてデビューしました。個性的で味のある素晴らしいストーリーボードを頂いたのですが、それだけに「これをどう動かすか」に頭を悩ませまして……。特に気を遣ったのは、波の表現。平面的でいろいろな種類の波をストーリーボードのイメージを壊すことなく気持ちよく動かすことを意識しました。また、無機質な3DCGに見えないように、膨大なカットをうまくつなぎ合わせ、手描き感を演出するよう工夫しています。

最新の技術に工夫と研究を加え、他にはない表現手法へと進化させる――。それが、僕たち神風動画のこだわりです。『WAMONO』では、そのこだわりをしっかりと作品に落とし込むことができたと感じています。


2005年に公開された『WAMONO』。文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞した名作PV

須田● 僕はニンテンドー ゲームキューブ向けのアクションアドベンチャーゲーム『killer7』が印象に残っています。僕にとってはじめての世界向けゲーム。どういった表現を組み込めばいいのか、自分の中にあるどんな体験や感覚が“世界”に通用するものなのか。そんなことを、ひたすら考えまくっていたような気がします。このときは、あえて外からの情報を遮断し、インプットを排除して、ただただ自分の中にあるものを絞り出すような制作の仕方をしていきました。その結果、僕の血、そのもののようなゲームが出来上がった。例えば、映像表現。一般的なセルアニメのものとは異なるトゥーンシェーダーを使い、アウトラインの線をなくして、階調も2階調のみに絞りました。他のゲームにはない面白い画作りができたと思っています。

原案を一手に担当した『killer7』 原案を一手に担当した『killer7』
須田さんが、監督、脚本、ゲームデザイン、原案を一手に担当した『killer7』。2005年に発売され、その斬新な演出が話題となった
(C)CAPCOM CO., LTD, 2005 ALL RIGHT RESERVED.

―― シナリオについてはいかかでしょう? どんなことに気をつけていましたか?

須田● 『killer7』に限ったことではないんですが、常に「なにが出てくるかわからないようなものをつくりたい」と思っています。子どもの頃、僕らは大人たちに『ガンダム』や『マクロス』をはじめとする“とんでもないもの”を見せられてきました。大人になった今、「今度は自分たちが、若い人たちに“とんでもないもの”を見せる番なんじゃないか」と思うようになって。視聴者やプレイヤーにこれまでにない体験を提供するようなシナリオを書くよう意識するようになりました。

ときには劇物のような要素を入れることもあるんですよ。初めてシナリオを書いたデビュー二作目のプロレスゲームでは、努力に努力を重ねチャンピオンになった主人公が、ラストシーンで猟銃で自殺してしまうというエンディングを用意したこともありました。ファンからは「金返せ!」とものすごく怒られたんですが(笑)、それで腹がくくれたというか。ビデオゲームで表現をしていこう、と思えたんですよね。

水野● ちょっと前に須田さんが「作った自分がどれだけ驚けるかが勝負だ」みたいなことをおっしゃっていて。それは僕も、ものすごくわかるなあと共感しました。

『月影のトキオ』は、メカあり恋ありの“ごった煮”の物語


4月3日に公開された『月影のトキオ』。水野監督、須田さんのほかに、AC部、桟敷大祐さんが参加している

―― おふたりがタッグを組んで、「日本アニメ(ーター)見本市」のために制作された短編、『月影のトキオ』について教えてください。どのような物語なのでしょうか?

『月極蘭子』の銃撃シーン
『月極蘭子』の銃撃シーン。打ち抜かれた頭部から、血しぶきのように麻雀牌が飛び散っている。「キャラの内面にあるものを表出させた」と水野監督
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
須田● 『月影のトキオ』は、月の番人である「トキオ」という少年の物語です。トキオの主な任務は、宇宙の宝である地球を守ること。日々、凶暴な侵略者を迎撃し、駆逐するという“仕事”を遂行しています。地球を目指してやってくる観光客に渡航許可を出すという役目も担っている、いわば役人的な存在。そんな彼が、趣味のアマチュア無線を通して知り合った「世津子」に恋心を募らせていく様子を描きました。メカアクションあり、ラブストーリーあり、コメディあり、アートありの、まさに“ごった煮”の物語。お腹いっぱい、味わっていただけると嬉しいですね。

―― どのような経緯で、「日本アニメ(ーター)見本市」に参加されることになったのでしょうか?

須田● MAGES.の会長でドワンゴの取締役の志倉千代丸さんに「やってみませんか?」と声をかけられたのがきっかけです。絶対にやりたかったので、参加が正式に決まる前に、神風動画さんに声をかけてしまいました(笑)。神風動画さんとは冒頭でもチラリとお話した通り『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』というゲームでご一緒しておりまして。面白いものを作ってくださる、すごいプロダクションだということがわかっていたので、まったく迷いなく直感的に「またご一緒したい!」と思えたんですよね。それからババッと物語を考え、企画書を提出して……。あれよあれよという間に制作が決定しました。

水野● 声をかけていただいて、「やった、また自由に作品づくりができる!」と思いました(笑)。『月極蘭子』のとき、本当に自由に、のびのびとやせていただいたので……。ヤクザが頭をぶち抜かれるシーンで、血の赤色を頭から麻雀の赤牌が飛び散ることで表現するような演出を須田さんからご提案いただいて、「ああ、この人はなにをやっても大丈夫な人なんだな」と確信したっていう(笑)。ご一緒できると聞いて、とてもワクワクしました。


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水野 貴信氏

【プロフィール】
水野 貴信(みずの たかのぶ)/1973年生まれ。アニメーション監督。CGを駆使して斬新な映像表現を生み出すプロダクション、神風動画に所属している。2005年、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞したHIFANAの『WAMONO』に、PVアニメーション監督として参加。その他、Mr.Children TOUR 2009・2011バックスクリーン映像、Base Ball Bear『十字架 You and I』MV、MTV VMAJ2014イベント演出映像、理研PR映像『未来光子 播磨サクラ』などの監督を担当する。

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