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地方の企業、地域自治体とデザイナーは関係が希薄? - WEB Design Explorer 第12回

2024.5.13 MON

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第12回 地方の企業、地域自治体とデザイナーは関係が希薄?



今、地方ではデザインによって地域活性を促す試みが行われている。自治体や企業、職人とデザイナーを合わせて新しい物や価値を生み出そうとする「マッチング事業」と呼ばれるものもそのひとつだ。ただ、地方で見かけるマッチング事業では、関係を性急に持とうとするばかりに、摩擦が起きることがある。

(文=吉田コマキ)


デザインで地域経済、地域市場を活性化したい地方


デザインで経済活性をしたいともくろむ地方は多い。昨今でもさまざまなアイデアで企業とデザイナーのマッチングを行う話や、自治体アイディンティティをデザインの側面から考える事業などよく耳にする。たとえば、工芸品が盛んな地方では、工芸職人とデザイナーをマッチングさせ、工芸品に現代のニーズに合ったデザインを施した製品へと成長させる事業。とある地方都市では、企業のCIに助成金を投じ、数十万円程度で企業CIをデザイナーに発注できる仕組みをつくり、活性化した事例。なかには、企業のプレゼンテーションを基に、デザイン案を募集、コンテスト形式で開かれるものもあり、地方で暮らすデザイナーにとっては、新しい顧客の開拓、または新しい分野へのチャレンジなども含めて期待に胸を膨らませるような事業もある。こういった事業の主体が官公庁系事業の場合、国や地方の税金で行われていることが前提だが、発注側の民間の企業が協賛という名目で参加していることも珍しくない。

事業遂行中から疑問が飛ぶマッチング事業


このような事業の中で、デザイナーが不在の企業はより良いデザインを得られるきっかけとなり、お互いに期待が持てることなのだが、なかには残念ながら事業の当初から疑問が持たれる場合も多く見かける。

たとえば、コンテスト形式の場合は、賞金自体が企業からの協賛である場合もあるのだが「賞金=デザイン費」、さらには「デザイン費には制作費含む」と、なっていることがある。その金額がデザイン費を賄えるだけの賞金額ならいいが、数万円程度だったらプロのデザイナーは応募するだろうか。仮に5万円の賞金額で、30ページ程度ある企業Webサイトの制作費が賄えるだろうか。賞金額3万円で、プロダクトデザインのさまざまな経費が賄えるだろうか。もちろん、地方の中小企業がそれほど予算を出せないという現実もあるだろう。それならば、この予算でつくれる“アイデア”を募集すべきかもしれない。しかしその場合は、プロではなく学生や駆け出しのデザイナーが、力試しに応募するものになるだろう。

もちろん成功した事例もあるものの、多くはすでにデザインで食べているプロのデザイナーが応募するような魅力的な事業にはならなかったのが事実だ。このような事業では、もしプロが応募したとしても、それをきっかけに始まった関係であれば、今後も低価格での制作を求められるのでは、という懸念がつきまとうし、さらに、発注側には「デザイン費とはそういうもの」という認識を植え付けてしまう可能性も否定できない。

地方の企業、地域自治体とデザイナーは関係が希薄


「デザイン費には制作費含む」というのは極端な話だが、ここで発注側と受注側の間に摩擦が起こっていることに注目したい。デザイナーによって差はあるが、たいてい制作費全体の10%程度に「デザイン費」と入れる場合があるが、時々、発注側はそれを「純粗利」と認識していることがある。予算が合わず、結局そのデザイン費を削って調整するデザイナーもいることから、そう認識されてしまうこともあるのだ。しかし、クライアントには、デザイン費にはさまざまな人件費が含まれていることを理解してもらう必要がある。デザイナーが考える時間、行動する時間、話を聞く時間、プロトタイプをつくる時間、といった発注側には見えにくいかもしれないが、デザイナーのかけている時間というのは膨大になることが多い。発注側には、なぜデザイナーが「デザイン費」を付けているのかを理解してもらい、デザイナーはなぜ「デザイン費」を付加しているのか説明できるようにしたい。

これは問題点のひとつにすぎないが、結局は、マッチング事業で発注側と受注側の共通認識、共通言語を持たずに性急に関係を持とうとしたばかりに、起こりうる摩擦ではないかと思う。

今後の課題と展望


前段の問題点は、いくつもある中のひとつの例だが、こうした問題や課題を放置したまま多くの事業は終わり、報告書にまとめられるだけということになる。主催側の立場になって考えれば、始まった事業そのものを変えることは難しいだろう。制度や予算の使い方など、さまざまな約束事の中で、主催側は事業を行っているのだから、それをまったく理解できないわけではない。しかし、企業とデザイナーの関係は事業の終了とともに終わり、継続しなかったという例は数多く聞かれる。経済活性の源にしたいと考えるのであれば、事業が終わったあとも関係が続く形づくりが大切なはずだ。簡単な問題ではないが、地域のデザイン事業の現状を踏まえ、互いにより良い関係を築けるような施策が今求められている。


総務省のサイトマッチング事業は、総務省などの各省庁や自治体ホームページでも案内が出ている。ビジネスマッチング、雇用マッチングなど形態はさまざま(www.soumu.go.jp/

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民間主導のマッチングもある。写真はサーフショップとデザイナーで実現したオリジナルのサーフボード(Green+Pokke104)

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2009年6月に行われた芸術工学会春期大会でも、地域デザイン事業の現状と問題点が語られる場が設けられた


Profile/吉田コマキ
ブロッコ・デリ・アーキテクツ(有)。沖縄在住のWebデザイナー。インタラクションデザイン等に従事。Webデザイナーやデベロッパー向けのイベントやワークショップを行う「Flash Flavor」(flashflavor.jp/)を主宰

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本記事は『web creators』2010 vol.98からの転載です。本特集全記事は誌面で読むことができます。
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