GrouponのIPO申請は吉と出るか凶と出るか(後編)

GrouponのIPO申請は吉と出るか凶と出るか(後編) 2011年6月20日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

※本記事は「GrouponのIPO申請は吉と出るか凶と出るか(前編)」のつづきになります。前編をお読みでない方は、前編からお読みください。

米Grouponの上場申請に対して、その成長速度と将来性への期待を込めて「当然の選択」と考える人もいれば、巨額の赤字を出し続けることと競合相手の多さから将来を悲観したり「詐欺まがいの行為」と非難する人もいる。この違いはどこから生まれるのか。

Grouponは、オンラインのユーザーをオフラインである店舗へと向かわせる。店舗に客を連れていって初めて代金をいただく、というビジネスだ。これを最近ではOnline to Offline(O2O)という。単純に見えるが、このO2Oを実践してみせたことが、ほかのネットビジネス業者に強烈な衝撃を与えた。

GoogleがGrouponを買収しようと企み、果たせないと知ると即座にクローンサービスの開発に着手する。Facebookもまた、Facebook Deals(日本ではFacebookチェックインクーポン)をはじめて、O2Oサービスへと進出した。

Grouponのビジネスモデルをクーポン事業ととらえるのは正確ではない。また、フラッシュマーケティングという呼び方も、たまたま一日一品のクーポンからスタートしたからそう言われだしたが、実のところ、これも実態を示していない。それらは初代iMacが登場した際に、フロッピーディスクの有無を取りざたしたり、ディスプレイ一体型のWindows PCクローンが多く登場したのと同じ現象だ。つまり、間違った認識のもとに数多くのコピーサービスが市場に参入し、累々とした死骸を残していく様と同じなのである。Grouponを初の本格的なO2Oサービスと考えることによってのみ、その凄さを理解することができるのだ。

逆にいえば、単に財務諸表を見ているだけではGrouponがもたらした革命の意味がわからない。銀行系機関投資家が主導する日本のベンチャー投資事情からすると、Grouponは単なるクーポンビジネスであり、リクルートが確立した事業の二番煎じにしか見えないだろう。

もちろん米国の投資家からしてもGrouponがシェア拡大に際して無制限に赤字を積み上げていくことに対する懸念は抱いている。しかし、先述のように先行するGoogleやFacebook、(対抗馬であるLivingSocialに投資をした)AmazonらがGrouponに対抗意識をむき出しにしているという事実が逆に、Grouponの価値を証明していることになっている。

つまり、Grouponが巨額の赤字を抱え、さらに積み上げていく可能性があるにも関わらずIPOにこぎつけられるのは、Grouponのビジネスモデルの革新性を理解できる、投資家および先行するネット企業が存在するからである。

Grouponが未来永劫成長するかどうかはおいて、少なくともO2Oビジネスの先駆者であり、追いすがるGoogleやFacebookらと対抗していくにはさらなる投資で差を大きく広げておくしかない。Googleの買収提案を受けて中途半端な結末を迎えるのではなく、挑戦することを潔しとする、アメリカ人のフロンティアスピリットがGrouponの情熱を支えているのである。



Groupon



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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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