ポートフォリオの教科書ほか3冊
周りを驚かせるようなカッコいいアイデアやデザインは、一朝一夕で生まれるものではありません。情報や技術を取り入れつつ、日々感性を磨きながら、実践(現場)で鍛えていく。インプットとアウトプットのサイクルが大切。多忙なデザイナーのインプットを助けるべく、MdN Interactive編集部がオススメ本を紹介していくコーナーです。
いかに「自分」を売り込むか、それを仕事に結びつけるか?
『クリエイティブ業界に就職するためのポートフォリオの教科書』
ワークスコーポレーション1,900円+税
デザイナーに限らず、イラストレーター、写真家……と、グラフィックに関わるクリエイターにとって、自分の作品をまとめたポートフォリオは重要。媒体への売り込み、あるいはプロジェクトを進める上で、創作の向上心はもちろんのことだが、他人に「見せる」ための努力は怠ってならない。本書は広告/プロダクトデザイン/ゲーム/Web/モバイル/映像/CGなど、各業界への就職、営業のために必須なポートフォリオの指南書である。採用担当者の目を惹き、自分のクリエイションをいかに魅力的なものとしてプレゼンテーションするか──そのポイントを微に入り細をうがちながら、書名の通り「教科書」のような誌面で教授する。きれいなだけ、美しいだけ、グラフィカルだけ、そんなポートフォリオは自己満足。いかに見せる相手に「自分の能力」を伝えられるか? さまざまな構成、工程などの方法とともに、採用担当者に訊く「求められるポイント」を併せて掲載しているところもミソ。オンデマンド出版など、DTPによるポートフォリオの制作が可能なご時世だが、決して自己満足に終わらないメイキングとアドバイスに触れてみよう。あなたの仕事も、それで倍増するかもしれませんからね!
ラブ! ラブ! ヘルベチカ、ラブ!
『ヘルベチカ・フォーエバー』
ヴィクトール・マルシー+ラース・ミューラー/ビー・エヌ・エヌ新社4,800円+税
90年代初頭、新世代のグラフィック・アーティストのよる「フォント・ブーム」が巻き起こったが、そうしたクリエイターのなかでも突出した人ほど、欧文書体の王・ヘルベチカへの愛を語っていた。日本語を組むことができない書体であるが、その普遍さに多くの媒体で使用され、書体のことなど知らない素人さんであっても「ああ、あのベーシックな文字ね」とわかる不朽のタイプフェイス。広く世間に浸透し、一見どこにでもあるようなフツーの書体がなぜ注目を浴びるのかを問う、本書はいわば「ヘルベチカ愛」に満ちあふれた一冊だ。1950年代後半、マックス・ミーディンガーを中心にデザインされたこの書体、そもそもヘルベチカという名前も発祥の地「スイス」をラテン語で意味する語。そうした誕生から注目を集めるに至った経緯を、本書は制作当時の書簡や資料をもとに検証する。パソコン(特にMac)に組み込まれたことから、われわれは日常的に使っているタイプフェイスであるが、そのフツーさの裏側にある事実背景を知ることで、より「ヘルベチカ・ラブ!」な気持ちが高まっていくだろう。デザイン・プロパーだけでなく、広く一般的な良書好きにも手に取ってもらいたい、良質なドキュメンタリーに仕上がっている。なぜヘルベチカがこれほど愛されているのか──その答えがここにある。新時代の「デザイン・セオリー」を学べ
『デザイン・ストーリーズ』
ティモシー・サマラ/エムディエヌコーポレーション4,500円+税
ひとつのデザインが出来上がるまで、そこにはグラフィック(あるいはプロダクト)デザイナーがいるだけではない。クリエイティブ・ディレクター、コピーライター、版下作りやオペレーター、そしてフィニッシュを担う印刷業者……さまざまな人間を介して完成するデザインに血は通う。決してアカデミックな理論だけではなく、カタチを作るためのプロセスには、アイデアを実現するための人間的な交流も必要不可欠。本書はニューヨークを拠点に活動するグラフィックデザイナーである著者が、40のデザイン例をもとに「良いデザインとは何か?」「理論を実践に活かすための術」「生きたデザイン」といったテーマを掲げ、セオリーの実践とそれを超越した論を語るノンフィクショナルなデザイン書だ。さまざまな事例(現在の米国カルチャーを大小に渡り紹介)の制作過程はもとより、アマチュアからプロフェッショナルなクリエイターへの取材を通して「頭で理解するだけでなく実践!」を説く姿勢が素晴らしい。また、いくらコンピュータ機材によるハイテク化が進もうとも、モノ作りの基本はラフ描きにあるってことが伝わる。頭で考えるよりも手を動かせ。そうした新時代の「デザイン・セオリー」が詰まった一冊である。
クラシカルだけど「いまだからこそ」を感じる新雑誌
『オレキバ No.1』
六曜社1,000円+税
書店をなにげなくブラブラしていたら目に飛び込んだ大判の新雑誌。ん? これって植草甚一が責任編集を務めていた『ワンダーランド』(後の『宝島』)っぽいじゃん! ……と中身もろくに確認しないで買って、うちで確認したら『ワンダーランド』の版形とヨコ一緒。タテが少し長かったけれど、中面を見たら往年の「雑誌黎明期」を彷彿させる古くさくとも正統な造り&ザラついた手触りの紙質。雑誌マニアを自任するわたくし、いっぺんで好きになりました。副題というかキャッチフレーズは「いい大人の、ええ大人による、えい加減の雑本」とある。つまり、団塊世代に向けた雑本ということですが。ちなみに書名のオレキバとは、園山俊二『ギャートルズ』に登場したキャラクター(あのマンモスです)から。で、寄稿者はというと、池澤夏樹、北尾トロ、長濱治、寺崎央、小林泰彦など、多種多彩な活字人+写真も併せたノンフィションライターたち。加えて「コラムオレキバ」と題した小ネタ集は、まったく往年の「VOW」そのもの。カラーページを極力少なくし、シアンやアゼンタの単色インクで本文&写真を刷るところなんか、何度も書くが植草時代の『宝島』を彷彿させる。ヴィジュアル多用の雑誌が横行する時代、このようにクラシカルでページをたぐる手に触感が残る雑誌は貴重。デザイン的にはストレートすぎるけど、あえて紹介したかったベーシックな一冊です。
(文・増渕俊之)
(文・増渕俊之)
(更新日:2009年2月27日)




