第4回 偶像戦域(2) | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

『エヴァ』のスタジオカラーやアニメクリエイターが語る!
日本アニメ(ーター)見本市の“短編アニメ発想法”




敵側の科学者、ヒロインなど……。お蔵入りになったキャラクターたち


―― 『偶像戦域』には、とんでもない量の設定資料があるとお聞きしました。見せていただくことはできますか?

短編アニメの設定資料集とは思えないほどのボリュームとクオリティ
短編アニメの設定資料集とは思えないほどのボリュームとクオリティ。力を入れて作り込んでいたことがうかがえる
山下● はい。(分厚い設定資料集をドサッと机に出して)これです。

―― ……。これ、7分アニメの設定資料集ですよね? 長編映画が作れてしまうのでは……?

山下● いろんな人にそう言われました(笑)。実は、「設定資料には登場するけれども本編には登場しない」というキャラクターが、かなりたくさんおりまして。例えば、この科学者なんですが、彼は主人公たちの国を「侵略した側」の人物なんですよね。主人公たちの国には、密かに開発されていた新型爆弾が誤爆したことでできた「人が立ち入ってはいけない爆心地」というものがありまして。そこに立ち入って、地質や環境の変化を調査しているのが、この科学者というわけなんです。

結構細かく設定を考えたんですが、本編には、まったく、全然、一瞬たりとも登場させることができませんでした(笑)。他にも、敵の側のヒロインなどなど、考えたはいいけど出せないキャラクターが多かった。長編を前提に短編を作ったので、必然的に、お蔵入りになるキャラが増えてしまったんですよね。

―― なんだか、もったいないような気がしてしまいますね。

山下● そうですね(笑)。ただ、キャラや設定をいろいろと考えることで、本編に、より色濃く“ロードムービー感”を出すことができたんじゃないかと思っています。主人公たちだけが星の異変に気付くのではなくて、その周りの人間も異変に気付いたり、異変を調査したりしている。なかには主人公たちより、一歩も二歩も先に進んだ動きをしている人もいて……。そういう、幅のある世界を表現したいと考えていました。

―― 他に、カットしたキャラや設定などがあったら教えてください。

科学者について描かれた設定資料
科学者について描かれた設定資料。人物像がしっかり見える描き込みがなされている。ここからスピンオフ作品が生まれてもおかしくない!?
山下● 主人公たちが、「宇宙飛行士の選抜試験に漏れた予備宇宙飛行士である」という設定でしょうか。最初の段階では、先輩宇宙飛行士に「お前たち、選抜試験に漏れちゃったんだって? 次の機会にがんばれよ」と声をかけられ、会話するようなシーンが用意されていたのですが、尺の問題もあって泣く泣くカットすることになりました。登場させたかったキャラ、入れたかったシーンは、まだまだたくさんあるのですが、まあ、こればっかりは仕方ないですよね。なにせ、予告編ですからね(笑)。



『ガンダムUC』の古橋一浩監督が作る、OVAクオリティのセルアニメ

―― 『偶像戦域』はセルアニメとのこと。CGではないことに驚きました。どのような経緯で、セルを採用することになったのでしょうか?

山下● CGの制作スタッフが集まらず困っていたとき、たまたま『ガンダムUC』の制作を終えた古橋一浩監督に設定資料を見ていただく機会がありまして。古橋さんがサラッと「これ、セルで動かせるよ」というので、「あの『ガンダムUC』の古橋さんが言うんだから間違いない!」「サラッと作れるに違いない!」と思い(笑)、セルで制作することを決定しました。

ところが、まったくもってサラッとは制作できなかった(笑)。そもそも僕の絵は線が多いので、アニメ用に線を減らしてリファインするのが大変なんですよね。また、僕がパン(※カメラを固定し、セルを動かして撮影すること)を多用したがるため、机からはみ出すような大判原画を描いてもらうことが多くなってしまって……。きっとアニメーターさんたちは「せめて机の上で描けるサイズにしてくれよ!」「タップが置けねーじゃねーか!」と毒づいていたのではないかと思います(笑)。

「作画の枚数が1カット60枚を超えると、現場が悲鳴を上げる」と言われているなか、1カット400枚もの画を描いていただくことになってしまい、その上、大判セルが何枚も混じっていて……。古橋さんはじめ現場のみなさんには、かなりご負担をおかけしてしまいました。

―― そ、壮絶ですね。古橋さんがそこまでこだわって制作してくださった理由は、どんなところにあるのでしょうか?

山下● 僭越ながら古橋さんが、僕のファンだということでがんばってくださったみたいです。ちなみに制作進行を務めてくれた杉谷勇樹くんは古橋さんのファン。僕が古橋さんの描いたものをいじろうとすると怒るんですよ。で、お互いの描いたものを尊重していくうちに、どんどん妥協のない作品になっていってしまった、と(笑)。

―― 古橋さんから上がってきたアニメを見て、どのようにお感じになりましたか?

山下● 「俺たちの好きな80年代OVA、キター!」と思いました(笑)。さすが古橋さん。手描きアニメバンザイ、です!

いくとさんの描いたキャラクターデザイン画を、キャラクターデザイナーの金世俊さんがアニメ用にリファインしたもの
いくとさんの描いたキャラクターデザイン画を、キャラクターデザイナーの金世俊さんがアニメ用にリファインしたものがこちら。線が減ってハッキリとした印象になっている

こちらの設定画をもとにアニメ用のメカニックデザインが進められる
いくとさんといえばメカデザイン! こちらの設定画をもとに、アニメ用のメカニックデザインが進められた

庵野秀明さんからの、貴重な制作アドバイスとは?

―― 先ほど設定資料集と一緒に見せていただいた絵コンテに、「コンポジットには付き合ったほうがいいよ」というコメントが書かれた付箋が付いていました。あれはどなたからのコメントなのでしょう?

庵野さんの手書き付箋
庵野さんの手書き付箋。上のほうには、「忘れないように」といくとさんが貼りつけた、ショートカットコマンドが書かれた付箋が貼られている
山下● 庵野秀明さんからのコメントです。実は作画が進んでいる間、僕はデスクで、ひとりチマチマとキービジュアルのようなものを描いていまして……。それをうしろから見ていた庵野さんが、「こういう色にしたいんだったら、ちゃんと撮影さんのところに行って『色味はこうです』って指示しないとダメだよ」と、この付箋を残していってくれました。恐らく庵野さんは、撮影出身の吉崎響さんが『ME!ME!ME!』(「日本アニメ(ーター)見本市」で2014年11月21日に公開)を制作するのを見ていて、「PCでここまで調整ができてしまうんだ」「コンポジットの段階で、こんなに作品が変化するんだ」ということに、驚いたんじゃないかと思うんですよね。それで僕にアドバイスをしてくれたのではないかと。

その後、撮影を担当してくださったサンジゲンさんに伺って、みっちりコンポジットに立ち会いました。1回目は9時間、2回目は10時間も粘ってしまった(笑)。サンジゲンさんからしたらいい迷惑だったかもしれませんが、嫌な顔ひとつせず色味や動きを調整してくださり、とても完成度の高いものに仕上がったと実感しています。

―― 聞けば聞くほど、豪華な方々が時間をかけて作っている、贅沢な作品だということがわかりますね……。

山下● はい! 古橋さんの他にも、金さんをはじめとする『ガンダム』メンバーが参加してくださり、まるで“サンライズ別室”のような雰囲気でした。こういう座組みで贅沢な作品が作れるのは、「日本アニメ(ーター)見本市」という場だからこそ。既にいろいろな作品が上がっていますが、今後は、前衛的なものばかりではなくドラマチックな作品が増えるといいなあと期待しています。

最後に、これから短編アニメを作ろうとしている方に、ひとつだけアドバイスをさせてください。「予告編だけはやめておけ」(笑)。予告編は、長編映画のいいところだけを切り出して凝縮した、クライマックスの連続のようなコンテンツです。力を入れて作らざるを得ませんし、とても大きな制作負荷がかかるんですよね。もし「それでも作りたい」という猛者がいたら、覚悟を決めて挑戦を。きっと……、いい経験になるとは思います(笑)。



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山下いくと氏

【プロフィール】
山下 いくと(やました いくと)/1965年生まれ。漫画家、デザイナー。岐阜県出身で、現在も岐阜を拠点に活動を続けている。名古屋芸術大学美術学部を卒業後、漫画家として活躍。『ダークウィスパー』『風の住処 銀河標準時』を執筆する。『新世紀エヴァンゲリオン』『戦闘妖精雪風』といったアニメ作品のメカニックデザイナーとしても著名。その他、『ふしぎの海のナディア』『トップをねらえ!』『青の6号』『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』などのアニメ作品にも参加している。


【告知】
日本アニメ(―ター)見本市のサードシーズンが本日7月31日(金)より開始。

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