“Webは死んだ”は過渡期に過ぎない(後編)



“Webは死んだ”は過渡期に過ぎない(後編) 2010年10月18日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)


※本記事は「“Webは死んだ”は過渡期に過ぎない(前編)」の続きになります。前編はこちら

WebはメールやP2P(Skypeなど)、あるいはiTunes StoreやApp Storeのようなモバイルアプリのプラットフォームなどと同じ、インターネットを利用するうえでのプロトコルのひとつである。2000年代までは「Web 2.0」と呼ばれたようにWebこそがすべてのインターネット利用のプラットフォームになるという認識が一般的だったが、2010年代には、再びデバイスにインストールする組込型のアプリケーションによるネット利用のトラフィックが増えているようにみえる。

この事象をとらえて“Webは死んだ”という過激な意見を唱える風潮がが生まれつつある。代表的なのが、『「FREE」 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』の著者であるChris Anderson氏がWIRED誌で発表した「Web is dead.」というレポートだが、それはまちがった認識だ。Webのトラフィックは相対的なシェアこそ、モバイルインターネットの伸張に比例してiPhone/iPadあるいはAndroid上のアプリケーションによって奪われているが、絶対的なトラフィック自体は順調に伸びている。

まとめると、PC上では明らかにWebはクラウド化が進み、Webアプリによる利用が加速しているが、急速に普及し始めているモバイルインターネット上では、組込型のアプリケーション利用によるトラフィックがWebのそれに勝っている、という状況だ。モバイルインターネットはPCに10年近く遅れて成長を開始した勃興期にある。だからPC同様に、Webアプリケーションの普及開始前に組込型のアプリケーションの利用が始まっているだけなのだ。

米Microsoft社のCEOであるSteve Ballmer氏は、The Wall Street Journal主催のAll Things Digitalカンファレンス(通称D8)に登壇した際、米Google社が(組込型OSである)「Android」と(クラウド型のOSである)「Chrome」というふたつのOSを開発していることについて、一貫性がないと非難した。米Google社はWebアプリケーションの普及による、Webのトラフィックの最大化を狙うことで生きている企業でであるのに、組込型のAndroidを開発するのはおかしい、というわけだ。

米Google社はWebの純粋な信奉者であり、すべてのアプリケーションをWeb化してクラウドに置くことを理想としている企業だ。だから、同社の本命はあくまでChromeであり、Androidは過渡的な存在なのである。

前述のように、PCの世界においては、いまや驚くほどの速度でクラウド化が進んでおり、アプリケーションのWeb化にも弾みがついている。しかし、PCより脆弱なプラットフォームである携帯電話や家電といったデバイスでは、これから本格的なコンピュータ化やネット化が始まろうとしているところだ。だから、それらのデバイスに向けて、いきなりクラウド型OSであるChromeを提案しても、各業界からの反発あるいは無理解の壁に阻まれることは必至だ。だからGoogleは、過渡的なOSとしてのAndoroidの普及に努めているのだ。

iPhoneもiPadも米Apple社によって完全に制御された世界の中にある。

世界的にみる限り、モバイルインターネットはiPhoneによって切り拓かれた。Googleの立場で見れば、放置しておけばモバイルインターネットはiPhoneによるクローズドな世界となってしまう。しかしChromeによるクラウド化を狙うのには時期尚早にすぎる。だからAndroidをリリースして、来るべき真のオープンインターネット時代につなげるべく、iPhoneの市場独占を妨げようと考えたのだ。

とはいえ、米Apple社自身も、米Google社が目指すオープンなWebプラットフォームを否定しているかというとそうでもない。確かに米Apple社はほぼすべての製品を、完全に制御された世界の中に置いており、洗練された調和性の高い世界観の中で商品やサービスを提供することを目指している。しかし、同時に彼らは次世代のWeb標準技術として注目されるHTML5を積極的にサポートしており、Google同様にオープンで自由なWebのプラットフォームの普及についても、十分な理解と支援を惜しまない。そのうちには、iPhone上においてもブラウザーベースのWebアプリケーションの利用が一般的になるに違いない。

つまり、数年後にはモバイルインターネットにおいても、組込型の閉ざされたプラットフォームではなく、PCの世界と同様に、Webアプリケーション全盛の時代が来る。そのときこそ、Web 3.0と呼ぶべき世界が我々の前に広がってみえることだろう。



The Web Is Dead.の記事


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。

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