第4話 こだわる部分、こだわらない部分を見極める。 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第4話 こだわる部分、こだわらない部分を見極める。

2024.5.24 FRI

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最終回では、先週のMEZZANINE BOUTIQUEのカタログに続き、同じくカタログ『WACOAL DIA 2006 AUTUMN & WINTER』と『journal standard luxe TWO THOUSAND SIX.』を取り上げる。そして同じカタログといえども、制作目的やターゲットにあわせて表現手段を巧みに使い分ける平林氏の幅広いデザインセンスにスポットをあてる。



第4話
こだわる部分、こだわらない部分を見極める。

目的を見据えていれば、
やるべきことは自ずと決まる。




??「WACOAL DIA 2006 AUTUMN & WINTER」のカタログの制作コンセプトを教えてください。

平林●「WACOAL DIA」は、ランジェリーメーカーのワコールから誕生した高級ブランドのひとつ。いつもはショーでコレクションを発表するのですが、このときは展覧会のようにディスプレイしてお客様にお披露目したのです。その会場で配布するカタログでしたので、「しっかり商品を見せるもの」「衣装展の佇まいを反映したもの」を提案しました。







??制作するにあたって一番こだわった部分は?

平林●商品の繊細さや高いデザイン性をいかにリアルに伝えるか、ですね。2006年秋冬コレクションのテーマが「宮廷からのモード」だったのです。商品も18世紀のフランス貴族を彷彿させる最新型のビスチェや、肖像画に描かれた首飾りがモチーフのレース素材など、とにかくディティールが美しいものばかりなのです。そこでカタログの仕様にこだわるのではなく、商品をリアルに再現することに重きを置きました。

??黒バックで黒いレースを撮影するのは、難しくはありませんでしたか?

平林●黒バックで黒いレースの素材感を伝える方法について色々調べてみたら、後ろからライティングして撮影された写真が多いことに気が付いたのです。けれども、これがスタンダードな手法かどうかはわかりません。そもそも私は基本的にカメラマンと撮影方法を相談して決めることはないんです。今回も「バックは黒で、後ろからライティングをしてディティールが伝わる写真にしてほしい」と伝えただけ。ちなみに、これは黒のバックペーパーで撮影したように見えますが、実はバックペーパーは白なんです。

??表紙の黒の質感はどのように表現されたのですか?

平林●これは4色プラス、マットニス。マットニスを入れないと、もっとギラギラした感じになります。それにスミ一色では黒がこんなに黒くならないし深みが出ないんです。

??「WACOAL DIA」の黒い本とは対照的なのが、「journal standard luxe」の白いカタログ。このカタログの制作コンセプトは?

平林●このカタログはシーズンの始めにお店に来た方に配るために制作しました。このシーズンのテーマは「スピリチュアルホワイト」。アンティークのリネンで作られた白い服がメインだったので、「白を活かしたカタログにしませんか」と提案しました。







??このカタログでは、表1と表4が背中合わせになるように折られていますね(写真参照)。

通常とは逆向きに折られたカタログ 平林●この仕事では、毎回「私だからこそ」の遊びが求められていると感じています。それを踏まえて裏表を反対にしてみました。実際には、通常通りに製版したものを逆に折っているだけなんです。だから印刷コストにも響かないし、制作上の手間もかさまない。印刷会社の方からは、「反対に折るとノドの側からほつれた糸が出てきてしまいますよ」と言われましたが、その粗さはコレクションの雰囲気にぴったりだと思ったのです。

??表紙にはナンバリングされたシールが貼られていますが、これにはどういった意味があるのでしょうか。

平林●リボンを結ぶとかスタンプを押すといった、なにかひと手間かけたカタログが、お客様にはもちろん、クライアントからも好評だったのです。そこで今回考えたのが、このシリアルナンバーを貼り付けるアイデア。シールラベルに1から2,000番まで手でスタンプをして、1枚ずつシールを手貼りしたんです。ひと手間かけたことで、アナログ感と同時に限定感を付加できました。シールラベルに手作業でナンバリングして、一枚ずつ貼り付けられた






手作業でナンバリングしたシールラベルが一枚ずつ貼られたカバー
??同じカタログでも「WACOAL DIA」と「journal standard luxe」では、考え方も作り方も全く異なりますね。

平林●そうですね。まずは、作ったものがどう使われるのか、目的を考えることが大事です。「WACOAL DIA」のように、商品をリアルに見せていくカタログなら、仕様に凝らないほうがいいこともあります。その代わりに写真の仕上がりにこだわったり、機能性を高めたりするべき。きちんと目的を見据えていれば、自ずと徹底的にこだわるべき部分や、いい意味で手を抜くべき箇所などは見えてくるものなのです。

(取材・文:山下薫 写真:谷本 夏)


「このアートディレクターに聞く」第3回平林奈緒美さんのインタビューは今回で終了です。次回からは森本千絵さんのお話を掲載します。


[プロフィール]

ひらばやし・なおみ●東京都生まれ。1992年武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。同年資生堂(宣伝制作部)入社。「FSP」「PN」をはじめとする資生堂での仕事に携わる一方で、MARY QUANT、MUJI、Toshiba「dynabook」、journal standardなどのグラフィックデザインを手がける。2002年より1年間ロンドンのデザインスタジオ「MadeThought」に出向。2005年よりフリーランス。主な受賞に、NY ADC 金賞/銀賞、British D&AD 銀賞、JAGDA新人賞、東京ADC賞、東京TDC賞、グッドデザイン賞など。

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