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【インドのデザイン、ビジネス&テクノロジーレポート】迫りくるインドの時代を垣間見た、PwCのインドセミナー

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【インドのデザイン、ビジネス&テクノロジーレポート】

迫りくる“インドの時代”を垣間見た、PwCのインドセミナー


昨年12月に、世界4大会計事務所ネットワークの1つPwC(プライスウォーターハウスクーパース)の日本法人(以下、PwC Japanグループ)が、同社のクライアント向けにディスカバーXというセミナーを開催した。中でも、現地からトップクラスの企業人や投資家ら5名(うち1名はストリーミングでの参加)を招聘して行われたインドセミナーは、世界のトップIT企業のCEOを次々に輩出しているインドの今を知る上で、非常に意義のあるイベントであった。ここではその概要を紹介し、今後、世界経済に中国以上の影響力を持つことが明らかな同国に目を向けるきっかけとしたい。

2019年1月24日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

少子高齢化とは無縁な人口構成と電子化の波


スンダー・ピチャイ、サティア・ナデラ、シャンタヌ・ナラヤン。これらの名前に、聞き覚えはあるだろうか? 彼らは、それぞれグーグル、マイクロソフト、アドビシステムズのCEOであり、皆、インド人である。

組織のトップがインド人でなくとも、技術者がそうであったり、顧客サポートを行うコールセンターをインド国内に持つIT系の企業は多い。日本では、まだあまり意識されない傾向にあるが、今やテクノロジーの世界は、インド人なしには回らない状態になっているとさえいえる。

インドという古くて新しい国を知らなくては、日本のビジネスが世界の潮流から取り残されるかもしれないという危機感。これは、筆者のみならず、近年の同国の動向やポテンシャルを知る人が一様に抱くものであろう。PwC Japanグループも同じ考えに基づき、日本とインドの架け橋となるインドセミナーを開催した。
インド大使館 臨時代理大使(イベント時点)の スリヴァスタヴァ氏

インド大使館 臨時代理大使(イベント時点)の
スリヴァスタヴァ氏

冒頭では、インド大使館臨時代理大使(イベント時点)のラジ・クマー・スリヴァスタヴァ氏があいさつに立ち、古くからの友好関係にも触れつつ、AI、IoTといった最新テクノロジーの領域で目覚ましい成果を上げているインドと日本企業の連携が生むシナジー効果への抱負が述べられた。

インドでは、様々なテクノロジーによって様々な問題を解決し、社会改革を起こすソーシャルイノベーションが注目されており、次々に誕生するスタートアップ企業も、その観点から事業を起こすケースが多いという事実が新鮮に感じられた。

購買力でEUや中国を抜きつつあるインド


次に、PwCコンサルティング合同会社の常務執行役でパートナーの野口功一氏が、現在のインドの国勢を示す基本情報について講演し、続くセッションの理解を深める助けとした。
PwCコンサルティング合同会社の常務執行役である野口功一氏

PwCコンサルティング合同会社の常務執行役である野口功一氏

中間層の台頭と豊富な人材資源を軸に拡大するインド市場

中間層の台頭と豊富な人材資源を軸に拡大するインド市場

同氏によるオープニングトークのテーマ「迫りくる”インドの時代”」は、まさに今回のセミナーを象徴するものであり、具体的な数字を挙げつつ、多方面から日本企業がインドに注目すべき理由を語っていった。

今後数年で、インドの中間所得者層の購買力は、日本や米国はもちろんEU全体をも追い越し、2020年代の後半以降は中国を抜いて世界第一位になると予想されている。また、世界有数の多国籍企業もすでに700ヶ所を超える研究開発拠点をインド国内に設け、スタッフの数は30万人規模に達した。

インドが少子高齢化とは無縁で、25歳以下の若者が総人口の半分を占めることは知っていても、その中間所得者層の購買力が、近い将来にEUや中国を抜いて世界トップとなる予測には、同国の経済や市場性に対する見方を変えた参加者も多かったのではないだろうか。

インドに根ざした製品開発で躍進するゴドレジ


インドからの最初のスピーカーであるヴィカス・チョウダハ氏は、121年の歴史を持つ総合巨大企業、ゴドレジグループ内のゴドレジ&ボイス・マニファクチャリング上級副社長を務める人物だ。デジタルイノベーションの専門家として社内のデジタルイニシアチブをリードし、ゴドレジ最大の開発拠点であるイノベーションセンターのチーフも務める。同氏は、「社会的・環境的な視点で事業を進めることが成功の鍵」と話す。

様々な分野のビジネスを広範囲に手がけているゴドレジは、日本でいえばパナソニックのような存在だが、その事業規模と多様性を何倍にも拡大したような成り立ちの企業であると考えればイメージしやすいだろう。

そのビジネス領域は60以上にのぼり、農業から食品、化学製品、医療、不動産、家電、家具、自販機、ソフトウェア、エアロスペースに至るまで、あらゆる分野を網羅しているといっても過言ではない。

ヴィカス氏は、ゴドレジの過去の歴史やマイルストーンとなった製品を紹介し、他国で成功したアイデアをそのまま持ち込むのではなく、インドの文化や社会的な特性を理解した上で、ソーシャルインパクトをもたらすプロダクトやサービス、そしてデザインを提供することがビジネスの秘訣であると結論づけた。
ムンバイ(旧ボンベイ)にあるゴドレジイノベーションセンター

ムンバイ(旧ボンベイ)にあるゴドレジイノベーションセンター

60以上に渡るゴドレジのビジネス領域を説明するヴィカス氏

60以上に渡るゴドレジのビジネス領域を説明するヴィカス氏

インド全体のデジタル化を促進するユニバーサルID


著名な投資家で25社ものベンチャー企業を立ち上げてきたビクラム・チャチュラ氏は、インドを第三世界から抜け出す上で金融・消費者分野に着目し、ソーシャルイノベーションを目指す起業家を積極的に支援している。

中国やシンガポールで行われる国際会議でも講演することが多いという同氏は、インドで急速に進んでいるデジタル金融改革について紹介した。特に、フィンテック分野のインフラが、中国では事実上2つのサービス(アント・ファイナンシャルとウィチャット・ペイ)に独占されているのに対し、インドでは政府が構築した技術をAPIを通じて公共サービス的に民間企業に開放し、自由な競争を促している点で大きく異なるという話が印象的だった。

こうした流れの核となるのが、アドハー(「基礎」や「土台」を意味するヒンディー語)と呼ばれるユニバーサルIDであり、これが国民識別番号として機能する。アドハーは強制ではないが、すでにインド総人口13億人の9割に相当する11億6000万人が取得済みだ。

日本のマイナンバーや米国の社会保障番号と異なるのは、アドハーには生体情報(指紋や虹彩)や標準で顔写真情報も含まれていて、本人確認や認証にも利用できるという点。以前には出生証明書がなく戸籍すら曖昧な人々も数多く存在したインドだが、アドハーの登場によって、一気に総人口の90%にあたる11億6000万人(2017年7月時点)が身分証明カードを所有することになり、これを基に銀行取引や個人間送金、各種のオンラインサービスが行えるようになった。これは、政府主導の政策がフィンテックや電子商取引を中心に大きなソーシャルインパクトをもたらした例といえるだろう。
先進的なユニバーサルIDの「アドハー」

先進的なユニバーサルIDの「アドハー」

インドでは日常的な個人間の送金例

インドでは日常的な個人間の送金例

インドではフィンテックのインフラを政府が構築し、それを民間企業が活用することで自由な市場競争が可能となっている。ビクラム氏は、フィンテックの普及という意味では中国も進んでいるが、こうした点でインドは大きく異なる道を歩んでいると説明した。
野外広告からも企業のモバイル&コネクテッドの戦略が伺える

野外広告からも企業のモバイル&コネクテッドの戦略が伺える

ちなみにインドでは、パーソナルコンピュータが普及する前にスマートフォンの時代が到来したため、アマゾンに代表される通販サービスやホンダのような自動車メーカーも、モバイルファーストのマーケティング戦略を積極的に推し進めている。
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