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「IBM社内のMac導入テストに学ぶべきこと」
2008年4月22日

TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)



アップル社とIBMは、過去に何度か接近したり、遠ざかったりする間柄だった。

両者が最初に衝突したのは、1981年のこと。アップル社のAppleIIが大ヒットを記録しているときに、IBMはマイクロソフトの協力を得てIBM PCを発売した。アップル社は、この動きに対してウォールストリートジャーナルに有名な“Welcome, IBM. Seriously.”(「ようこそ、IBM。心から」)の広告を打ち、その後何年にも渡って続く両社の戦いの火蓋が切って落とされた。

時は流れ、マイクロソフト+インテル連合の力が強大になりすぎることを恐れたIBMは、1991年アップル社に対してRISCベースのマイクロプロセッサの共同開発を持ちかける。ちょうど、MacintoshラインのCPUであるモトローラ68000系MPUの先行きに不安を抱いていたアップル社は、これを受け入れ、モトローラ自体も巻き込んだ三者体制でPowerPCの開発を行った。

同じ年に、アップル社はIBMと合弁でマルチメディア技術の開発と普及を目指すカライダ・ラブズ社を設立。翌1992年には、同じく共同でオブジェクト指向OSを開発するタリジェント社を立ち上げた。しかし、両社の企業文化の違いは大きく、PowerPCを除いて、その協力体制が実を結ぶことはなかった。

さらに1997年にアップル社は日本市場をターゲットにしたノート型MacのPowerBook 2400cを発売したが、これは日本IBMと共同開発された製品だった。このときにも日本IBMの技術者たちは、納期よりも製品デザインを重視するアップル社の仕事の進め方に驚いたと話している。

そして、2004年12月に中国のレノボにPC部門を売却すると、IBMは事業の主体をハードウエアからソフトウエアに移行し、Windowsに固執しないオープンシステムベースのシステムインテグレーターとして、Linux勢力の一翼を担う存在へと変化を遂げた。と同時に、IBM側にはアップル社と対立する根源的な理由がなくなったのである。

その結果、IBMは、アップル社がiPhone 2.0のリリースによってエンタープライズ市場への参入を目指していることを歓迎し、同社製の無償オフィススイートであるLotus SymphonyのMac版を2008年前半に発表予定であるほか、Lotus NotesのiPhone/iPod touch向けクライアントソフトを開発中だ。

だが、もっと驚くべきなのは、同社のリサーチ・インフォメーション・サービス部門が、スタッフの使用マシンをThinkPadからMacBook Proへと移行する試験運用を始めたことであろう。ラフリー・ドラフテッド誌の記事によれば、Mac導入の理由として、セキュリティ問題の少なさ、リサーチと縁が深い教育市場での普及、新採用スタッフからの希望、IBM社内でのMacを利用した開発環境の充実、コンシューマーおよびビジネス分野におけるクライアント環境としてのMacの成長などが挙げられている。

4カ月のテスト期間の後、調査に協力した22名のスタッフのうち18名が、ThinkPadよりもMacBook Proのほうが「より優れた、あるいは最高の使用体験をもたらした」と答え、19名が「今後ともMacを使い続けたい」との希望を述べたという。

もちろん、今はまだ必要とするソフトのMac版がない場合も多いが、「VistaよりもMacのほうが使い方を覚えやすい」、 「Parallels環境でWindows XPを走らせられる点も素晴らしい」というコメントを受けて、IBM自身、社内向けソフトのMac対応を進めている。

往事を知る人間から見ればIBMも変わったものだが、その根底には、物事を先入観や既存の価値観で判断せず、自らの検証を通じて最良の選択肢を見極めようとする技術者的精神が感じられる。IBMの事例が他のすべての企業に当てはまるわけではないとしても、参考にすべき点は多い。そう思えたエピソードだった。



大谷和利氏近影

[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/)アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodを作った男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』(アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。




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