「ソニーvsアップル 2社の対抗軸について考える──後編」



「ソニーvsアップル 2社の対抗軸について考える──後編」

2010年3月29日

TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

一貫した姿勢をみせるアップル

アップルの戦略はここ数年を見る限り、実に一貫している。

まず、自らの存在意義をハードウェアとしてのコンピュータではなく、「Mac OS X」そのものにあると再認識し、すべてのプロダクトをMac OS Xによって動かすことを決意した(いわゆるシングルOS戦略)。同時に、デスクトップの時代が終わり、コンピューティングはモバイルの時代へとシフトし始めていることに気づいてからは、ほぼすべての経営資源をモバイルデバイスの開発につぎ込み、結果として「iPod」という音楽(と、その後は映像や画像・ゲーム)を扱うことのみにフォーカスする“単機能の小型コンピュータ”を開発した。そして、超小型の通信機能付きパソコンとしての「iPhone」を生み出した。さらに、今年の4月は、クラウドコンピューティング時代の新デバイスとしての「iPad」を世に出そうとしている(筆者の予想では、アップルはやがてはMacBook、iPhone、iPadを、Wi-Fiと3G回線対応〈SIMカードフリー〉の2種類に分けてリリースしてくるだろう)。



発売が待たれるアップルのiPad

アップルは、Mac OS Xという優れたOSによって、すべてのデバイスをコントロールすること、および場所を選ばずにインターネットを利用できることを前提としたモバイルデバイスの開発にフォーカスする。Mac OSで、インターネット活用を前提とした持ち運びのできるデバイスをつくる。それがアップルだ。


アンドロイド採用ではソニーの反攻は不可能

それに対してソニーとは何か。いまのソニーは、総合電機メーカーがアップルのマネをしている、という様相にしかみえない。日本人としては非常に残念であるが、ハードウェアはアップルのマネ、ソフトウェアはGoogle頼りでは、勝てるわけがない。

2010年3月4日付のウォールストリートジャーナルによれば、ソニーはiPadクローンとiPhoneクローンの開発を進めているという。当然OSはアンドロイドになるが、筆者の考えでは、ソニーはアップルに100%惨敗するだろう。Palm OSのライセンスによる「CLIE」シリーズの失敗が、悪夢のように繰り返されることになるはずだ。



ソニーによるiPad対抗製品の開発を報じるウォールストリートジャーナル
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703502804575101013088128250.html


ソニーが本当にアップルの真似をするべきなのは、パクリのような形だけの製品コンセプトではない。製品を作るうえでの考え方そのものを真似るべきなのだ。はっきりいえば、ソニーは自分自身のOS(パソコン用のOSという意味ではない)をつくるべきだ。アンドロイドを採用することは緩やかな死を受け入れるのと同じことである。ソニーは自らのOSを開発し、ソフトウェアとハードウェアを完全一致させた製品をつくるべきだ。それはもしかすると「プレイステーション」を中核にして、「PSP」の携帯電話化や、「PS3」をベースとした“お茶の間の電脳化”かもしれない。

アップルの侵攻を止められるのは、日本ではもはやソニーしかいない。しかし、その反攻のために残された時間はもはやわずかだ。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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