さまよえるWebOSチームはAndroidに再度勝負を挑めるか?

さまよえるWebOSチームはAndroidに再度勝負を挑めるか?
2012年08月20日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

2010年に旧PalmからHP傘下に入ったWebOSチームが、今度はGRAMという名の新会社として分社化される模様だ。

WebOSとは、もともとPDA(最近では完全に死語だが、Portable Digital Assistantの略で、携帯型情報端末のこと。これに通話機能をつけたものがスマートフォンの原型といっていい)用のOSを開発していたPalmが、起死回生の切り札として創りだしたモバイル用のモダンOSだ。考え方としてはLinuxとWebkitをベースにしており、AndroidというよりはChrome OSに近い。

HP傘下に入ってからは、自社製スマートフォンのOSとして開発が進められてきたが、結局鳴かず飛ばずで、2012年の年初にはオープンソース化が発表されてもいた(つまりAndroid対抗の無償型OS戦略をとろうとした)。それが今回、別会社化して、新たな戦略に打って出るというのはいささか驚きでもある。

インターネットを軸として発展するIT業界では、ソーシャル化とモバイル化が二大トレンドになっている。ソーシャル化はさておき、モバイル化ではiPhoneに代表される携帯電話型のモバイル端末と、iPadに代表される、やや大きめのタッチスクリーンをもつタブレット型端末が主役となることはまちがいなく、タブレットでは外部入力デバイスやディスプレイなどの開発を行うサードパーティとのエコシステムによって、やがては既存のノートPCやデスクトップPCの分野も駆逐していく、次世代のコンピューティングであることが確実だ。さらに、その分野でほんとうの成長をはたしていくには自前のOSがなくては戦えない、ということをHPはやはり理解しているといえるだろう。

SamsungはAndroidにフォーカスすると同時に、Apple製品のクローン化を図ることで(副作用として訴訟されてしまっているが)世界中で存在感を増している。いわば中身はGoogle、外見はAppleという製品づくりを確信犯として行っている。

そのほかのHTCなどの単一のハードウエアをつくるメーカーであれば、AndroidなどのOEM供給を受けて端末をつくっていればまだいいが、HPや東芝、日立、ソニーといった総合電機メーカーのほとんどは、単なる端末メーカーとしてはその巨体を維持できない。デザイン面でも負けて、OSも他力本願ならば、もはや勝負は値段だけでしかなく、日本メーカーは中国メーカーに太刀打ちできなくなることは疑いない。

今回のHPの施策はある意味最後の切り札かもしれない。分社化することでWebOSチームに相応の裁量権と予算を与えるとともに、これでダメならほんとうにスマートフォンやタブレットの事業には見切りをつける決意がついたのだろう。

同時に、WebOSチームはPalmの残党として生き残りを賭けて戦うチャンスをもう一度与えられたことをラッキーに思っているかもしれない。つくづくベンチャーは自社テクノロジーに強いこだわりを持たなければならないと思う。もしPalmがWebOSの開発を2010年に間に合わせていなかったら、HPはおろか、誰も彼らを支援してくれなかったろう。

新生Yahoo!(米国)は、What is Yahoo?(Yahoo!はテクノロジー企業なの?それともメディア企業なの?)と揶揄されることが多いそうだが、WebOSチームは形を変えこそすれ、自分たちのオリジナルテクノロジーにこだわったことで悲哀を味わいながらも、今の今まで生き残れている。


WebOS




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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