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印刷所で廃棄されるヤレ紙をそのまま使用「第63回 富山県デザイン展 優秀賞」の名刺や再生古着に注目

2023.12.19 Tue

2023年11月に開催された「第63回 富山県デザイン展」で、優秀賞の1つに「高岡市 ヤレ紙名刺・封筒」が選出されました。株式会社ROLEがデザインを手掛けており、印刷会社で本来であれば廃棄されるはずの損紙(ヤレ紙)を活用した “古紙再生プロジェクト” の印刷物です。

印刷工程で必ず発生する「ヤレ紙」

「ヤレ紙」は、印刷機で刷るときに品質を保持するための調整(試し刷り)で発生する損紙です。チラシやポスターやパンフレットなど、一般的な印刷製造の過程では「ヤレ紙」が生じることを避けることはできません。その紙を無駄にせず、そのまま上書き印刷したのが今回の「高岡市 ヤレ紙名刺・封筒」です。市役所の職員名刺などに用いられ、10月から本格的に配布されています。

印刷の現場では必ず発生する「ヤレ紙」

クリエイティブスタジオのROLEは、普段から「ヤレ紙」を有効活用する方法を印刷会社に相談して模索していました。しかし、権利関係の問題も障壁となって、大きなアクションへつなげることには苦戦していたそうです。

そこで、「市の公式な発行物であれば権利関係は市で管理できるので、ヤレ紙を利用して再び市の印刷物に転用ができるのでは」という視点から、職員名刺へのヤレ紙の活用に向けたチャレンジを始めました。その結果、職員名刺への採用が決まり、さらに市のプロジェクト担当側からも「環境イベントや来年の20歳の集いで配布する封筒も作り、若者世代へ訴求するのはどうか」とアイデアが広がりました。

ヤレ紙を使用した名刺・封筒

「失敗」の印字をあえて残したデザイン

名刺の具体的なデザインでは、ヤレ紙にもともと印刷されていた印字もあえて少し残すことで「分かりやすい・伝わりやすいアップサイクル」が表現されています。「ヤレ紙」のパターンには複数あり、それらをバラバラな個性として巧みに取り入れたデザインです。

全紙サイズからの独自リサイクルのデザイン過程

「ヤレ紙」の代表的なパターンの1つは「版ずれ」です。一般的なオフセット4色印刷ではCMYKの4色のインキが順番に刷られ、そのときにそれぞれの「版」がズレた状態は本来であれば「失敗作」とされます。

「ヤレ紙」が生じるパターン:版ずれのイメージ

そのほかには「濃度調整」で生じる「ヤレ紙」もあります。オフセット印刷ではローラーにインキを転写して紙へ刷り込んでいきますが、印刷を始めて最初のうちはしばらくはインキの定着が安定しません。そのため、狙った濃度になるまではしばらく印刷を繰り返します。その濃度調整の工程で、廃棄する「ヤレ紙」が出てきます。

「ヤレ紙」が生じるパターン:濃度調整のイメージ

同様に「色味調整」でも「ヤレ紙」が発生します。版ズレがなく、濃度調整が適切に済んだ後でも、赤みがかったり青みが強かったりと「色がころぶ」ことがあります。そのような状態の「失敗作」も、本来であれば「ヤレ紙」として捨てられる運命にあります。

「ヤレ紙」が生じるパターン:色み調整のイメージ

これらの「失敗」による本来であれば廃棄処分されてしまう紙を、今回の名刺・封筒ではあえてほぼそのままの状態で再利用しています。意図的に元の印刷を残すことで、それを逆に面白い印象につなげたデザインです。紙の種類も柄も厚みもバラバラであるため、「ついいろいろなパターンを探してみたくなる」という副次的な効果もあるようです。

原材料が古着100%のTシャツも受賞

ちなみにROLEが手掛けたデザインは、もう1つ「第63回 富山県デザイン展」の優秀賞を受賞しています。古着を原料にした機能的な服作りのブランド「ROLE YOURS」の仕事です。

廃品の古着に抗菌・防臭などの新たな “機能” を付加させた「あたらしい古着再生」

このプロジェクトは、アパレルメーカー「ALL YOURS」とともに、2022年に立ち上げられました。「ALL YOURS」は着なくなった服の回収に取り組んでおり、2022年の7月にJR東日本のグループ会社と共同で、一般からの回収を実施しました。

回収された大量の古着

1週間で約300kgが集まったという服の大半は原料リサイクルに回されますが、まだまだ着られる状態の古着を有効活用する方法として生まれたのが「ROLE YOURS」です。リサイクルともアップサイクルとも少し異なり、“新しい視点の循環”を作る実証実験的なプロジェクトとして展開されています。

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持続可能な社会の重要性が説かれる昨今において、ROLEのデザイン活動もとても興味深いものでした。「第63回 富山県デザイン展」でのW受賞も、このようなデザインが社会的に注目されていることの表れと言えるでしょう。

特に印刷における紙の無駄やそのほかの環境負荷は、印刷物にまつわる仕事をしている人にとっては、日頃から意識しておくべき問題です。今回のトピックは、そのことをあらためて思い出させてくれる意義深い内容でした。

株式会社ROLE
URL:https://www.role.ne.jp/
2023/12/19

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