ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(後編)
ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(後編)
2011年5月23日TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
※本記事は「ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(前編)」「ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(中編)」のつづきになります。前編・中編をお読みでない方は、前編・中編からお読みください。
ライブドアショック以来(?)、ベンチャー市場の冷え込みと新たな起業家の登場が見られなくなってしまった日本だが、米国では最近MicrosoftによるSkypeの買収、LinkedInのIPOなど明るい話題が続いている。さらに700億ドルの企業価値と7億人のユーザー数を誇るFacebookと、Googleの買収話を蹴飛ばしたECのニューウェーブ・Grouponなどの今後の意思決定がどのように下されるかが大きな興味を引いている。また、もはや旧世代と呼ばれてしまうかもしれないAmazonやGoogleも、クラウドコンピューティングやモバイル、タブレットなどの新分野に次々と投資を行い、革新を続けている。
米国では巨大なIPO成功例も大型M&Aの報告も続くのに、日本では残念なことに目立った動きがない。日本の巨大IT企業を列挙すれば、楽天、DeNA、mixi、GREE、Yahoo! JAPAN、サイバーエージェントなどがあるが、あまりベンチャー投資に前向きなムードがない。これは彼らのような先行する巨大IT企業の責任というよりも、買いたくなるようなベンチャー企業が少ない、ということが実際なのだろう。とはいえ、彼らが国内ベンチャーにはほとんど興味を示さずに米国の有望ベンチャーへ投資ばかりをする実情と、IPOしてもさほどの資金を集められない現状を前にして、起業をひるむ若者が多いのもいたしかたない。
とはいえ安定した就職を目指しても、内定率60%以下という惨状もあり、にっちもさっちもいかないような状況だ。全体に閉塞感が漂うことになるのも無理はない。
このような現在の日本市場においては、最初からIPOを捨て、M&Aに絞り込んで起業することが打開策になるといえるだろう。現在考えられるより良い起業は、ソーシャルゲームやAndroidアプリに特化したベンチャーをつくり、低コストで(もしかすると手弁当で)運営し、App StoreやAndroidマーケット、Facebookプラットフォームなどで早期に実績を積み、それをトラックレコードとして先行企業に売り込むことかもしれない。
IPO狙いの場合は、ある意味一生続けてもよいと思えるような事業領域とモデルを選択することが重要かもしれない。しかしM&Aの場合は手っ取り早くつくれることと、すでに成熟しかけている市場があることが大事であり、儲かりそうなことをやる、ということが必要だ。そこに自分の嗜好を挟むことは禁物なのである。儲かりそうなことを急いで、コツコツと行い、早く売る。そこで得た資金を使って今度はIPOを視野に入れた起業につなげる。
IPO狙いで好きなことを仕事にするというのは一見正しいことのように思われるが、実のところ万にひとつの可能性でしかない。逆に、好きでもないことを儲かるからやる、というのも野心ある若者にとっては苦痛となる場合があるが、そういうドラスティックな決断を行えることもまた、ひとつの才能なのである。
MicrosoftがSkype買収を発表した際の会場風景
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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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