GrouponのIPO申請は吉と出るか凶と出るか（前編）
TEXT：小川 浩（株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター）
米GrouponがIPO申請した。IPOとは新規株式公開のことであり、申請を行うと当然のことながら現状の業績と今後の成長戦略を公に開示しなくてはならない。現時点でのGrouponの業績はこうだ。
2010年度の売上高はおよそ7億1000万ドル。なんと前年度比で20倍以上に成長している（登録ユーザー数は8000万人を超えている）。さらに2011年の第一四半期（1-3月）の売上高は約6億5000万ドルであり、この時点で昨年の売上高にほぼ匹敵する数字を達成した。
しかし、企業本来の目的である利益計上の面では2009年に690万ドルの赤字、2010年では4億5000万ドルの赤字、2011年の今年はすでに1億5000万ドル近い赤字を垂れ流している。この時点で日本ではとてもIPO申請できるような会社ではないのだが、米国では相当な累積赤字を覚悟で成長を優先させる経営手法はそれほど珍しくない。古くはAmazon.comが良い例だ。
とはいえ、さすがにここまでの赤字額にGrouponのIPOにネガティブな印象を持つ向きも少なくはない。なんといってもGrouponの塁損金額は実に6億ドルを超えているからだ。Grouponはフラッシュマーケティングと呼ばれるように、短期間で大量のクーポンを拡販し、消費者をWebから実際の店舗に誘導するO2O（オンライントゥーオフライン）型のビジネスを行っている。このO2OにはFacebookもGoogleも、新たなビジネスモデルとして注目しており、参入企業が今後ますます増えていく領域だ。さらに現状でも直接ライバルとしてはLivingSocialが順調に成長しており、必ずしも先行するGrouponが圧勝できる保証はない。たまりにたまった累積赤字を解消できるかどうか、わかったものではないのである。しかし、それでもGrouponは成長を最優先してしばらくは赤字計上を続ける覚悟らしい。
B2CにおいてはTwitterを見ればわかるように、利用ユーザー数を増やしトラフィックの拡大をすることを優先して、広告事業やデータベース事業に対する期待値を上げていくことは受け入れられやすい。日本でも、度合いの差はありこそすれ、気分的には同じだろう。
しかしB2Bにおいては、前述のように米国ではよくあるものの、日本国内では累積赤字を急拡大することを容認して売上拡大を目指す戦略は、なかなか採用できるものではない。仮にそれもやむなしと踏み切ったところで、赤字幅の拡大に怖じ気づいて、掛け金を渋ったり、事業戦略に迷いを生じたりして、ティッピングポイントを迎える前に方針を翻してしまうことがほとんどだ（B2Cの代表格ともいえるサイバーエージェントのアメーバ事業の成功は、30億円以上の累積赤字を生んでなお市場シェア拡大を狙った、国内では数少ない事例のひとつだろう）。
この“肉を切らせて骨を断つ”的なビジネスモデルを採用できる日本企業が少ないのはなぜか？ Grouponが路線を変更せずにIPOに向けて邁進できるのはなぜだろうか？ 次回は、日本のベンチャー事情に当てはめてて本件を考察してみよう。
（後編に続く）
Groupon
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［筆者プロフィール］
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ（毎日コミュニケーションズ）、『Web2.0BOOK』（インプレス）、『仕事で使える!「Twitter」超入門』（青春出版社）、『ソーシャルメディアマーケティング』（ソフトバンククリエイティブ／共著）などがある。
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