『エヴァ』のスタジオカラーや神風動画が語る!
日本アニメ(ーター)見本市の“短編アニメ発想法”
カノン砲から牛!AC部が生み出す、奇想天外なアクションシーン
(c) nihon animator mihonichi LLP.
―― こトキオが放つ「メガカノン」のすごさには圧倒されました。ビームかなにかが発射されるのかと思いきや、牛やら死神やらトキオ自身やら、あらゆるものが飛び出してくる。あのカオスなシーンは、どのようにして生まれたのでしょうか?
こちらが絵コンテ。実にラフな印象だ。「信頼できるクリエイターに参加していただいているので、ラフな絵コンテでも大丈夫なんですよね」と水野監督 |
須田● 僕も、まさかあんなことになっているとは思ってもみませんでした(笑)。ギリギリまで内緒にされていて、なにも知らされていなかったものですから……。なにがすごいって、牛がすごい。カノン砲から1回牛が飛び出してきて暴発して、それが爆発するっていう。いや、笑いましたね。
水野● AC部の板倉俊介さんに「なんで牛なんですか?」とお聞きしたら、たまたまAC部の安達亨さんが描かれたラフが、「牛っぽく見えたから」、と(笑)。「これ、牛っぽくない?」「じゃあ牛でいいんじゃね?」と話して、あのようなシーンが生まれたとお聞きしました。
須田● 素晴らしいやりとりですね……(笑)。
水野● あの適当な絵コンテでここまで面白いシーンをつくってくださるとは、さすがAC部さんですよね。信頼できる素晴らしいクリエイターと仕事ができ、そしてなにより須田さんを驚かすことができて、感無量です!
上がってきた素材を最大限に生かす、CGの調整法とは?
―― 宇宙人のスペンサーにコーヒーを持っていくシーンも面白いなと感じました。ゲームを思わせるような一人称視点のカメラワーク、アナログ感のある柔らかい印象の3D空間……。独特の空気を生み出す工夫が詰め込まれていますよね。
水野● ありがとうございます。CGをいかにもCGらしく作ってしまうと、人間らしいあたたかさや面白みが消えてしまうんですよね。ですから、わざとアウトラインの線にゆがみを入れたり、ノイズを加えたりして、アナログ感を演出するよう心掛けました。それから、AC部さんが描く宇宙人とうまくつながるように、僕のほうであれこれとCGを調整しています。AC部さんが描く宇宙人は、強烈な個性を放つ、かなり異質な存在です。こうしたキャラクターとアニメの世界をつなぐには、その接着点を“なじませる”作業が欠かせないんですよね。途切れることなくスムーズに作品を観ることができるように、特にAC部さんが担当されているパートの前後をなじませることには気を配りました。
―― 3D空間と宇宙人は、どちらから先に着手されたのでしょうか?
水野● ほぼ同時進行で制作しました。しかも今回は、参加クリエイターから上がってきた素材には基本的にリテイクを出さないという方針で進めていて。だからこそいい塩梅で“なじませる”必要があったんですよね。
―― 宇宙人のシーンが上がってきたとき、どのようにお感じになりましたか?
水野● 「すごいの、来た!」と思いました。白いコーヒーカップがなぜかピンク色だったり、ソーサーがいきなり膝に乗ったり……(笑)。AC部さんの面白さが詰まったカットに仕上がっているなあと思いました。そういう個性やいい意味での違和感を生かすような、ほどよいところでのCG調整を行ったつもりです。
須田● 水野さんの調整は、キレイすぎず、かといって決して雑ではないところがいいんですよね。スムーズに視聴できるような流れをつくりつつ、わざと少しだけ「あれ、変だぞ」というちぐはぐ感を残している。絶妙なさじ加減で宇宙人の面白さを引き立たせている辺り、素晴らしいなあと感じました。
メイドロボット・ルナルナがコーヒーを出すシーン。宇宙人・スペンサーがコーヒーを受け取る瞬間に、
水野さんの“なじませ技”が隠されている
(c) nihon animator mihonichi LLP.
『ガンダム』を超えるメカアクションを作りたい!
―― メカアクションも見どころのひとつではないかと思います。どのようなことを意識して制作されたのでしょうか?
トキオが操作するパワーローダのラフ。メカのデザインも、キャラクター同様、桟敷大祐さんが担当している |
須田● 特に、「月影のトキオは伊達じゃない!」というセリフの辺り。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の名セリフのオマージュなんですが、制作スタッフの方がそれを汲み取って、まさに『逆シャア』ばりのカメラワークを再現してくださった。僕の思いを察して頑張ってくださって、とても嬉しかったです。グリグリ動く、めちゃくちゃカッコイイカメラワークが見られますので、ぜひぜひ、ご注目ください!
こちらが戦闘シーン。メカアクションだけ見てもカッコイイ、完成度の高い仕上がりになっている
(c) nihon animator mihonichi LLP.
水野● その他、1つの作品の中で1人のキャラクターが何種類もの作風で登場するという試みにも挑戦しました。セグウェイに乗っている牧歌的なトキオ、スペンサーと対面するシーンのぼんやりしたトキオ、戦闘シーンのシャープなトキオ、世津子を迎えに行くときのメルヘンチックなトキオなど……。これらの質感の違いにも、ぜひ着目してくださいね。
各シーンのトキオを並べてみると、明らかな違いが見てとれる。異なる表情、雰囲気が面白い
(c) nihon animator mihonichi LLP.
トキオは世津子のストーカーだった!? 衝撃の裏設定が判明!
―― 『月影のトキオ』には、さまざまな裏設定があるとお聞きしました。なにか面白い裏設定があったら教えてください。
須田● いろいろあるんですが……。例えば、トキオの部屋に貼ってある膨大な量の“世津子写真”。あれ、実は、スペンサーが盗撮したものなんです(笑)。スペンサーはトキオに許可をもらって地球観光ツアーを行っているわけで、いわばワイロ的な感覚で、世津子の写真を提供しているんですよね。
ちなみに世津子は、八ヶ岳に住んでいることになっています。過去に東京観光でスカイツリーにやってきたことがあり、そのとき偶然居合わせたスペンサーが、たまたま世津子が写り込んでいるスカイツリーの写真を撮ってしまって……。トキオにスカイツリーを自慢するつもりで写真を見せたところ、「この可愛い女の子は誰だ」となって、そこから恋が生まれました。やがて世津子がアマチュア無線をやっていることを知り、スペンサーに秋葉原で無線セットを買わせて、交信をはじめた、と(笑)。
―― す、すごい裏設定ですね……(笑)。
須田● こういう設定は、だいたいいつも、シナリオを書きながら考えています。シナリオに生まれるちょっとした矛盾を潰していくようなイメージでしょうか。これがあるからこそ、納得しながらシナリオを書き進めることができるんですよね。他にもいろいろな裏設定があるんですが、それはテレビアニメか劇場版で改めて描くということで(笑)。まずは理屈抜きに、6分間の“ヒーローアクションラブストーリー”を、楽しんでいただきたいなと思っています。
水野● 僕は「いろいろなクリエイターがコラボした、"小さい見本市"のような作品をつくる」ということにこだわって制作に取り組みました。アニメーターだけでなく、アートユニットやミュージシャン、さまざまなジャンルのクリエイターが交わることで、とんでもなく刺激的な作品が出来上がる。その面白さや可能性を感じていただければ幸いです!
第16話「月影のトキオ」
原作・脚本:須田 剛一
監督:水野 貴信
キャラクターデザイン:桟敷大祐
音楽:Norihito Ogawa
アニメーション制作:神風動画
【プロフィール】
須田 剛一(すだ ごういち)/1968年生まれ。ゲームデザイナー。ヒューマン株式会社で『スーパーファイヤープロレスリング』シリーズ(SFC)や『ムーンライトシンドローム』(PS)を手掛けたのち独立し、98年、株式会社グラスホッパー・マニファクチュアを創立する。代表作は『シルバー事件』(PS)、『花と太陽と雨と』(PS2)、『killer7』(GC)、『ノーモア★ヒーローズ』シリーズ(Wii)、『シャドウ オブ ザ ダムド』(PS3、Xbox360)『ロリポップチェーンソー』(PS3、Xbox360)など。MAGES.会長の志倉千代丸とはヒューマン時代から親交が深い。
『アート オブ グラスホッパー・マニファクチュア』発売!
ゲームクリエイター須田剛一さんが率いる開発会社、グラスホッパー・マニファクチュア。その全アートワークが掲載された書籍『アート オブ グラスホッパー・マニファクチュア』(発行:パイ・インターナショナル、価格:2800円[税抜])が、2015年5月19日に発売されます。ここでしか見られない蔵出し資料、開発秘話がもりだくさん。すべてのクリエイターに読んでいただきたい、充実した内容になっています。書店、amazonなどで、ぜひご予約を。