第3話 オリジナルの域を超える | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第3話では、セレクトショップ「MEZZANINE BOUTIQUE」(http://www.mezzanine
boutique.com/)のカタログ『CAHIER』の制作秘話に迫る。妥協せず、徹底的にディティールにこだわって作ったものは、仕上がりのクオリティが全く違うと話す平林氏。簡単なようで簡単にはいかない、その極意とは?



第3話
オリジナルの域を超える

理想に近づけるのではなく、
同等か、それ以上を目指す。




??セレクトショップ「MEZZANINE BOUTIQUE」のカタログ、『CAHIER』の制作コンセプトについて教えてください。

平林●「手に取った人がショップを訪れたくなるようなコンセプトブック」というのが大本のアイデアです。商品をただ紹介するだけのカタログとは異なります。ショップの考え方や雰囲気がビジュアルから伝わるようなものにしたいという、オーナーの意向を反映させたものでもあります。

??そのアイデアをどのように形にされたのですか?

新聞形態のビジュアルブック。丸めて太めのゴムで束ねられている 平林●オーナーが買い付けてくる服の多くには、ストーリーがあります。たとえば「デザイナーがどんな人で、どういうことを考えて作ったか」といったこと。そういった服のルーツを、服とともに見せたら面白いと思ったのです。そこで、商品の買い付けのタイミングに合わせてオーナーと2人でパリとベルギーを訪れ、実際にデザイナー本人や彼らの仕事道具などを撮影させていただいたのです。デザイナーのアトリエに行く機会なんて、滅多にありませんから非常に楽しかったです。

??体裁を新聞にしたのはなぜですか?

平林●多くの写真はオーナーと私が、普通のデジカメで撮影したゆるい写真でしたから、上質な紙にきちんと印刷してしまうと、粗さが目立ってしまうのです。その点、新聞なら紙質が粗いので、写真のゆるさや粗さが気にならないし、よりおしゃれな雰囲気を生み出せるのです。もともと新聞という形状はかわいいと思っていたので、作ってみたかったんです。
ちなみに、この媒体は粗さがポイントでもあるので、あえてざっくりデザインしています。普段はIllustratorの画面を6,400%にまで拡大させて、ガイドにぴったりラインを合わせる私なんですけどね(笑)。







??制作過程で最もこだわった部分はどこですか?

小口には小さな穴、天地にはローラーで押したような跡、徹底して細部を再現 平林●新聞をよく見ると、小口には小さな穴が均等間隔で空いていたり、天地にはローラーで押されたような帯状の跡があります。私はそういったディティールをリアルに再現しようと、徹底的にこだわりました。巷には新聞風なカタログはたくさんありますが、その多くが中途半端で、それらしく見せているだけなんですよね。
印刷はGRAPHさんに依頼しました。そして、本物同様に印刷できる印刷会社を探してもらったのですが、これがなかなか見つからなかったのです。そして「もうダメかも」とあきらめかけましたが、最終的にはGRAPHさんの粘り勝ち。実現可能な印刷会社を見つけてくださったのです。

??その他、折り込みチラシを挟んだり、四つ折りにした新聞を白い輪ゴムで留めたりと、小さな工夫がいっぱい詰まっていますよね。

平林●今回の場合、新聞をモチーフにしたわけですが、みんな何かを参考にして、少しでもそれに近づける努力をしますよね? 私の場合は、近づけるだけじゃなくて、それと同等か、もしくは超えることを目指しています。そのためには、ディティールにどれだけこだわれるかが大事。小さな積み重ねが大きな差になりますからね。けれども、実際には一歩手前のところであきらめてしまう人が多いのです。でも、それだと見る人が見たら「似て非なるもの」と見破られる。そのレベルを超えることが重要なのです。

(取材・文:山下薫 写真:谷本 夏)



次週、第4話は、「こだわる部分を見極める」についてうかがいます。こうご期待。

[プロフィール]

ひ らばやし・なおみ●東京都生まれ。1992年武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。同年資生堂(宣伝制作部)入社。「FSP」「PN」をはじめとする 資生堂での仕事に携わる一方で、MARY QUANT、MUJI、Toshiba「dynabook」、journal standardなどのグラフィックデザインを手がける。2002年より1年間ロンドンのデザインスタジオ「MadeThought」に出向。2005年 よりフリーランス。主な受賞に、NY ADC 金賞/銀賞、British D&AD 銀賞、JAGDA新人賞、東京ADC賞、東京TDC賞、グッドデザイン賞など。

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