Mac OS X Lionに見られるソーシャルメディア的開発手法



Mac OS X Lionに見られるソーシャルメディア的開発手法 2010年10月25日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)


米Apple社は、2011年夏に発売開始とされる同社の次期オペレーティングシステム「Mac OS X」を、“Lion”(ライオン)というコードネームで発表した。





アップル-Mac OS X Lion
http://www.apple.com/jp/macosx/lion/


このLionは、同社のモバイルガジェット群であるiPhone、iPod touch、iPadに採用されているiOSに非常に強く影響を受けているのが特徴だ。


現時点で一般向けPCのオペレーティングシステムをつくっている企業と言えば事実上米Microsoft社と米Apple社の2社ということになるが、両社のOSの開発手順は、これまではつねに上位レイヤーにある、より高機能で複雑な構造をもつOSが先にあり、その簡易版としてモバイルやネットブックなどのコストメリット重視の商品へのOSが開発されるというステップだった。

しかし、今回のLionに関しては、逆に、Mac OS Xをベースに開発されたiPhone/iPad用のオペレーティングシステムが独自進化してiOSになり、そのiOSに取り入れられたさまざまな機能やサービスがMac用に“逆輸入”されている。

実のところ、ソフトウエアの普及という点で言えば、企業と個人の間では、同じような逆転現象はかなり前から始まっていた。インターネットが普及する前では、資金力に勝る大企業がまず社内のOA環境を整え、LANやWANなどのネットワークを取り入れた。さらに、インターネットが世に出ると、そのテクノロジーを取り入れたイントラネットやグループウエアなどの情報共有システムを採用する。そうした技術や製品が徐々に低価格化することで、中小企業に行き渡り、やがて個人でも使えるようになる。

ところがブラウザとWebがインターネット利用の基本プラットフォームになってからは、この状況が変わる。まず一般のネットユーザーがEメールやP2P的なチャットシステムなどを使い始め、それが企業にも採用される。BlogやTwitterなどのソーシャルメディアも消費者の間で熟成されてから、企業の参入も始まった。

今回のMac OS X Lionにおいても、まず消費者向け、大衆向けに考案されたシンプルなユーザーインターフェイスやテクノロジーを持つ下位レイヤーのオペレーティングシステムが熟成し、それが上位レイヤーであるオペレーティングシステムに採用されるという逆流現象が起きている。

現在のインターネットは、モバイルとソーシャルメディアからのトラフィックの急激な増大に応じて大きく変化し始めているが、今回のオペレーティングシステム開発の局面においてもその影響が強く見受けられるのである。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。

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